空色なキモチ

□ 満月の夜に見る夢は □

満月の夜に見る夢は 第5章 第65夜 記憶

 
 翌週の月曜。


 結局雪乃をひとりで家に残すなら会社に連れて行ったほうがいいと思い、一緒に出社した。
 
 雪乃は入社した時から早く出社する癖がついているようで、早く行きたがる。
 俺はいつもバラバラで八時少し過ぎにつくこともあるし、遅い時でも八時半くらいまでにはオフィスに入るようにしているが雪乃は八時には入っているという。偉いよなと改めて感心してしまう。

 それにあわせて出社したら、いつもは俺より来るのが遅い直属の上司の中野なかの部長と新井あらい係長、雪乃の上司の南雲係長が部長の席の前に立っていた。
 
 ふたりでオフィスに入ると、部長を含む上司が一斉にこっちを振り返った。


「雨宮くん! 待っていた……って! 風間くんっ!?」

「大丈夫なのか? 風間さんは? それに……いい、とりあえず雨宮くんは部長と話をっ」

「風間さんはこっち! 心配したよー。元気そうでよかった!」


 かわるがわる四人が俺たちに訴えかけるようにマシンガン攻撃で話しかけてくる。
 あれよあれよという間に俺は部長と課長と新井係長と共に第一会議室へ、雪乃は南雲係長と共に第二会議室へ入れられてしまった。


 驚いたような表情で一瞬こっちを振り返った雪乃が心配でしょうがなかった。
 だけどあっという間に会議室に押し込まれ、どうにもならず……。


「あの……彼女、風間さんは仕事の記憶はあるようですが、まだ混乱しやすいんです。ひとりにするのは不安なんですけど」

「大丈夫! 南雲係長に任せよう。ちゃんと挨拶して普通に話していた」

「ですが……」

「それより、君に訊きたいことがあるんだ」


 目の前の席に部長と課長と新井係長が並んで座り、まるで説教食らう直前のような感じになってきた。
 訊きたいことって改まって言われるとひやひやするのだが……この部屋寒いし。

 それに雪乃のことは俺にとって最優先事項なのに“それより”でかわされるのはいい気持ちはしない。

 まだ仕事前なのに雪乃と切り離されたのといきなりの呼び出しで、やや不機嫌に席に座るとじっと見つめらられていた。やべ……さすがに態度悪かったか? 

 すると急に部長が少し身を乗り出して、真剣な面持ちで訊いてきた。


「君は風間くんとつき合っているのかい?」


 ――――それかよ!

 心の中でつい、そうつぶやいてしまった。
 もっとすごいことを訊かれるのかと思ってひやひやしたじゃないか! 
 無駄に構えた俺の緊張感を返せ! と罵りたくなるくらいだったが目の前にいるのは上司。
 押さえて、押さえてと自分の心の中で呪文のように繰り返して小さく呼吸を整えた。


「はい」


 その通りだから肯定すると、上司三人が大きなため息をついた。
 しかも落胆したような、そんな感じで。三人は目を見合わせ、大きくうなずきあっている。

 なんだ、感じ悪いなと思った時、部長が俺のほうを向いて口を開いた。


「悪いことは言わない、別れなさい」


 冷ややかな部長の視線。
 課長と新井係長も同様に、感情の含まれないガラス玉のような目で俺を凝視していた。

 氷の槍で心臓をえぐられたかのような衝撃を覚え、呼吸をするのを忘れてしまうほどだった。



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Date:2013/03/12
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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