空色なキモチ

□ 片隅の花 □

片隅の花 13 飛鳥side 

 
 言うなれば『光』と『影』

 『光』は僕の双子の弟、翔。

 僕はいつも翔の後ろに隠れているだけ。
 翔はいつも『光』に照らされ、その後ろにいる僕は『影』になる。



***



 僕らは双子で、見た目はそっくりだけど中身は全然違う。

 双子の弟、翔はいつも堂々として前を向いていた。
 逆に僕は翔の後ろに隠れ、いつも遅れをとっているただの臆病者だった。

 翔は要領がよく、一度やったことはすぐに吸収しなんでもそつなくこなす。
 一方僕は何度も同じように繰り返さないとできない。

 ふたりで習い始めたピアノも、翔は一度でクリアできるのに僕は散々だった。
 だから練習を何度もして、翔の後を追う。
 同じバイエルでも翔はどんどん次のページへ進み、僕は同じところばかり。自己嫌悪に陥った。



 翔はなににも執着せず、おもちゃだろうが本だろうが取り合いになんかならない。
 僕がほしいといえばすぐに渡してくれるような心優しい男だった。
 僕はほしがって手に入れる割にすぐに飽きて放置してしまうようなダメな男。

 そんな翔が初めて執着を見せたのが、あの子だった。



 あの子はいつも僕たちの後ろからこっそりついてくるだけの目立たない存在だった。
 みんなでドッジボールをしていても、遊具で遊んでいても加わろうとせず花壇の石段に座っていた。


 まるで片隅の花。


 翔を称賛して追いかけている女の子はたくさんいた。
 それなのに、翔はあの子しか見ていない。目立たないあの子。

 ひとつ年下のあの子は、いつも僕たちのことを見ていたような気がする。

 羨望の眼差しとでもいうのだろうか? だけど決して声をかけてこようとはしなかった。


 小さい頃、あの子が迷子になったのを翔が見つけた。
 小雨が降り止まぬ中、小さい翔が小さいあの子をおんぶして必死に家まで連れて帰ろうとしていたらしい。そこを警察官が発見してパトカーで送られてきた。
 

 それから翔はあの子をひたすら気にかけていた。
 だけど翔も声をかけたりはしない、ただ遠くから見つめているだけ。


 集団登下校の時、小さいあの子は僕らの歩行速度に合わせられなくていつも遅れをとる。
 先頭を切っている翔が歩行速度を緩めた。だから僕も合わせた。
 その時のあの子は驚いたようなうれしそうな表情を浮かべて僕らを追ってきた。

 少しだけかわいいなって思ったんだ。



**



 僕らが小学四年生になったある日、翔がピアノのレッスンをサボって母に叱られた。
 それで夕方家を飛び出していったんだ。

 翔がピアノをサボった理由を僕は知っている。
 僕がうまくならなくて先に進まないから、待ってくれようとしただけなんだ。
 練習に行かなければバイエルだって次のページに進まない。だから翔は――


 その日、翔は怪我をした。
 日が沈みかけた頃、誰もいない公園のジャングルジムから落ちて右肘を受傷したんだ。

 それを助けたのがあの子だった。
 
 翔は思うようにピアノが弾けなくなって辞めた。僕も一緒に辞めた。
 なぜかほっとした。ピアノを続けるのが苦痛だったから。
 翔の怪我はかなり酷くてかわいそうだったけど、そのおかげでピアノを辞められた。そんなふうに思ってしまって後ろめたい気持ちになった。



 翔の怪我が治るまで、僕らは母の送迎で学校に通った。
 いつもの集団を素通りする。
 また集団から遅れを取っているあの子を悲しそうな目で見る翔に僕は気がついていたんだ。
 
 なんて目で見ているんだろう……とっても切なそうで、そんな翔を見ているのも苦痛だった。
 あの子が転びそうになれば小さく驚きの声を上げて身を乗り出す。
 それはまるで車から飛び出しそうな勢いで。

 そんなにあの子が心配なのだろうか?
 なんでだろう、僕は翔をあの子にとられたような気がした。モヤモヤしていたんだ。
 まるで僕の身体の一部をもぎ取られたかのように。だって翔は僕の一部であって分身だと思っていたから。

 あんな目立たない子が翔の気を一手に引いていることが腹立たしかった。

 だけど、翔があの子を助けたようにあの子も翔を助けたんだ。
 僕ができなかったことをあの子はやり遂げた。

 あの子の存在を認めるしかないような気がしていた。



**



 怪我が治ってまもなく、翔はあの子をドッジボールに加えた。もちろん自分のチームにだ。
 僕と翔は絶対に同じチームにはなりえない。あの子は翔の後ろに隠れて逃げ惑っていた。

 ボールをぶつけてやろうか? そう思った。
 だけど翔が必死であの子を守り続けた。
 そんな姿を見て、翔の大事なものを奪ってはいけないって思ったんだ。


 この時、僕と翔はまわりに間違えられていた。
 当時の僕らはそっくりで、先生にも間違えられるほどだった。
 クラスを入れ替わって違う授業を受けていても先生は気づかない。そのくらいよく似ていた。


「飛鳥に取られた! 逃げろ!」

 
 ボールをあの子にぶつけようとした男の子が翔に向かってそう言った。
 違う! あれは翔だ! 僕はそう言いかけた。だけど翔は――


「逃がすかってーの!」


 訂正もせずに僕であり続けた。
 きっとあの子は翔を僕だと思い込んだはず。赤い顔をして翔を見ていたあの子。


「おチビ狙えよー! 翔!」


 僕に向けられるのは翔の名前。
 翔はあの子の方を向いて優しい笑顔を向けていた。あの子も縋るような目で翔を見つめている。

 なんだかその光景を見て妙に苛立ちを覚えた僕は翔のフリを続けてしまったんだ。

 それが後々どんなことを意味するのかも知らず――



***



 あの子が引っ越してから、翔はかわった。
 僕のフリをしなくなった。自分の好きなように振舞うようになった。
 悪戯が増えて、先生や親を困らせるようになった。

 ちょっと柄の悪い友達が増えた。
 授業を平気でサボるようになった。夜遊びをするようになった。
 
 どんどん表情が険しくなる。寂しさを紛らわすかのように、翔は……。



 僕にとって翔は憧れの存在だった。
 いつもみんなの中心で、なんでもすぐにできて、自分の言いたいことをはっきり言う。

 だけど翔は真逆のことを思っていた。それは後でわかったこと。

 

***



 高校であの子に再会した翔は毎日うれしそうだった。

 約七年間も離れていたのに、翔はずっとあの子に思いを馳せていたんだと思ったらおかしかった。
 純粋な翔を想像しただけで……絶対照れて否定するだろうし、そんなこと本人には言えないけど。

 
 僕に彼女ができて、翔は自分の事のようによろこんでくれた。
 彼女はテニス部のひとつ下の女の子。一生懸命素振りをしている姿もそのかわいらしさにもひと目惚れだった。
 告白なんてする勇気のない僕に思いを告げてくれたのが彼女だった。

 初めての相思相愛。

 僕はようやく翔離れをできるような気がした。
 今まで翔の後ろに隠れ続けていた僕が変われるような気がしていた。

 だから翔にも幸せになってほしい、そう思った。


 偶然にも僕の彼女とあの子は小学校からの同級生だった。
 あの子の引っ越し先の小学校に僕の彼女がいた、それから仲良くしているという。
 彼女は僕とあの子が幼馴染であることを知らなかった。あの子はその事実を僕の彼女に言ってなかったようだ。


 その事実を知り、彼女と僕、そして翔とあの子の四人で映画に行くことになった。
 ちょうど彼女がチケットを四枚持っていて、しかもあの子を誘ったから『しめた』と思ったんだ。
 
 だけどあの子は翔を避けているようで、見ていてハラハラしてしまう。
 そんなあの子の態度に翔が苛立ちを隠せていなくて。僕には手に取るようにわかるから。
 あのドッジボールの時は、あんなにもまぶしそうな目で翔を見ていたのに……不思議な光景だった。

 なるべくあの子と翔をふたりきりにしてやりたい、そんな気持ちがあったのにあの子は僕たちにくっついてくる。

 結局翔が強引にあの子を僕たちから引き剥がし、連れて行ったけど。

 うまくいくといいな、そう思いつつ僕はふたりを見送ったんだ。







 そして、今。
 あの子は翔の隣にいる。

 翔の表情がとっても優しくなった。そしてあの子も翔の傍でしあわせそうに微笑む。







 翔は僕こそが『光』だと言う。そして自分は『影』だと。
 僕たちはお互いを『光』と認め、自身を『影』と称した。そんなところは息が合うらしい。

 それならそれでいい。僕が『光』でも。
 翔が『影』がいいというのならそれでも構わないよ。



 だけどね、翔。これだけは認めて。

 君はそう、言うなれば――影に咲く、片隅の花を照らす一筋の光。



 【おわり】
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Information

Date:2013/03/08
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Comment:2
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

* 一番好きな作品です♪

無事完結おめでとうございます!!
お疲れ様でした(*^_^*)

飛鳥視点は、「えっ!?そうなの!!」と驚かされました。
まさかお互い「影」だと思って嫉妬していたとは!?
隣の芝生は…といいますけど。
そして、そんな飛鳥くんはデキ婚なんですね(笑)
すっごい意外ですけど。
なんだろう?優しすぎて優柔不断ってことかしら??
そして、この最終話を読んで思ったこと……

桃花ちゃん!将来有望株の男捕まえたよ~♪♪♪

に尽きる(^_-)-☆
だって「なんでもソツなくこなせる彼」ですよ!?
その才能を生かせばエリート街道まっしぐらじゃないですか♪♪♪
玉の輿カ・ク・ジ・ツvv←最低
いや~。さすが私の(←オイッ)桃花ちゃんvv
そして気づいた。

この話が一番好きかもvv

翔くんが最初に桃花ちゃんに目を付けた年齢も、よくよく考えたら萌え要素満載ですね(笑)

番外編の件、検討して下さるんですか!?
むふふv言ってみるものですねvv
では、秘かに楽しみにしていますvv
2013/03/08 【菜桜】 URL #- 

* 菜桜さま。


こんにちはー。コメントいただけてうれしいです。
おめ&おつありがとうございました。

飛鳥視点、驚いていただけてうれしいとしか言いようがありません。
そうなんですー。両方とも「影」だと思っていたんです。
お互いを認め合っていたと言いますか、結局お互いのことが好きなんですよね。

あはは。飛鳥のでき婚は『ぱっ』と思いついただけでまだ決定ではないんです。
番外編をと考えていて急に思いついただけなので…。
なんとなくそんな感じかなあと…(まあ、いずれ結婚はさせるつもりですけど)

菜桜さまの仰るとおり、翔は有望株でございます(*^m^*)

彼は何でも真面目に取り組めばできる子なのです。
それをやらないのが翔なので、守るもの=桃花が傍にいれば何でも頑張れることでしょう。
桃花、気づいてよかったねーって感じですね。

この話が一番好きですか!ありがとうございます。

そう仰っていただけてありがたいです。
この話はぱっと思いついてぱっと書き上げたものですから公開するのに少しビクビクでした。
本当にありがとうございました。

翔は小さい頃から桃花一筋だったのに、桃花は…。
終わりよければ全てよしってことで、いいですよねー。
萌え要素満載ですか!しめしめとほくそ笑んでしまいました。


番外編、考えてみますね。
ただ本編の流れを崩さないようできるかどうか自信はないのですが…。
ひそかに楽しみにしていただきありがとうございます。

本当にいつも暖かいコメントをうれしいです。
今後ともよろしくお願いします。


こなつ。
2013/03/10 【こなつ】 URL #- 

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