空色なキモチ

□ 片隅の花 □

片隅の花 11

 
 だけど、なんで翔くんがわたしにキスをするのかわからなかった。

 だってキスって好きな人とするものでしょう?
 わたしは翔くんのペットなはずなのに。ペットとして好きだからするの?

 
 なぜか翔くんは悲しそうな表情でわたしを見下ろしている。
 今にも泣きそうな、そんな切ない顔で。
 わたしに泣けと言ったのに、翔くんが泣きそうだなんておかしいよ。

 すぅっと翔くんの顔が、わたしの右の耳元に近づいてきた。


「ずっと……目ぇ、開けてろよ。絶対逸らすな」


 怒りを含んだような少しドスのきいた囁き声が聞こえた。
 少しだけ顔を動かして、そっちを見ると翔くんの右の目許が視界に入る。ほくろは、ない。
 
 この人は、間違いなく翔くん。


「今からおまえを抱くのは飛鳥じゃねえ。俺だ」

「――――え!?」

「いいか、絶対に目を瞑るな。おまえは今から俺に犯されるんだ。一生憶えておけ」


 ――――犯される?

 それって……それって……無理やりってこと?
 経験がなくてもそのくらいの意味はわかる。もうそんな子どもじゃないって自覚もある。


 わたしのガウンの合わせが翔くんに掴み上げられ、一気に広げられた。


「やああああ!」


 下着を着けていないからすぐに裸体が晒されてしまう。
 慌てて両腕で隠そうとしたのを阻止され、翔くんが覆い被さってきた。


 首筋を舐められ、左胸を手で揉みしだかれる。
 ぎゅうってされて痛くて翔くんの肩を押しやると、その胸の先をきゅっと摘まれて上半身がびくりと跳ねた。

 なに……今の感覚?

 初めて味わう感覚に身体が震え、自然に力がこもってしまう。
 
 唇が、舌がなぞるようにわたしの鎖骨から下にゆっくり降りてゆく。
 左胸を大きな手に覆われ、絶え間なく撫でるように触れられ先がちりちりしていく感覚がした。
 お腹の辺りと足の間に力が入って不思議な感じがする。きゅっと締まるような……。

 自然に息があがってゆく……首を逸らして酸素を求めてしまう。


「いやだ……せんぱ……い」
 
「ちっちぇ胸だけど、感度はいいのな」


 ちゅっと右胸の先端を吸われ、舌で根元から舐めあげるように嬲られた。
 それだけでびくびくと身体全体で反応してしまう。恥ずかしくて涙が溢れる。
 でもなぜか怖くない……なんで?

 さっきまですごく怖かったのに、今は怖いどころか……気持ちがいい。

 胸をぎゅっと掴まれた時は痛かったけど、今は優しく触れられているからかもしれない。
 まるで愛しいものに触れるみたいに……全身を撫でるような感触になぜかウットリしてしまってる自分がいる。

 その手が、腰を撫ぜながら下に進んでいく。
 太腿を外側から撫でまわされ、膝を立てさせらると、翔くんの身体がわたしの足の間に入り込んできた。


「や……っ!」


 丸見えになっちゃう!
 足を閉じようとしたけど翔くんの身体が邪魔をして閉じさせてくれない。
 それどころかその手はわたしの足のつけ根をしばらく彷徨った後、秘裂をそっと撫で上げた。


「――――んっ!」


 びくびくっと身体が震え、腰が引けてしまう。
 でも翔くんの手がそれを阻止する。わたしを逃がさないように上半身を抱え込まれ、胸に吸いつかれているから動きが制限されていた。
 
 翔くんの節ばった長い指が、わたしの大事な部分にそっと触れる。
 そこを触られると全身が疼く。初めての感覚……甘い痺れが脳天まで突き抜けるようだ。


 自分の口から変な声が出てることに気がつき、両手で口を押さえる。
 自分が無意識に喘いでいることがわかった。

 翔くんにされていることに全身で感じているんだ。


 ねえ、翔くん。
 これって犯されているの? 信じられない。
 こんなにも優しく触れられて、感じさせられて、甘い気持ちになっているのに?
 犯されるって怖いことなんでしょう? 心も身体も痛いものなんじゃないの?

 
 わたしの中に指が入ってくる。違和感がして腰を引こうとするけど翔くんが許してくれない。
 引っかかるような感覚がする……だけど少しずつ奥に進んで……。


「っ! いた……いぃ」


 ぎゅっと力が入ってしまってそれを締め付けているのがわかる。
 わたしの中が翔くんの指の侵入を阻止しているようだ。だけどその指は捻りを加えながら進んでいく。
 

「力抜け、桃花。締めすぎだ」

「っんく……やあああ……せんぱ……いっ」


 ちゅぷっという音がして、敏感になっている部分を撫ぜるように押された。それだけで身体が跳ねる。
 そこを集中的に弄られておかしくなりそうだった。
 自分の中の道が濡れているのがわかる。溢れるようにどんどん液体が量産されていくみたいだ。
 指が入ってきても痛くない……それどころかその刺激によって濡れた音も徐々に大きくなってゆく。

 シーツをぎゅっと握りしめて堪えるけど、圧迫感で苦しくなってく。
 それなのにその指が増やされて、首を振って抵抗するしかできなかった。


「桃花、目を開けろって。力入れるな。俺を見ろ」

「や……もぅ……やめ……っ」

「桃花!」


 びくん! と身体が震えて瞼を開くと、切なそうな表情の翔くんの顔が至近距離にあった。
 わたしの中から指が抜かれる。喪失感のようなものを覚え、小さく声を漏らしてしまった。

 翔くんの目が潤んでいる。
 その理由がわからなくて、こっちまで胸が締め付けられるように苦しくなる。
 

「一度でいいから……俺の名前呼んでよ。な、いいだろ? そうしたら俺、もう諦めるから……おまえの前にも二度と現れない」

「!!」


 ぽたり、と翔くんの目から涙が落ちてわたしの頬を濡らした。


 
 泣いてる翔くんを初めて見た。
 あんな酷い怪我の時も泣かずにわたしのことを慰めてくれた翔くんが……目の前で泣いている。

 あの時の情景が思い浮かんで、目の前の翔くんと重なった。
 泣き出しそうな顔でわたしを見て、手を差し伸べてくれたあの時の――

 
 穏やかな表情のまま、キレイな涙を一筋流して……その様ですら美しく感じた。

 翔くんの表情がみるみる歪み、悲しみに変化していく。

 
「これが、最後だから……」


 その言葉を聞いて、わたしは無意識に翔くんの頬に手を伸ばしていた。
 両手でその頬を包み、親指で涙を拭う。何度も目許に指を這わせ、そっと拭い続ける。
 
 ほくろがない翔くんが目を細めて心地よさそうに微笑んだ。


「かけ……る……くん……」

「うん」

「か……ける……くん」

「ありがとう、桃花」


 すっと翔くんの身体がわたしから離れる。
 だけど、そうさせまいとわたしはその首元に抱きついた。
 翔くんの身体が強張るのがわかって、必死にしがみつく。
 離れないようにぎゅっと抱きつくと、わたしの耳元で翔くんの息づかいが聞こえた。

 嗚咽のような声と、苦しげな呼吸で翔くんの筋肉がついた胸元が震えているのがわかる。


「も、も……か?」

「翔くん! 翔くん!」


 翔くんが何を諦めるのかわからなかった。
 

「もう呼ばない! 翔くんなんて呼ばない!」


 うーっと泣き声をあげると、翔くんの大きな手がわたしの背中を支えてくれた。
 身体がピッタリくっつくように抱き寄せられて、翔くんの硬い胸がわたしの胸の先を擦る。それだけでびくりと震えてしまう。


「……だいっきらい……だいっきらいなの!」

「わかってるよ……」


 耳元で鼻で笑われる。だけどもう構わなかった。


「でも……最後なんて、いや……」

 
 わたしの口から出たのは、その時一番強く願った本心だった。
 心の奥の小さな隙間から出てきた本音。ずっと気づかなかったわたしの思い。


 両肩を掴まれ、強引に身体を引き剥がされた。
 翔くんの艶っぽいヘーゼルの瞳に火が宿ったかのように見える。
 信じられないって表情でわたしを見て、すぐに噛み付くような口づけをされた。
 頭を抱きかかえられるようにされ、角度が変化して口づけが深められる。

 目を閉じて、わたしは翔くんを受け入れた。


 意地悪だけど、怖いけど……それでも翔くんと離れたくないって思った。
 最後だからと言われて、胸が冷えたようになった。

 わたしが昔から好きだったのは……この人だったんだ。



「ん……っ!」


 翔くんの猛りがわたしに押し当てられて、ゆっくり入ってくる。
 全身に力が入ってしまい、わたしの中が侵入を阻止するかのように軋み出した。

 痛い……苦しい……こんなに辛いものなの?
 翔くんを受け入れたいのに……身体が拒絶しているみたいだ。
 自分の身体なのになんで思うとおりにならないの! そんな苛立ちを感じてしまう。

 その時、翔くんの舌がわたしの唇をベロリと舐めた。


「っは!」


 ビックリして思わず声をあげると、すっと力が抜ける。
 苦しそうな表情の翔くんが優しく微笑む。翔くんも苦しいんだ……。


「キスしよ……桃花」


 近づいてくる翔くんの顔、その首筋にしがみついて自ら唇を押し当てた。
 舌でそれをなぞられ、ゆっくり開くと何度も吸われておかしいくらいに気持ちが楽になる。
 
 ゆっくり翔くんの腰が落とされ、わたしの中を少しずつ広げてゆく。
 痛みがなくなったわけじゃない。でも――


「――――っぁっ!!」

「……はいった」


 最後にぎゅっと押し広げられるような痛みを感じて声をあげてしまった。
 だけどそれは最後の痛みだったようだ。
 身体を抱きしめられて、翔くんは息を切らしたように大きい呼吸をしながら動かない。

 翔くんの身体から熱が伝わってくる。かすかな汗の匂いがした。


「かけ……るくん?」

「動くと痛いはずだから、しばらくこうしてる」


 わたしの上半身をそっとベッドに横たえて、翔くんが乗りかかってくる。
 体重をかけないよう、両肘から下をベッドにつけてその手でわたしの頬を撫でながら唇にキスを落とされた。
 翔くんの髪がわたしの頬をくすぐる。唇と舌から伝わる刺激が全身を震わせた。

 中で翔くんが大きくなっていくのがわかった。
 時々ぐん、と膨張して中が苦しくなってゆく。


「ごめん……動く……っ」

「――――っ!」


 苦しそうな翔くんの声を聞いた後、ずるっと抜かれていく感覚がした。
 そしてぐっと入り込んでくる感覚に、声にならない悲鳴が喉元ではじけた。

 ――痛い!

 そう思ったけど、我慢した。
 翔くんの悩ましげな呼吸が聞こえたから。

 
 だけど、いい。我慢できる。
 翔くんだって、あんなに小さい時痛みに耐えてわたしを慰めてくれた。
 不安をかき消すように、手を差し伸べてくれた。間違いなくこの人のこの手。


 翔くんの右肘に手を伸ばして、指で触れながら掴む。
 皮膚の引きつれたような大きな傷を何度も指でなぞる。


 揺さぶられながら必死に翔くんの首に抱きついた。
 
 もし本当に最後なら、もう逢えないのなら……正直に伝えておきたかった。
 今、気がついたの……確信したの。ごめんね……わたし、トロくて。
 
 もう遅いのかもしれないけど――


「翔くんっ! かけっ……るく……」

「ん……」

「す……きっ――」


 翔くんの右の耳元で、喘ぎながら小さく囁いた。
 びくん、と翔くんの身体に力が入った。それと同時に中が圧迫される。


「俺、も――」
 

 翔くんの……切なげな、心からの叫びを聞いたような気がした。



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Date:2013/03/05
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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