空色なキモチ

□ 片隅の花 □

片隅の花 3

 
 転校先の小学校では友達ができた。
 元々引っ込み思案のわたしに声をかけてくれたのは、クラスで一番人気者の沙羅さらちゃん。
  
 さらさらの黒い髪にパッチリした目のお人形のように可愛い女の子だった。
 沙羅ちゃんは運動も勉強もよくできた。沙羅ちゃんの周りはいつもお友達がいっぱいだった。

 まるで飛翔兄弟の女の子バージョンみたいな人気者。名前もオシャレ。
 沙羅ちゃん繋がりで他の友達もできた。

 前の小学校の時のように集団登下校もなかったから自分のペースで気楽に通学できるようになった。
 
 目の前に飛翔兄弟がいない。
 その事実はわたしの心の隙間に冷たい風が吹き込むかのようで、時々切ない気持ちになる。
 だけど、そんな気持ちもいつしか消えていた。

 新しい小学校に慣れていくにつれ、わたしの心を占める飛翔兄弟の割合は徐々に減りつつあった。
 思っていても逢えるわけじゃない、そんな諦めの気持ちが大きかった。

 

 
 
 
 
 中学でも友達ができた。
 さすがに運動神経抜群の沙羅ちゃんと同じテニス部に入ることはせず、絵を描くことが好きなわたしは美術部に入った。
 
 沙羅ちゃんと同じ高校に行けるようにみんなで一生懸命勉強もした。


 高校は前に住んでいた町と今の町の間にある、県立高校に進学した。
 自分の実力で入れたとは思えない高レベルの学校だった。






 高校の入学式の日、わたしは目を疑った。

 校門のそばの大きな桜に木の下に人だかりがあって、その中心に飛翔兄弟の姿があったから。

 懐かしい気持ちとうれしい気持ちが一気に押し寄せて、自然に目が潤むのを感じた。
 ふたりは相変わらず美形で背が高くて素敵だった。やっぱりまわりには人がいっぱいいて。

 だけど、異様な違和感を覚えた。
 不思議な光景を目にしたから。


 双子の片割れのほうには女子生徒が群がり、もう片方のほうには男子生徒が群がっているのだ。


「桃花、あの双子知ってる? 一条飛翔兄弟」


 沙羅ちゃんがヒソヒソ声でわたしの耳もとで囁く。
 

「沙羅ちゃん知ってるの?」

「有名でしょ? 知ってるわよ。女子人気ナンバーワンのアスカ先輩と、男子人気ナンバーワンのショウ先輩」

 
 ……違う。
 
 ショウじゃない、カケル。
 でもそれを訂正するのは躊躇われた。わたしが飛翔兄弟を知っていることがバレてしまうから。

 沙羅ちゃんは自慢げに胸を張って説明し始めた。


「アスカ先輩は女の子にも優しくて勉強もできてあれだけのイケメンだからモテモテ。ショウ先輩は少しスレた感じで基本女の子を寄せ付けないんだって。だけどやっぱりかっこいいからね。寄って来るのは少し気の強い感じの女の子が多いんだってー。先輩情報だけどねっ」

 
 顔は同じなのに、対照的なふたりになってしまったんだ。
 飛鳥くんはきちっと制服を着こなしていて真面目な感じ。
 一方翔くんはワイシャツのボタンを何個か外して、ネクタイも緩めてて着崩した制服姿だった。
 
 小さい頃のみんなに好かれるイメージは変わっていないけど、特に翔くんは容易に人を近づけないような雰囲気をかもし出しているように見えた。

 優しい陽だまりのような雰囲気の飛鳥くんと、笑顔の中にも翳が見え隠れする翔くん。


 見た目は同じでやっぱり見分けがつかないけど、人の群がり具合でわかるというか……。
 あの人たちは飛鳥くんと翔くんの区別がつくってことなんだろうな。
 制服の着崩し方で一目瞭然だし、雰囲気も全然違うし。



 再び飛翔兄弟を見ることができて、うれしかった。
 だけどわたしのことなんか覚えているはずない。
 
 きっとまた、あの人たちの陰で遠巻きに見つめるだけ。そんな自分を想像していた。



 高校に入って知ったこと。

 飛鳥くんはA組、翔くんはB組。
 飛鳥くんは生徒会の副会長で、先生の信頼も厚くクラスでも人気者らしい。
 一方翔くんは少し道を外れてしまったといったらおかしいのかもしれないけど、あまりガラのよくない人たちとつるむことが多いと耳にした。

 だから翔くんの周りは少し怖い感じの男子生徒で囲まれているんだ……。


 学年が違うからそんなに見かけたりしないけど、時々廊下ですれ違うことがあるとドキドキした。
 気づかれるわけないのに、俯いて通り過ぎてみたり……自分の自意識過剰さに腹が立つことも。

 沙羅ちゃんはいつも堂々としていた。
 一年生の中でも一番美人で、いつ飛翔兄弟の目に止まってもおかしくないだろう。
 そんな目立つ沙羅ちゃんと一緒にいたってわたしのちっぽけな存在なんてかき消されるはず。


 だけど自然にわたしの目線は無意識に飛鳥くんを追っていた。
 思いってやっぱりそう簡単には変わらないんだって思った。


 飛鳥くんは陸上部で、長距離走の選手だった。
 放課後もくもくと学校の校庭を走っている姿はとても綺麗で誰もが見とれてしまうほど。
 もちろんギャラリーがすごく多い。

 わたしは中学の時と同じ美術部に入り、その窓から見える校庭で走る飛鳥くんを描いた。

 本格的にではない。スケッチブックへのラフ画みたいなものだ。
 堂々とキャンパスになんか描けず、ひっそりと自分だけの世界で飛鳥くんをスケッチするのが唯一の楽しみになっていた。


 右腕の傷跡は受傷当時あんなに酷く残っていたのに、今はほぼない状態。
 まるで皮膚移植をしたんじゃないかってくらいきれい。
 でも、きっとあの怪我のせいでピアノをやめたんだろうな。
 どうしてあの時あそこで倒れていたのか? どうしてあの事故が起きたのか未だによくわからない。

 
 ある日の部活終了後、わたしは飛鳥くんとすれ違った。
 その時、あることを発見してしまった。

 飛鳥くんの右の目尻に小さなほくろがあること。

 今までなんで気づかなかったんだろうって思った。
 それは本当に小さくてじっくり見ない限り気づかれないかもしれない。
 でも目のいいわたしはすれ違うくらいの距離ですぐにわかってしまった。

 飛鳥くんと翔くんの唯一の相違点……。

 考えてみたら右腕の傷、それも相違点になるんだなって思った。
 だけど今となってはあの傷も見えない。相違点にはならないはず。

 あの時、わたしを守ってくれた飛鳥くん。
 
 遠巻きに見るだけで胸が高鳴るのを抑えることができなかった。


 好きな気持ちがどんどん加速していく。

 
 図書室で見かけただけで、走っている姿を見ただけで、こんなにも苦しくなってしまう。
 これが恋じゃなくてなんだというのだろう。



***



「ねえ、桃花。私、飛鳥先輩に告白しようと思ってるんだけど、どう思う?」


 高校に入学してから一ヶ月近く経った頃、沙羅ちゃんがわたしに言ってきた。

 沙羅ちゃんは飛鳥くんが本命だったんだ。
 飛鳥くんが女子生徒に人気があるのはわかってたことだし、沙羅ちゃんがそういう気持ちを抱いていたとしても何もおかしくない。
 だけどなんとなく、沙羅ちゃんだけは飛鳥くんを好きじゃないといいなと心のどこかで思ってしまってた自分がいた。

 だって沙羅ちゃんに告白されたら絶対に……その先を考えるのが怖くて。
 そんなことあるわけないとどこかでそれ以上考えることをやめていたんだと思う。

 それなのにどう思うって訊かれてもなんて言ったらいいかわからない。
 ただ胸の鼓動が早まるのを感じていた。

 
「沙羅ちゃんくらいの美人が告白すればきっと飛鳥先輩もOKするよ」

  
 そんなありきたりのことしか言えない自分がいやだった。
 もちろん本当にそう思っている。でも心の片隅では飛鳥くんが受け入れてくれないことを祈っていた。

 最低な自分……本当にいやになる。


 自分のスケッチブックを握りしめてそのどす黒い気持ちを押し込めることしかできなかった。




 翌日。


「飛鳥先輩つき合ってくれるって! 私が部活で素振りしてるの、かわいいなって思って見ててくれたんだって!」


 沙羅ちゃんがうれしそうに泣き笑いでわたしに抱きついてきた。
 
 そんな表情もキレイな沙羅ちゃん。
 やっぱり沙羅ちゃんくらいの美人なら……違う。

 沙羅ちゃんはいつでも頑張っている。
 自分磨きもそうだし、部活も勉強も……だからモテるんだ。
 沙羅ちゃんが美人だからってだけの理由じゃない。頑張っている沙羅ちゃんだから選ばれたの。

 わたしみたいにウジウジして、振られることを心のどこかで祈るような最低な女じゃ一生かなわない夢。


「よかったね、沙羅ちゃん」


 こんな月並みなことしか言えない自分。
 しかも心から祝福してないし、できないのに……口先だけでそう告げている。

 どんどん自分が嫌いになる。

 小学生だったあの時、飛翔兄弟にもらった大事なものをわたしはどこに置いてきてしまったのだろうか。




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Date:2013/02/22
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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