空色なキモチ

□ 満月の夜に見る夢は □

満月の夜に見る夢は 第4章 第49夜

「ゆきおねーちゃん! あさだよー♪」


 元気な高い声が耳元で聞こえる。
 うん、そんな大きい声じゃなくても聞こえるだけどね……。


「ゆきおねーちゃんったらあ! おきてー!」


 重い瞼を開けようとしているんだけどなかなか開かなくてようやく開いた隙間から様子を伺うと、みゅうちゃんの笑顔が飛び込んできた。胸元に手を置かれ、ゆさゆさ揺さぶられる。
 

「ん、みゅうちゃん早いのね」


 時計を見ると六時を少しまわったところだった。
 元気なみゅうちゃんはベッドの上でバウンドするようにはしゃいでる。


「みゅうね! おなかすいたの!」

「……そうなんだ」


 お腹がすいて目覚めるなんて健康的な……。
 翔吾さんはまだ寝ているのかな? と思い左の方を見てみると、気持ちよさそうな表情で眠っていた。
 ゆうべは疲れたんだろうな……わたしにちゃんとパジャマ着せてくれたんだ。よかった。

 ありがたくてほっとしたのもつかの間――――


「しょーくん! おっきろー♪」

「ぐえっ!!」


 みゅうちゃんが仰向けの翔吾さんのお腹のあたりに勢いよく馬乗りになったのだった。
 あまりにもいきなりのことで止める術もなく。かえるがつぶれたような音? 声が……。


「おま……もう少し下だったら……俺の大事な息子が……」

「おうまさんごっこー♪」


 身悶えながら翔吾さんの掠れた声が口から漏れた。
 みゅうちゃん容赦ない……あの起こされ方しなくてよかったって心から思ってしまった。
 




「しょーくん、じゅーす!」

「はいはい」


 みゅうちゃんに食べさせながらストローマグでジュースを飲ませている。
 口元をタオルで押さえながらこぼさないように気を遣ってるけど、その容姿は若干ぐったりしているように見えた。

 かわいいなあ……みゅうちゃん。翔吾さんは本当のお父さんみたい。
 昔はわたしもああやって父に……。


「――きおねーちゃん! ゆきおねーちゃん!」


 高いみゅうちゃんの声が聞こえて正気に戻った。
 フォークに刺したミートボールをわたしのほうに向けてニンマリ微笑んでいる。


「あーん!」

「え……」

「ゆきおねーちゃん! あーん♪」

「……」


 苦笑いをして俯く翔吾さん。わたし変な顔してるのかな?
 椅子から立ち上がって、みゅうちゃんに上半身を近づけてそのミートボールを食べた。
 ん、意外と美味しい。


「みゅう、このミートボールあんまり好きじゃないんだろ? だからゆきお姉ちゃんに押しつけたな」

「……ウン」

「ダメだろ? 好き嫌いしちゃ」

「ごめんなさい……ゆきおねーちゃん」


 しょぼんとみゅうちゃんが肩を落とした。
 かわいいなあ……そんな顔されたら許しちゃうよ。もう。


 和やかな雰囲気の朝食が終わった直後、家のインターホンが鳴った。

 まだ朝七時なのに?
 わたしと翔吾さんの視線が自然に絡み合う。
 こんな時間に……誰?


 リビングの入口に取り付けられたテレビドアホンを翔吾さんが覗き込み、大きい声を上げた。


「――姉貴?」

『電話したのに全然出ないから直接来たの』

「え? エントランスのドア開けてないのになんで……」

『開いた途端、滑り込めたから、開けて』

「ままだー♪」


 翔吾さんのお姉さんがみゅうちゃんを迎えに来た?
 声しか聞こえないけど、そんな感じだ。
 みゅうちゃんもママの声に反応して翔吾さんのほうへ駆け寄って行った。


「ちょ……そこで待て。すぐみゅうの準備するから……」


 少し焦ったような翔吾さんが慌ててみゅうちゃんの荷物をまとめ始めた。
 持ってきた絵本やおもちゃ、ベッドの上に置いておいたパジャマを丸めて放り込む。
 
 わたしがいるから上がってもらえないのかもしれない……だからこんなに慌てて?


「翔吾さん、わたし寝室のほう隠れて……」

「いい、気にするな」

「あん!」


 大きなバッグを肩にかけ、みゅうちゃんを小脇に抱えて翔吾さんが玄関に向かって走り出した。


「あー! ゆきおねーちゃーん!」


 玄関のほうでみゅうちゃんがわたしを呼ぶ声が小さく聞こえてきた。
 翔吾さんは、もう玄関前にいるお姉さんを待たせないよう急いでいるんだろう。
 ちゃんとみゅうちゃんにお別れを言いたかったけどしょうがない。ここで引き止めたら悪い。


「あーん! ゆきおねーちゃーん! ゆきおねーちゃ……」


 玄関の扉が開く音と遠ざかっていくみゅうちゃんの声。
 ああ、ちょっぴり寂しい。
 こんなにいきなりお別れが来ると思わなかったから……。

 リビングから玄関のほうをちらっと覗くと翔吾さんの背中が見える。
 そんなところで話してないで中に入ってもらえばいいのに……わたしは隠れていてもいいのにな。
 こんなところで様子を伺っているわたしもわたしか。
 食器を片付けておこう。そう思ってリビングの入口に背中を向けた、時。


「ゆきおねーちゃーん!」


 みゅうちゃんの泣き声?
 パタパタと廊下を走ってくるような音。そして、何かが倒れたような音がした。
 昨日みゅうちゃんが廊下で転んだ時と同じ音――


「――わぁぁぁぁぁん!」

「みゅうちゃん!」


 昨日とまったく同じ場所で転んだみゅうちゃんに急いで駆け寄って抱き起こすと、小さな手を伸ばしてわたしの首元にぎゅうっとしがみついてきた。
 ふわっと甘い香りと柔らかくてフィットするような感じが心地いい。
 自分でも信じられないほど愛しさが湧き出したような感覚に胸が震えた。


「わぁーん! いたいよぅ! いたいよぅ!」

「痛かったね、みゅうちゃん」

 
 ポンポンと背中を何度か軽く叩き、宥める。
 暖かい温もりに包まれてなんだかうれしくて、手離したくないような心境になってしまう。


「みゅう!」

「あっ! 待て!」


 玄関のほうから女の人の声がみゅうちゃんを呼ぶのを、翔吾さんが止めた。
 そっちに視線を移すと、翔吾さんを押しやって女の人が玄関先に立ち尽くしている。


「――――!!」


 わたしは言葉を失った。
  


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Date:2013/02/14
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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