空色なキモチ

□ 満月の夜に見る夢は □

満月の夜に見る夢は 第4章 第47夜

 

 翔吾さんの発した言葉が頭の中をぐるぐるまわる。


『近いうちに、お母さんに会わせてもらえないかな?』


 気後れしてるわたしを翔吾さんが不思議そうな面持ちで見つめている。
 いい、ともいや、とも言えずわたしは薄ら笑いを浮かべてしまっていた。


「……なに? 急に」


 ようやく出たのはその言葉。
 翔吾さんは目をを眇めて小さく首を傾げた。


「急にってことはないだろう? 前にも言ったし……それに子どももほしいし、早めに結婚したほうがいいと思うんだ。ま、最初の何年かは雪乃とふたりで仲良くでもいいんだけど、いずれは……ね」


 ――――子ども。

 となりのみゅうちゃんを見てしまう。
 両脚をぶらぶらさせてオレンジジュースを一生懸命飲んでいた。
 さっき、こんなかわいい子ならって思ったのは事実。


「この前できたかも? ってなった時すごくうれしかったけど……最近授かり婚とか言われてるけどさ、結局できちゃった婚だよな。それ考えててさ、結婚してたほうが雪乃のお母さんも安心するんじゃないかって……」

「……別に」


 この時わたしの心の中にふたつの不安が宿っていた。

 親に対面させないといけない不安。
 そして、翔吾さんのご両親にわたしが認めてもらえるか。


「別にって?」

「ゆきおねーちゃん! おままごとしよっ! みゅうがママやるからゆきおねーちゃんパパやって!」


 小さな手がわたしのセーターの袖をギュッと掴んで微笑んでいた。
 その笑顔に和んでうなずく。


「えー? パパかあ。よし! じゃやろうか!」

「やろう! やろう! ゆきパパあっちからかえってきて!」


 みゅうちゃんに袖を引かれ、リビングの入口まで連れて行かれる。
 タイミングよかったかも……そう思ったらみゅうちゃんに感謝することしかできなかった。

 ソファの方から翔吾さんが肩をすくめてこっちを見ているのがわかった。
 ごめんなさい、翔吾さん。
 





 散々はしゃいだ後、みゅうちゃんは倒れこむように眠りについた。
 小さい身体はソファでも広々で、そこに寝かせて布団をかける。
 遊んでいる時もかわいかったけど、寝顔は天使だなあ……。

 時計を見るとお昼の十二時近い。


「お疲れ様、雪乃。みゅうの世話ありがとな。腹減ったろ?」


 キッチンからエプロン姿の翔吾さんが出てきた。
 

「あー、うん、ちょっと……」

「うどん作ったから食おう。みゅうは起きたらでいいから。昼飯くらい静かに食いたいし」


 カウンター式キッチンテーブルに並んで座り、うどんを食べた。
 スープのだしがよく取れていて美味しい。わたしの好きな味だった。


「雪乃さあ……」

「ん?」

「なんで話をはぐらかそうとするの?」


 翔吾さんはこっちを見ないでぼやくようにそうつぶやいた。

 
「俺と結婚するのいや? まだ考えられない?」

「……そうじゃない」

「じゃあなんでなのかな? 先延ばしにしているかやんわり拒絶されてるとしか思えないんだけど」


 そんなんじゃない。
 わたしだって結婚するなら翔吾さんとがいい。
 でも、考えてみたら結婚って籍が一緒になるってことで翔吾さんとのご家族との親戚づきあいも必要になってくるんだ。

 そんなこと、できる自信が……ない。


 箸を置いて立ち上がる。


「ごめんなさい、少し残しちゃった」

「そんなのいいよ。それより……」

「ごめんなさい。やっぱりまだ考えられない……今日は帰ります」


 



 逃げるように翔吾さんの家を出てきた。
 ように、じゃない。逃げてきたんだ。
 
 肩を落として俯く翔吾さんを見てられなかった。


 なんて話していいかわからない。
 どこから話していいかわからない。

 話したらすべてが終わってしまいそうで……怖い。


 翔吾さんのこと、信じてないわけじゃない。
 
 だけど知られたら……もしかしたら翔吾さんは大丈夫でもご両親は……?



**


 どこからともなく、何かを叩くような音が耳に入ってきた。

 夢? あれ? 
 さらにノック音がして、玄関の扉が叩かれていることに気がついた。

 
 翔吾さんの家から帰って来て、少し横になるつもりが熟睡してしまったようだ。
 ぼんやりする目をこすりながら開けると部屋が暗かった。もう夕方?


「……はーい」



 もそりと起き上がって玄関に向かい、鍵を開ける……と。


「ゆきおねーちゃんっ!」

「――わっ!」


 扉が開いた途端、みゅうちゃんがわたしの足元に抱きついてきた。


「ごめん。雪乃。みゅうの奴、目が覚めた途端『ゆきお姉ちゃんがいない』って泣き出しちゃって……」


 困惑顔の翔吾さんが扉越しに顔を覗かせる。
 しっかり抱きつかれたその力はすごい強いものだった。身動きが取れないくらいだ。


「みゅう、きょうゆきおねーちゃんとねるの!」

「なんだよ……俺と寝るんじゃないのか?」

「やっ! しょーくんねぞうわるい! ゆきおねーちゃんがいいっ!」


 翔吾さん、そんなに寝相悪くないと思うけど……?
 ちらっと翔吾さんに視線を移すと、苦笑いをしている。


「いやさ、さっきベッドで一緒に昼寝してたらみゅうを蹴っ飛ばしちゃったみたいなんだよね。雪乃なら抱きしめて寝るからそんなには動かないんだけど……」

「わあっ! みゅうちゃんの前でっ!」


 結局翔吾さんの車に乗せられて戻ることに……。 
 後部座席でわたしの手を握ったまま満足そうに微笑むみゅうちゃんはかわいいけど、まさか迎えにこられるとは思ってなかったから、少し複雑な心境だった。

 ミラー越しにわたしとみゅうちゃんの様子を伺うような翔吾さんの視線に気づき、思わず逸らしてしまっていた。



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Date:2013/02/11
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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