空色なキモチ

□ 思い出のヘニョロロ □

思い出のヘニョロロ 13(終)

第十三話

ヘニョロロじゃない思い出




 あれはいつのことだっけ。
 とてもうららかな春の光が差す暖かい日だったことはよく覚えている。

「この人は誰? どこのお方?」

 施設に入ってから私や母の記憶をすっかりなくした祖母が、部屋に飾った祖父の写真を見てそうつぶやいた。
 数日前、かろうじて父や祖父の記憶は残っていたはずなのに……。
 その場に父がいなかったことが救いだと思った。
 父は自分までも忘れられてしまったと知ったらひどく傷つくかもしれないから。
 写真の中の祖父は、長年暮らしていた家の庭の縁側に腰を掛けてお茶を片手に微笑んでいる。

「……」

 私は母と目を見合わせて、言葉を失っていた。
 母も同じだったし、ショックを受けていたと思う。とうとうこんな日が来てしまった。だけど。

「とっても素敵な人ね」

 祖母は他人と認識した私や母が面会に行くととても強張った表情をしていたのに、その時だけはとても優しい顔つきをして笑いかけてくれたんだ。

 胸が熱くなるって、きっとこういうことを言うのだろう。

 祖母が祖父に再び恋した瞬間。 
 人を好きになるってとっても素晴らしいこと。

 きっとこの思いは永遠。
 
 この時、私の頭の中には今目の前で眠る若かりし頃の彼がいた。
 そんなことはたぶん一生口にすることはないだろうけど、その時の気持ちが甦ってきて同じように胸が熱くなったんだ。

 その後、このふたりに恋が芽生えたのか……それはまた、別の話。


 【おわり】
 

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Date:2015/12/20
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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