空色なキモチ

□ 思い出のヘニョロロ □

思い出のヘニョロロ 9

第九話

過去編・思い出の試合




 
 とうとう合同練習最終日。
 なぜか両顧問はまたも体育館にはいなかった。
 反省会だと言っていたものの、監督する大人がいない体育館はそれはもう開放的だった。
 だけど数日前に一年女子が軽い脱水を起こしたこともあって、無理はしないことと水分の補給をまめにするようにのお達しがあった。
 どうも六中の女性顧問が美人だからうちの顧問が密かに狙っているのではないかという噂がまことしやかに囁かれた。いや、実際はわからないけど。

 バドミントンのシャトルはとても軽いので風通しをよくしてしまうとそれだけであらぬ方向へ飛んでいってしまうからどうしても無風の暑い中でのプレイになるし、わずかな換気口が救いの神になっている。清涼飲料水の数も増やし、凍らせたものも用意することになっていた。

 今日が終わってしまったら、君との接点がなくなってしまう。
 意を決して俺は君の元へ向かった。
 尾田に注意されてから、シャトルをギャラリーに打ち込むこともなくなっていた君と会話もろくにできずにいてフラストレーションがたまっていたし。

「部長サン、俺と試合しない?」

 体育館に戻ってきたばかりの君に声をかける。
 首もとにかけたタオルで顔を拭きながら戻ってきたところを見ると洗顔帰りだったのだと思う。
 少し前に試合を終えたばかりだからか頬が紅潮しており、それをタオルで隠すようにしている。俺が声をかけたから頬を染めてくれたんだと少しでも自惚れることができたらどんなにうれしかったか。

「は? なんで?」

 眉をしかめて俺を見据える君は腑に落ちないといった様子で首を傾げた。

「いやあ、君とはいつか勝負してみたいって思ってたんだよねー。今ちょうど顧問もいないし」
「……別にいいけど」
「おっ、マジで? じゃあさ、賭けしない?」
「賭け?」
「うん、その方が気合い入るしおもしろいっしょ? 負けたほうが勝ったほうの言うことを聞くの。ベタだけど」
「ふーん?」

 さらに深く首を傾げる君は納得していないように見えたけど、こっちのペースにのせてしまえばいい。
 顔には出さずに俺がほくそ笑んでいたコトなんて全く気づいていなかっただろうね。

「で、そっちはなにを賭けるの?」

 ポニーテールがふわりと揺れるくらい首を大きく傾げて尋ねてきたから最高の笑みを貼り付けて言ってやったんだ。

「俺が勝ったらつきあって」
「……は?」
「彼氏いるの?」

 大きな目を見開いて驚く君は何度も長いまつげをこれでもかと上下させる。
 ラケットの柄で自分の肩をとんとんと軽く叩くようにしながら余裕をかまして問いかけたけど内心ヒヤヒヤだった。 
 彼氏がいたらそこで終わりだし、なんとなく君は岩本くんが好きなんじゃないかって思っていたから。

「……いないけど」 
 
 頬を真っ赤に染めながら俺から目を逸らす。
 本気で俺を拒絶するならそこで彼氏がいると嘘をつけばこの賭けは立ち消えになったのに。

「じゃ、決定」
「まっ、待ってよ。こっちが勝ったら?」

 勝手にコートを決めて向かおうとした俺を引き留める君。
 ちょっとどもっているのを聞いて、動揺してくれているのかなと気をよくする俺。
 わざとらしく一瞬ためてから余裕たっぷりの笑顔を向けてみせた。

「んー、それは君が決めていいことなんだけど」
「あっ、そっか!」
「まあ、ご褒美にキスでもしてあげよっか?」
「なっ!」
「なに、律試合すんの?」

 わあっとうちのメンバーが駆け寄ってくる。
 好奇心旺盛でニマニマしている男子部員と、表情を曇らせる女子部員。だけど賭けの対象は聞かれていないはずだ。

「それこっちに全くメリットないっ!」

 真っ赤な顔をして怒鳴る君の意見など聞かず、俺はさっさとコート内に入って素振りを開始していた。顧問が戻ってくる前に早く終わらせたほうがいいと急かすうちの部員の声には助けられた部分が大きかったけど。
 君はしぶしぶコートに入って同じように素振りを始めた。
 六中の部員がそばによって君にどういうことか理由を聞いているようだけど俺のペースで審判を勝手に決めてさっさと試合開始のコールをかけさせる。

「ファーストゲーム、ラブオールプレー!」

 お願いしますと審判に頭を下げる君は、相手である俺にもちゃんと頭を下げた。
 礼儀ではあるけど怒っているだろうから正直スルーされると思ってただけにむず痒いようなうれしさがこみ上げてきていたのをよく覚えている。
 君からのサーブ。少し緊張した面もちでシャトルを左手に持ち、大きくラケットを下から振り上げた。

「――あ」

 君が空振りしてシャトルを落とす姿を初めて見た。
 大きく振り上げられたラケットは空を切り、同時に大爆笑の渦をわかせる。

「へなちょこサーブ!」

 緊張を解きほぐしてやりたくてかけた言葉に君はムッとした表情を向けた。
 君がこっちに向かって「ばーか」と口パクしたのはたぶん俺しかわかってなかったはず。
 この試合、簡単に勝たせてもらえないことはわかっていた。
 もちろん女子だから岩本くんのようなパワーを感じることはないけど打ち込まれるスマッシュのスピードは速いと感じたし。
 簡単に負けてやるつもりもない。だけど君が勝ったとしたことも想定していた。
 勝者として君は俺に何を求めるのかも興味があったから。
 君にとっては冗談みたいな賭けだったかもしれない。俺がふざけてそんな提案をしたと思っていたかもしれない。

 だけど俺は本気だった。

 二セットなんとか俺が先取し、そして三セット目。
 ようやく波に乗ってきた君が必死に追い上げる。額から流れ落ちる汗をぬぐいながらも必死に食らいついてきた。
 このセットまずいかも、と思った時。

「集合ーッ!」

 いいところで顧問が戻ってきて、俺たちの合同練習は終了になってしまった。

「俺の勝ち、だよな?」
「……まだ勝負ついてない」
「二セット先取してるし」
「このセット取れそうだもん」
「じゃ、日を改めて再試合する? 一セットだけ」

 望むところだと君は間違いなく言った。
 勝ち気なその表情から本気具合が受けて取れる。
 そんなに俺に負けてつきあいたくないのかとちょっとへこみそうになったけど、きっと純粋に負けず嫌いなんだろうという判断で自身を落ち着けたりして。

 その時、ふと君のポニーテールにしたサイドの後れ毛に白いものがついているのを見つけてしまった。
 それを取ってやろうとした俺の手が君の耳に軽く触れると、びくんと身体をふるわせて一歩下がる。そのオーバーリアクションに俺も一瞬たじろいでしまった。

「なっ、なにっ?」

 うわ、耳まで真っ赤。
 もしかして耳弱いのかな。もっと触りたい。

「なんかついてるから」
「えっ」
「虫かも」
「うそっ、とってとって!」

 慌てて振り払おうとする君は本当にかわいかったんだ。
 だから残りの一セット、必ず取って君とつきあう権利を絶対にものにしたかった。

 それなのに、君はその約束を破ったんだ。

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Date:2015/11/09
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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