空色なキモチ

□ 思い出のヘニョロロ □

思い出のヘニョロロ 3

第三話

なにがどうしてこうなった?




 いやあ、今日は飲んだな。
 ワインにシャンパン、ビールにカクテル、最後は日本酒だったかな、いやウィスキー?
 律に連れてこられたお店はこじゃれたバーみたいなところだった。
 ドラマに出てくるような薄暗ーい照明のカウンターなんだけど寄り掛かりのあるソファー席で助かったわ。なかったら後ろに転げてたかも。
 正直話したことはほとんど覚えてない。
 ふわふわのソファの座り心地がよかったのといつもはあまり飲まない甘めのカクテルがおいしかったことと、今このベッドの寝心地がいいことくらい。
 
「おーい、起きろよ。服が皺になるぞ」
「ん……」

 フィルターがかかったような声が聞こえてくる。
 もう飲めないよ。お腹ガボガボ。
 お気に入りのネイビーのワンピースの後ろのチャックが緩められていくのがわかったけど動けもしない。あれ、一緒に着ていたクリーム色の薄手のボレロはどうしたんだっけ。まあいいや。
 なかなかの好青年だったような気がするのになにもかも覚えていないのは残念かもしれない。あの会場からふらつく私をスマートに連れ出してくれたような気がするし、千鶴子とも楽しそうに話してたような……あれ、私千鶴子とどうやって別れたんだっけ。

「俺と賭けをしないか?」
「へ?」
「俺が勝ったらつきあってほしい」

 あら、こういう冗談も言える人だったんだ。意外。
 ただの酔っぱらいの女になにを言ってるんだか……。
 だけどなんだかその言葉、どこかで聞いたことあるようなないようなーああ、これもドラマの台詞だっけ?

「りるは、おい。起きろよ」

 肩をゆさゆさ揺すられてる。
 もういつでも眠れる状態になってるのにまだ寝かせてくれないのかな。
 
「りるは」
「っさいなあ……」
「なあ、思い出してくれよ」

 なにをだ。
 話していたこと? ごめんぜんぜん思い出せないわ。
 薄暗い部屋の中、ヘッドライトだけが煌々と照らされていてまぶしい。取り調べかってつっこみたくなるくらい。
 霞がかかったみたいに頭の中はぐるぐるしていて本当になにも思い出せないわ。こんなに酔ったの初めてかもー。

「あの時も約束破りやがってどういうつもりだよ、なあ」
「……あの、時ぃ?」

 なにがなんだかわからない。
 もう考えるもめんどくさいわー。
 上半身を起こされてゆさゆさ振られているこの状況からも解放されたい。早く寝たい。私は眠るのが大好きなんだ。
 
「わわっ、なにしてっ……」
「好きにすりゃーいいじゃん」

 ワンピースを前から引っ張り豪快に脱ぐ。
 もうしちめんどくさい。するならすればいいんだ。
  
「俺が勝ったらつきあってくれるって言ったろ?」
「……いつ?」
「バドミントンの試合しただろ!」

 ――バドミ、ントン?

 ぐわっと頭の中に過去の自分の姿が浮かび上がる。
 それはもう肌もつるつるピチピチの。
 夏の熱気がこもった体育館、うだるような空気、みんなの高いかけ声。走った時のキュッと鳴る靴の音。

 だけどすぐにその思い出は白い渦の中に消えてゆく。
 ふわり、ふわり。
 沈んでいく意識の中、ひとつの単語が浮かび上がった。

 ――へなちょこサーブ!

「おい、りるは! 思い出せ!」
「ヘニョ……」
「おい! 起きろ! りるは! りる……」

 そのまま意識を手放した。


***


「なんでこんなことになってんの……っ?」

 起きた途端ずきんと頭が痛んだ。
 見覚えのない部屋。隣には見知らぬ男。
 布団を剥げば、私も男もショーツ一枚しかまとっていなかった。

「ん……もぅ起きたの?」

 うつ伏せの状態で眠っていた男がかったるそうに身体をよじってこっちを向こうとしていたから慌てて布団を引っ張ってこっちに引き寄せる。
 なんで自分が裸で寝ていたのかさっぱり思い出せなかった。
 とりあえず隠すことで精一杯で被るように上半身を覆うと、男を隠すものがなくなってぶるっと身を震わせた。

「寒い!」

 クーラーがよく利いているから裸じゃ確かに寒いだろう。
 布団のすみをぐいぐい引っ張られている。
 渡してなるものか!
 これがなくなったら隠すものがなくなる。絶対に渡すもんか!
 綱引き張りの引っ張り合いになりながらも向こうも譲ろうとしない。男ならか弱い女に譲るべきでしょうに!

「ちっ」
「わっ!」

 忌々しげに男が布団を離し、その反動で私は無様に後ろへぶっ倒れた。
 
「ひどい! わざとだ!」
「わざとにきまってんだろ?」

 キィィィ! むかつく! 
 なんでこんなふうに扱われないといけないんだ!
 怒りをなんとか抑えて起き上がり、ぎっと睨み返すとニヤッと不適な笑みが向けられた。
 私の怒りのボルテージが一気に上昇する。
 ぷちんと音を立てて血管が切れるんじゃないかと思ったけど、すくっと立ち上がった男がさっさと部屋を出ていってしまう。
 パンツのままだよって笑いたくなったけど、だけど背中についている筋肉やウエストのくびれが妙に綺麗だった。思わず見惚れてため息を漏らしそうになるくらい。
 今のうちに着替えて……なんて思ったのにすぐに戻って来たっ。こういう時はゆっくり戻って来るもんだって知らないのかっ。

「ほい」

 ぽーんと弧を描くように放り投げられたペットボトルがうまい具合に私の手の中に落ちてくる。
 そういえば喉がからからだった。ありがたくいただいておこう。
 
「どっ、どこの誰だかわかりませんがお世話になりましたっ。着替えて帰りますので向こうむいててもらえませんっ?」
「へぇ、どうしてこうなっちゃったか気にならないんだ。余裕だね」
「そっ、そんなんっ」
「ちなみに事後だけど」
「ぶふーっ!」 

 口に含んだ水が勢いよく噴水状に巻き散って、布団を濡らす。
 なにがどうしてこうなった!?
 

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Date:2015/09/12
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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