空色なキモチ

□ 思い出のヘニョロロ □

思い出のヘニョロロ 2

第二話

なにがどうした?




 披露宴が終わり、千鶴子と一緒に帰ろうとしていたのに美奈の同期に誘われ断りきれずに二次会に参加することになってしまった。
 速攻逃げればよかったと思いながらも渋々近くの店へ移動することに。
 引き出物がやたら重くてその辺置いて帰りたくなるわ。ふたりの名前や顔が入った皿とかマグカップとかならためらいなく割るつもりなんだけど、美奈のテンションならやりかねないし。

「同期だけで盛り上がればいいのに。めんどくさい」
「本当だよ。向こうだってお局がいない方が気が楽なはずなのに」
「それよりあんた、新郎側の友人に良さそうな人いないの?」

 千鶴子にちゃんと見るよう促されたけどすでに酔いが回った頭じゃ判断基準も鈍るってもんよ。
 新郎の義隆は私よりひとつ年上の二十九歳。
 社の人間が多いけど、その中に大学時代の友人もちらほら参加しているようだ。でもみんな独身もしくはフリーとは限らないじゃん。指輪してなくても結婚してる可能性だってあるだろうし。

「こんなところで探しても……」
「りるは、あんたバカね。こういうところでの出会いを侮っちゃいけないよ。向こうだって目を光らせて新婦側の参列者をハンティングしようとしてるって」
「スナイパーかよ!」

 ぎゃははと笑ってみせるけど千鶴子は至って真面目にうなずく。

「スナイパーだよ。全スキル駆使してあんなやつよりデキるイケメンゲットしなよ」
「モンスター狩りかって。そこボケるところだし、狙われるのは美奈と同い年のわっかーい子だけだよ。それこそお局になんか興味ないっしょ……ってことは、うちらは引き立て役で呼ばれたってことか」
「自覚したくはないだろうけど、そうだね。そしてその事実に今ようやく気づいたあんたをどうしても嫌いになれない自分がいるわ」
「そりゃどうも」

 千鶴子の上げてるんだか下げてるんだかわけわからないお返事に妙に納得した。
 気づいてたんかい! ってツッコミすらできないくらいすとんとおさまった感じで。
 それにのこのこついてきた自分がおかしすぎてまた大笑いしてしまう。千鶴子は左手の薬指にリングが光ってるから最初から対象外だろうけど、ブーケトスにも(渋々)参加していたお局女がこんなところで管を巻いているのを見たって誰もいい気はしないだろう。

「だけどあんただって黙ってりゃなかなかいい女だと思うよ。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は……とまではお世辞にも言えないけど、プクッ」
「そこまで言ったのならみなまで言えや」

 とりあえずなるべく周囲を不快にさせないよう酔いの回った頭をフル回転させ、新郎新婦から一番離れた座り心地のいいソファに深々と腰をかけて一息つく。今はビンゴ大会の準備中でほとんどの参加者が美奈たちのそばに群がっている。そこに機械があるからね。
 千鶴子が旦那に電話がてらトイレに行くというのでビンゴカードを預かっておいた。迎えに来てもらうのかな。うらやましい。

 暗い照明の中ぼやける目をこする。
 すでに眠いんだよ。結構飲み過ぎた自覚はあるんだよ。
 腕時計を見ると十九時を回っている。
 遠くの方で「Bの八番」と言ってるのが聞こえて自分のカードを見る、うん。ない。千鶴子は……あ、あった。運がいいな。
 グラスを傾けながら一応耳はビンゴの方へ向けている。賞品なんだろうな。どうせ大したもんじゃないだろうけど。

「Iの二十二番、あるじゃない」

 千鶴子がいたスペースに人が座ってきて少しだけ私の身体が浮く。
 持っているビンゴカードを覗き込んできたのは質のよさそうな礼服を着た男性だった。いや、男性の礼服なんてみな同じに見えるんだけどね。

「ほら、早く開けないと」

 すっと手が伸びてきて私のビンゴカードの二十二番を開けてくれた。
 そうだ、千鶴子の方は……ありゃ、ないや。

「あれ、リーチじゃん」

 長い指が私のカードを示す。
 リーチ? リーチってなんだっけ? まあどうでもいいや。
 グラスを片手にワインに手を伸ばすと、隣の男性がそれをすかさずとって私のグラスに注いでくれた。

「……どうも」

 軽く会釈だけしておく。
 うちの社員じゃなさそうだから新郎側の友人だろう。とりあえず大人の女性の対応だけは忘れないようにしておこう。

「どうも、上野の大学時代の友人で長谷部律(はせべりつ)と申します」

 え、こんなところで自己紹介必要ある?
 しかも名刺まで。いらないっつーの。だけど出された名刺を受け取らないってのもよくないよね。
 しょうがないから持っていたグラスをテーブルに置いて名刺を両手で受け取った。うう職業病かしら。
 とりあえずもらいっぱなしというわけにもいかないからハンドバッグからパスケースを出して名刺を一枚取り出す。

「新婦の元同僚の神戸りるはです」
「変わったお名前ですよね」
「よく言われます」

 愛想笑いを浮かべて前を向き直る。
 この漢字で『かんべ』はいるだろうけど『ごうど』は数少ないと思う。もしかしたらどこかの郷土では多いのかもしれないけど少なくとも周りに同じ読み方の人がいたことはなかった。

「りるは、かわいい」
「――っ!」

 一瞬ドキッとしてしまったじゃないか。
 名刺を見ながらにこっと微笑んでいるから名前のことだとすぐわかった。
 勘違いなんてしてないし、三秒ルールでセーフだもんね!
 どうせ似合わないし、見た目にはかわいい要素なんかひとっつもありませんよーだ。
 まっすぐの黒髪は長くて重い印象しか与えないし、少し染めてふわふわにすればそれなりに見えるのかもしれないけどいい年だし美奈みたいにきゃぴきゃぴにはなりはしないだろうな。
 ええい、くそ。この緊張感を返せと詰め寄りたいけど見知らぬ男性にそんなことはできっこない。
 
「この後予定あったりします?」
「――は?」
「もしよかったら、近くにいい店があるんですけど一緒にいかがでしょうか」

 ……なにがどうした?
 まじまじとその男性の顔を見るとなかなかの美形に見えるぞ。酔っているせいか?
 いや違う。きりっとした眉に切れ長の瞼。結構私好みの顔。
 唇もきゅっとしまっているように見えるけど案外こういうのって柔らかかったりするんだよね。このスーツの下ってどんな感じだろう。見た目細そうに見えるけど、脱いだらすごいんですタイプ?
 ……って、どこ見てるんだろう。
 首をぶんぶんと横に振って、遠ざかりそうな現実に引き戻る。
 人の良さそうな笑みを浮かべたこの男はなにを考えてるのか。もっと若くてかわいいおなごがたくさんいるってのに。
 ははあ、後腐れのなさそうな年増の女を選んだってことか。
 若い子だったらこれだけの美形に言い寄られたら本気になってしまうかもしれないし、そうなったら責任を取らなきゃならなくなるもんね。
 お手軽にワンナイトラブを楽しむなら……って物色してすでにできあがったこの女だったら簡単に食えるだろうって算段か。
 年増の女だっていざとなれば結婚迫ったりもするんだよ。むしろ年増のほうがその傾向強かったりしない? 若い頃培ってきたプライドなんかくそくらえってなるんだよ。あれ、プライドって培うもの? 
 いや私はならないけども。だって三年つき合ってた男に結婚の「け」の字すら持ち出せずにいたチキンなんだから。

「いいですよ」

 別に一夜だけのつきあいだってかまうもんか。
 いいよ、遊んでやろうじゃん。
 名刺を団扇のようにして顔のそばで仰いでみせるとぱあっと明るい笑顔をされた。うっ、まぶしいぜ。案外かわいいじゃん。

 律、ねえ。
 どこかで聞いたことのあるような……ああ、今気になってるドラマのヒーローの名前だったかな?
 
 結局は早々リーチになった私のビンゴカードは決定打に欠けたのかはたまた聞き逃したのかビンゴになることはなかった。


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Date:2015/08/12
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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