空色なキモチ

□ 満月の夜に見る夢は □

満月の夜に見る夢は 第3章 第38夜 翔吾side

 
 あれから雪乃は電話にもメールにも出ない。かろうじて電源は着いているけど。


 何があったんだろう。急用だなんて。
 しかも今日帰らないかもしれない? 誰かと一緒なのか聞いても何も答えないし。
 嫌な予感しかしない。だけど真奈美には彼女に関わらないよう釘を刺してある。

 
 帰っても雪乃がいないなら急ぐ必要もない。
 しょうがないからクマさんの店に行って、カウンターでビールと軽く食事を済ませた。


「雨ちゃん、随分ピッチ早いんじゃない?」


 店長のクマさんがしぶしぶビールを出してくれたけど、もうやめておけって顔に出ている。
 少し悩みながらもそのビールを口にした。


「これで最後。だって雪乃の奴、俺と約束してたのに急用ができたって……しかも今日帰らないかもって言うんだ。酷くない?」

「雪乃って、この前の女の子? つき合ってるの?」

「あーうん。でもさ、なーんか隠しごとしてるんだよね。あまり思ったことを口にしないってか、抱え込むタイプで……」


 雪乃の唯一直してほしい部分を口にして再確認した。
 そうだ、雪乃は抱え込むタイプなんだよな……なんで俺に言ってくれないんだろう。


「そんな大きなため息つくと幸せ逃げていくよ?」

「……だよね。だけどさ、不安なんだよ、俺」

「不安?」


 クマさんが眉根にシワを寄せて顔を寄せてくる。
 俺のこと気にしてくれてるんだ……今日ここに来てよかったな。ひとりでいたらクサってたはず。


「ん……すげえ好きなのに、全然俺の気持ち伝わってないのかなって思うし、逃げられたらどうしようって」

「へー、本気で惚れてるんだ?」

「本気も本気だよ……初恋だし」

 
 絶句するクマさん。

 まあ、当然と言ったら当然かもな。いい年した男がこんなこと恥ずかしげもなく言ってるわけだし。
 だけど本当の気持ちに嘘はつけない。クマさんにはつい何でも言いたくなってしまう。
 兄貴のような包容力みたいなのがあるんだよな……三浦さんとは違う何かが。


「ああいう子が雨ちゃんを狂わせるんだ……」

「もっと派手好きかと思った?」


 へへっと自嘲の笑みを浮かべて見せると、クマさんが首を横に振る。


「そうじゃねえ。一見目立たないような子だけど何か惹きつけるものがあるんだろうなって思っただけだ。気にすんな」


 クマさんがニマッと笑って口元の髭が少し動く。
 この髭もクマさんならではって感じで見ていると落ち着くんだ。


「惹きつけられっぱなしだよ……もう雪乃がいないと生きていけない」

  
 時計を見ると二十一時半を過ぎている。やっぱり帰って雪乃を待とう……。

 残りのビールをあおって会計を済ませた。
 こんな気持ちで家には帰れない。雪乃が帰ってくるのを期待して雪乃の匂いのする布団に包まろう。


「また連れてこいや、雪乃ちゃん」


 暖簾をくぐって店を出ようとした時、クマさんに言われてうなずいた。





 雪乃の家に着いたのは二十二時半をまわっていた。

 勝手に風呂を沸かし、入浴を済ませる。
 缶ビールを数本近所のコンビニで買ってきたので、それを飲みながら雪乃の帰りを待った。



 二十三時半を過ぎても連絡ひとつない。
 もう一度電話をしてみるか……あんまりしつこくかけていやがられたくないから我慢していたけど……。
 

 コール音が鳴る。
 やっぱり電源は切れていない。約束は守ってくれている。

 でも今どこで誰と何をしているのか。気になってしょうがない。
 帰ってこれるのであれば迎えに行ってやる。
 ここに車はないし、あっても酒を飲んでしまったからタクシーでだけど。


 ――プッと音がして通話に切り替わった。


「雪乃? まだ帰って来れないの?」

『……』


 小さな溜息みたいな呼吸音が聞こえる。


「今どこにいるの? 帰れそうなら迎えに行くから」

『……風間ちゃんを悲しませるなってオレ、言ったよな?』


 聞き覚えのある男の声。
 なぜ、雪乃の携帯から? しかもこの声の主は――


「三浦さん?」


 それは紛れもなく三浦さんの声だった。

 コール間違いをしたのかと思い、慌てて携帯の画面を見ると表示は“風間雪乃”になっている。
 雪乃の電話に三浦さんが出た。雪乃と一緒にいるのは……三浦さん?

 なんで雪乃の電話に三浦さんが出るのか? 雪乃がそれを容認している状況なのか? 
 俺の頭の中はパニックしていた。そんな状況になっていると想像したら、雪乃にも腹が立った。
 


「……え? ちょっとよくわからないんですけど……なんで三浦さん? 雪乃は?」

『おまえなら風間ちゃんを幸せにしてくれると思ったのに……とんだ見当違いだったな』 

「雪乃にかわってください!」

 
 俺の質問に対する答えと違うものを返されて苛立ちを覚え、つい声を荒らげてしまった。


『悪いけど、もう引かない。おまえに風間ちゃんは渡さない。本気で奪いにいくから』


 意味がわからない――

 三浦さんの怒気を含んだ声が耳にこだまする。
 本気で奪いにいく? 雪乃を? 俺から奪うっていうのか?

 三浦さんは、雪乃のことが好きなのか?


「三浦さん! 待ってください! 雪乃と話を……」


 ガチャリと無機質な音が通話口から聞こえ、通話が途切れた。



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Date:2013/02/08
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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