空色なキモチ

□ 続)重ねた嘘、募る思い □

続)重ねた嘘、募る思い 1

第一話

好きな人には好かれない




 好きな人には一生好きになってはもらえない。
 そういう星の元に生まれてきたんだと私は中学三年の時にすでに悟っていた。

 自慢じゃないけど私はモテるほうだと思う。
 クラス外の男子にも声をかけられたり、告白もされている。その度に断わるのは申し訳なかったけど、なんとなくつき合うっていうのも違うと思うから。
 
 ――いいお友達でいましょう

 その言葉をかければ今まで通りに接してくれる男子は多かった。
 その逆で思い切り避けられるようになったこともあるけれど、それはそれでしょうがない。私だってそんなふうに言われたら避けてしまうかもしれないもの。
 傷つけたくない。だから友達でいたかった。それをわかってくれた相手は仲のいい男友達になってくれた。その関係が楽しくて一番気楽だった。
 男女問わず仲良くするのが楽しかった。

 ただ、その輪に加わらない人もいた。
 いつも自分の席で物静かに本を読んでいる女子、それが花音。
 私の従姉妹で産まれた時からいつも一緒、双子みたいに仲良く育てられたいわば私の分身。
 中学に入った頃から「目立ちたくないから学校ではあまり話しかけないで」とお願いされているからあまり仲良くしてはいなかったけど。
 うちは母親が看護師で夜勤が多かったから、その時はいつも花音の家でご飯を食べさせてもらったり泊まったりしていた。花音の両親は私の第二の両親だからパパママと呼んでいる。
 花音の両親も私の両親もお互いを実の娘のようにかわいがってくれるし、悪いことをしたら真剣に怒ってくれる。両親が二組いることは私の自慢でもあった。
 
 家では花音と学校の話をたくさんしていた。
 私は花音のことをよく見ていた。だから花音がこっそりひとりの男子を見ていることに気づいていた。
 そのことを告げると真っ赤な顔で俯いて「誰にも言わないで」と蚊の鳴くような声で言うもんだからかわいくて約束の指切りを交わした。

 しばらくして花音がその意中の男子といい感じになっているところを見かけた。
 ふたりで裏庭の方に向かっていく姿や階段の踊り場で目立たないようこそこそ話しているところも。
 これはいい光景だと思ったのに、なぜか花音の表情は暗かったのが気になった。
 しばらくして花音がその男子と話さなくなったのを見て、別れたんだと知った。
 聞けば花音は誤魔化すように笑う。だけどその笑顔が悲しそうで無理しているのが伝わってきて私まで寂しかった。

 そんな花音を人知れず見つめている視線に私は気がついた。
 花音と同じように休み時間は静かに本を読んだりして仲間の輪に入らない男子。

 醍醐一真。
 細くて背が高く、歩く時波打つように左右に揺れる上半身。
 凝視したことはないけれど、黒縁眼鏡の似合う無表情真面目系男子だと思う。
 医者の息子で秀才。成績は常にトップで将来は父親の経営する産婦人科医院の跡を継ぐと言われていた。
 クラスメイトの男子には産婦人科は刺激的なようで、よくからかわれているのを見た。
 女の下半身ばっかり見るエロドクターだとか幼稚な野次を聞こえよがしにぶつけられても醍醐くんはそれに反応せずに無視を決め込んでいる姿は正直かっこいいと思った。

 醍醐くんが花音を見る視線に気づかなかったら、私が彼の存在に気づくことはなかったかもしれない。

 花音と同じような黒縁眼鏡。
 花音を見る時だけ口元に柔らかい笑みを浮かべていた。

 そこから読み取れる感情はただひとつ。


***


  中学三年の夏。暑い日の放課後。
 クーラーの効いた涼しい図書室、書架の影に佇んで本を選んでいる醍醐くんが勉強をしている花音の背中を見つめていた。
 一見クールな彼のどこにこの熱い感情が隠されているのか、興味が沸いた。 

「醍醐くんって、花音のこと好きなんでしょう?」

 その背中に声をかけると、花音に向けるものとは真逆の恨みがかったような怖い視線が私に突き刺さる。
 ばつが悪そうに歪められたその顔はすぐに背けられ、耳まで真っ赤に染まっているのに気づいた私はストレートにぶつけすぎたかなと少しだけ後悔していた。
 否定もせず離れて行こうとする醍醐くんがなんだか可愛く感じてしまって、もう少し話してみたい心境になってしまった。

「大丈夫、誰にも言わないから」

 ぴたっと醍醐くんの足が止まったと同時にこっちを振り返る。
 すでにいつものポーカーフェイスに戻っていて、斜に構えた感じで私を凝視していた。

「言われて困ることなんかないけど」
「あ、そうなの?」
「別に……藤城さんの言うこと肯定してないし」

 あ、私の苗字知ってたんだ。そのことに驚き。
 せわしなく彷徨う視線は私を捉えない。
 むしろ私の存在を逃がすように、見ないようにしているとしか思えなくて吹き出しそうになった。
 醍醐くんの態度全てが肯定を表しているってこと、全然気づいていないのがかわいく思えてしまう。
 ふいっと元行く方向に向き直って柳の木よろしく歩いていく醍醐くんともう少し話してみたいと思ってしまった私は、何も考えずに頭に浮かんだことを口にしてしまっていた。

「とりもってあげようか?」

 再びぴたっと醍醐くんの足が止まる。
 まるでスローモーションのようにゆっくりと振り返った彼が目を眇めて私を睨んだ。
 だけど顔全体が赤くてその凄みには怖さが感じられない。
 いつも無表情の醍醐くんにこんな一面があっただなんて誰も気づいていないだろう。
 醍醐くんは自分の足元を見て小さく舌打ちをし、苛立ちを隠せないといった態度が見え見えなんだけどここで笑ったらきっと彼の機嫌を損ねてしまうと思って必死に堪える。

「そのかわりさ、勉強教えてよ」

 はあ? と目を見開いた醍醐くんがため息をこぼす。

「藤城さん、成績いいでしょ? 僕が教えることなんて」
「何を言いますか。毎度学年トップの醍醐くんに比べたら。私数学苦手で総合ランク下げてるんだよね。得意でしょ?」
「……まあ」
「じゃ、交渉成立ー」

 近づいて掌を差し出すときょとんとされた。
 契約の握手のつもりだったんだけど、頭がいいわりに察しが悪そうな醍醐くんの右手を取って強引に握らせた。


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Date:2015/02/06
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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