空色なキモチ

□ 掌の鼓動 □

掌の鼓動 5

第五話

現在 2




「ごめ、大丈夫、です」
「大丈夫って」
「続けて、ください」

 両手で胸を隠し、小さく震える有紗をこのまま抱けるほど郁弥は女に飢えてはいなかった。
 抱こうと思えば抱ける女はたくさんいる、そんな自制心が働いたのも事実だったがそれでも有紗を抱いてみたいとも思っていた。単なる漠然とした興味みたいなものだろう。

「おまえ、初めてなの?」

 少し苛立った様子の郁弥の声のトーンに再び有紗の身体が小さく跳ね、少し間をおいた後、目をぎゅっと閉じたままこくこくと二度うなずいた。

「じゃあなんでセフレでいいなんて言う?」

 大きな舌打ちをした郁弥の身体が離れていくのを感じ、目を開けるとすでに背を向けられていた。
 苛立ちを隠しきれないと言わんばかりに前髪をくしゃっとかき乱した郁弥の背中を見つめ、更に涙が溢れ出す。
 この人に初めてをもらってほしい、そう思ったのに。その思いは今でも変わっていない。

「大丈夫です! お願い、続けてください!」

 胸を両腕で隠しながら起きあがってその背中に訴えかけると、胡散臭そうに郁弥が振り返る。

「なんでそんなに」
「お願い。大丈夫だから。初めてはあなたがいい」

 なにを言ってるかわからなくなってまたぼろぼろと涙が溢れる。
 なんでこんなにも郁弥がいいのかわからない。 
 だけど、ひとつだけわかっていた。ここでこの手を離してしまったらもう二度と友達にすらなってもらえない気がしたから。
 すすり泣くその姿に大きくため息を漏らした郁弥が優しく有紗の身体を押し倒した。
 ぽすん、と自分の身体がベッドに沈んだのに気づいてうっすら目を開けると、逆光にはなっているものの明らかに困惑顔の郁弥が見下ろしていた。

「変な女」

 首筋に郁弥の顔が埋められる。
 少し柔らかい髪がふわりと柑橘系のいい香りを放出していた。くすぐったくて、だけど心地よかった。あの男とは違う。
 つつっとなぞるように舐められ、ちりっとした刺激を感じた。
 唇で何度も鎖骨の辺りを吸いつかれ、どんどん下降してゆく。小さな刺激が優しく有紗の胸を捉えた。その瞬間やはり身体は震えたけど、さっきのような恐怖心は湧かなかった。赤ちゃんのように吸い上げられ、胸の双丘を下から優しく持ち上げられるように揉みしだくその手つきが優しいものに変化していたから。

「あぁ、あっ……」

 痛くも怖くもない。
 それどころか妙に身体が、特に背筋がぞくぞくするような疼きを感じ、それは腹部から下半身にかけてどんどん強くなってゆく。初めてもたらされる刺激にすでに息は上がっていた。
 身体のラインを確かめるように郁弥の手が腹部を伝い、腰を撫でるように下がってゆく。その刺激だけで身体は反応を示すくらいになっていた。
 太腿の外側を何度もさするようにされ、膝を立てさせられる。膝頭を優しく指先が這う。くすぐったさと心地よさで思わず笑ってしまいそうになるくらい行為に没頭していた。
 郁弥の手が有紗の下着を捉え、ゆっくり下ろしてゆく。
 その時はさすがに身体を強ばらせ、情けない顔で郁弥を見つめた。だけど郁弥は顔色ひとつ変えず有紗を見つめている。

「乱暴にはしない」

 その言葉に胸が熱くなって、うんとうなずいた。
 下着を下ろしやすくするため軽く腰を上げると容易に脱がされた。羞恥とベッドシーツがヒンヤリと感じて全身が粟立つ。
 自分だけ生まれたままの姿で、目の前の郁弥の着衣は何ひとつ乱れていない。さっきのバスローブと制服の差なんか比較できないくらい恥ずかしかった。膝を立てているから身体の中心は丸見えになっているはず。郁弥がどんな顔でそれを見ているのか怖くて目を開けられなかった。

「んっ!」

 何をされるかわからない状態で、いきなり郁弥の指が陰唇を広げて陰核の部分に触れた。
 はじめは指先で軽くノックするように触れられ、その後包皮をそっと剥かれた。最初はぴりっとした小さな痛みのようなものを感じたが、すぐにそれは収まって剥き出しになったその部分にぬるりと生暖かい感触が走る。そして、ずぷりと膣口に指が埋められた。

「ひっ、あぁ!」

 変な声を上げてしまったと思う間もなく、郁弥の舌が容赦なく陰核を、指が膣壁をなぞるように刺激を与えてゆく。その中からじわっと愛液が溢れ出すのを感じた。胸への刺激とは違う、電流が背骨を抜けていくような感覚に呼吸は乱れ、全身をびくりびくりと跳ね上げさせる。足先は何度も空をかき、まるで痙攣するような状態になった。

「やっ! やめっ、て」

 排泄にしか使わないその部位に郁弥が口を付けている。しかも犬が水を飲むかのようにぴちゃぴちゃと音を立てて。
 引き離そうとして、郁弥の髪に指を通すけどその手には全く力が入らない。まるで自分の手じゃないみたいにいうことをきいてくれない。
 郁弥は構うことなく続けてゆく。有紗の愛液の増加を感じながら中に沈める指を無言で二本に増やした。そこからしたたり落ちるくらい流れ出す愛液が次第にシーツを染めてゆくのを確認し、有紗が感じていることに小さな安堵と興奮を覚えた。

 初めてに恐怖心を抱かせてはいけない、その思いが郁弥を動かしていた。
 それは有紗を思いやるものであるように思えたが、実際は行為を嫌悪させることによってこの関係が持続できないような気がしたからだった。
 口淫は今まで数えるくらいしかしたことがない。身体の関係だけと割り切った相手には一度もしたことがなかった。だけど郁弥は有紗に対して自然にそうしていた。
 有紗の膣内は硬く閉ざされており、指を増やしてよく解さないといけなかった。
 もどかしい気持ちを抑え、じっくりと丹念に何度も指を出し入れする。ぬちゃぬちゃと水音は大きくなり、吸いつくような感触に少しでも早く自身を埋め込みたくて郁弥の指の動きが加速してゆく。その動きに翻弄された有紗が何度も身体を跳ねさせ、その嬌声は次第に大きくなっていった。
 やがて最初の波が有紗を襲う。追いつめるように身体の中心を駆け巡ってゆくその感覚に飲み込まれそうになり、恐ろしくて必死で助けを求めていた。
 やめて、助けてと叫び声をあげる有紗を後目に、自慰の経験もないのだろうと悟った郁弥は「そのままいけ」と冷やかに言い放った。
 助けるどころかその手を緩めようともせず、刺激を与え続ける郁弥をどこかで恨めしく思いながらもこれが達するということなのだと知った。その瞬間かなりの疲労が全身を襲い、がっくりと力が抜けてただ喘ぎ呼吸を繰り返すことしかできなかった。

 これで終わりならどんなにいいだろう。
 だけどこれからが痛みを伴うものだと知っていた。有紗の足の間で立て膝をついた郁弥がスラックスの前を寛げている姿をぼんやりと眺めてしまう。

「見んなよ」

 胡散臭そうな表情を向けた郁弥が歯で小さな四角いパッケージを噛み切った。
 あれは避妊具だろう。初めて見る代物をじっくり観察したかった。どうやって装着するのか興味があった。だけど見るなと言われてしまったので、おとなしく目を閉じた。
 乱れた呼吸はなかなか元に戻らず、目を閉じたまま大きく息を吸い込むようにしていると、腰骨辺りに郁弥の手が触れた。びくっと身体を強ばらせ目を開けると、腰の辺りにクッションを挿入されていた。
 自分の秘所が郁弥の近くになるのが恥ずかしくてぎゅっと目を閉じるとくすっと小さな笑い声がする。それと同時に硬いものが宛てがわれ、その刺激に再び身を硬くした。

「あ、あ」

 声まで震わせる有紗に郁弥の嗜虐心が顔を覗かせる。
 もっと声を上げさせたくて、自身を擦り付け陰核を刺激すると、有紗はびくびくと身体を震わせた。
 声を抑えたくてもどうにもならなくて必死に両手で口を覆うけど、郁弥の与える刺激に再び波に飲まれそうになり、ただただ喘がされている自分を持て余していた。
 その刹那、焦点を定めたように有紗の秘唇が開かれ、にちゃっと濡れた音と共に郁弥の陰茎が入り込んでくる。
 最初は感じなかった痛みが熱と共に有紗を襲う。
 郁弥を異物として捉えているかのように膣壁はぎちぎちと軋み、滑りが悪くてなかなか中に進んでゆかない。潤ってはいるのに入ってゆかないもどかしさに郁弥はやや強引に腰を落としてゆく。

「や、あっ、痛っ」
「力、入れんな」

 そうは言われても、どうやったら力が抜けるのか教えてほしいくらいに有紗の頭の中は真っ白だった。
 さっきまでもたらされていた疼くような刺激とはかけ離れた痛みにまともに言葉すら発することができない。
 郁弥にも余裕がなくなったのか少しだけ荒くなった呼吸音が室内に響き出す。まだ半分も受け入れていない結合部を見つめ、有紗の腰を強く掴み上げるとそのまま一気に貫いた。

「っ! あああああ!」

 身体を半分に裂かれるような激しい痛みが押し寄せ、絹を切り裂くような叫び声が反響した。
 あまりの衝撃に息が詰まり、ばくばくと増加していく胸の鼓動が苦しかった。まるで締めつけられているような感覚に、空気を求め自然に首が後屈してゆく。 
 
 小さく震えて唇が紫色に変色した有紗を見、征服感が一気に沸き上がって自身が更に膨張してゆくのがわかった郁弥はすぐに律動を開始した。
 軋み上げる膣内を何度も激しく抽挿を繰り返す動きに合わせ、ベッドがギシギシと音を立てる。
 すすり泣くような有紗の途切れ途切れの言葉にもならない声を聞きながらそれでも郁弥の激しさは少しも緩まない。痛みに次いで押し寄せる未知の恐怖が有紗の頭を少しだけクリアにし、肌のぶつかり合う音やお互いの接合部で奏でる濡れた音をどこか遠くで聞き感じていた。
 耳の側で切なげに吐き出される郁弥の荒い息遣い。したたり落ちる汗が有紗の頬を濡らす。 
 身体を激しく揺さぶられ、有紗の足がその動きに合わせるかのように何度も空をかく。
 ぐぐっと更に奥に押し込まれたのと同時に首筋に痛みが走る。噛みつかれたのだとわかるまで少し時間を要した。そこをべろりと舐めあげられてゾクリとした。
 さらに動きの激しさを増す郁弥に腋下から手を差し込まれてしがみつかれる。
 結合部の痛みは徐々に和らぎを見せたが腿の付け根の辺りが痛み出した。自身の秘所の灼熱感が徐々に増し、そこから滲み出すように液が生み出され、尻のほうにまで伝ってゆく。

「り、さ……りさっ」

 激しい吐息と共に苦しげに掠れた声で紡がれる名前。
 自分の名前のような気はしなかったけど、求められているようでじんわりとうれしさがこみ上げてくる。
 自分を求めてくれる人なんて今までいなかったから。
 貫かれている痛みも郁弥の切なげな声も少しずつ遠ざかっていきそうになった時、急に動きが早められた。再び秘所に意識が集中し、ぐんと広げられるような感覚の後、郁弥の呻くような声と共に腰をぐっと押しつけられた。

「あ、あ」

 小さく声を上げた有紗の身体が更に強く抱きすくめられ、郁弥の身体の重みがずしりと圧し掛かってきた。耳元で大きな吐息が繰り返される。
 
 優しい声で「りさ」と耳元で囁かれ、有紗の眦からつうっと涙が一粒零れ落ちた。


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Date:2014/10/08
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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