空色なキモチ

□ 掌の鼓動 □

掌の鼓動 2

第二話

プロローグ 2
 
【有紗と圭理】
 




「有紗、おはよう」
「圭くん、おはよう」

 通学中の有紗が名を呼ばれて振り返ると、黒く艶やかな髪が風になびいてさらりと音を立てた。
 その相手に満面の笑みを浮かべて近づいてゆく。

 圭くんこと天道圭理(てんどうけいすけ)は、みすぼらしい捨て犬のように家の前でうずくまっていた幼い有紗を救った少年である。有紗を見つけたその当時、圭理は十六歳の高校生だった。 

 圭理が有紗を保護して家に連れ帰った時、両親は酷く困惑した。
 よそ様の子どもを無断で連れてくるなんて誘拐紛いなことをするなと叱ろうとしたが、手を引いている有紗の姿があまりにも小さくやせ細り薄汚れていたため、なにも言うことができなかった。
 圭理の母親の朋美(ともみ)が有紗を風呂に入れると、その身体は痣だらけだった。すでに消えかかっているものと真新しいものが数え切れないくらい点在している。
 どうしたのか問えば『転んだ』と答える有紗がかわいそうで、びしょぬれになりながら朋美は有紗をかき抱いた。

 圭理の父親の理平(りへい)は有紗の住んでいるアパートの近くで産婦人科医院を開業している。
 腕がよく、医師だけでなく看護師も事務員もとても親切だと評判のいい病院で、クチコミで尋ねてくる妊産婦も多い。不妊治療にも積極的で大学病院との提携も取れている地域密着型の医院のため、客足が途切れることはない。
 そして現在、圭理も同じ病院の産婦人科医として働いている。
 ゆくゆくは現院長である理平の跡を継ぎ、院長になることが確定していた。
 
 朋美に有紗の身体の痣のことを聞かされた理平も見過ごすことなどできなかった。
 家を出された時はいつでもここに来なさい、そう言われて有紗は救われた。

 元々引っ込み思案の有紗は小学校に入学しても友達はできなかった。
 それだけではなく美春が水商売をしていることをネタにからかわれ、いじめの対象にされていた。
 授業参観にも親の姿はなく、洋服も破けそうな古ぼけたものばかり。天道家で毎日入浴はさせてもらえたものの、洋服を買い与えれば美春がいい顔をしなかった。
 それどころか遠まわしにネグレクトを指摘され、美春は逆上した。

『食べ物を与え、着るものだって着せている。他人に何を言われる筋合いもない、今の生活レベルをこれ以上あげることなんかできないのだから、あんた達の自己満足で一時的な施しはやめてくれ』

 その他にも口汚い言葉で罵り続け、手のつけようがなかった。
 事を荒立てれば有紗に危険が及ぶ可能性があると判断し、せめて手をあげるのだけはやめてほしいと頭を下げたのは天道夫妻のほうだった。
 日中だけでも有紗が天道家で生活することを認めてほしいという強い願い出に、美春はしぶしぶ了承するしかなかった。
 
 いつもひとりの有紗の遊び相手は圭理だった。
 高校生の男子にしては面倒見のよい圭理は一緒に絵を描いたりぬり絵をしたり、時には遊園地や動物園に連れて行ったりもした。

 圭理がいたから有紗は道を外さずに育ったといっても過言ではない。

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Date:2014/10/05
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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