空色なキモチ

□ 満月の夜に見る夢は □

満月の夜に見る夢は 第2章 第32夜 翔吾side

 
 俺の腕の中で意識を取り戻した雪乃は俺を拒絶し続けた。

 帰れだの嫌いだの言いたい放題言い放った。
 俺の質問にはまともに答えようともせず、はぐらかすような的を得ないことばかり繰り返す。
 今は熱があるからまともに頭が回らないのかもしれない。諦めて雪乃をひとりにすることにした。
 寝室を出てから振り返ると、布団にもぐって震えているのがわかった。
 

 なんで泣くの?
 泣くほど俺が嫌いなの? 傍にいてほしくないの?

 俺まで泣きそうだった。
 拒絶されることがこんなにも辛くて苦しいことだなんて知らなかった。
 過去のことを思い出したらさらに苦しくなっていった。
 


 大学の時、俺に好意を寄せてくれる女の子がいた。
 だけどその時は誰ともつき合う気がなかったから、最初は仲良くしていたけど徐々に距離を置くようになった。

 その後、その女の子は大学を休学していた。

 俺のせいじゃないのかもしれない。
 俺のせいだと思うのは自惚れになるのかも、と。でも罪悪感は払拭できなかった。

 あの子もこんな気持ちだったのかもしれない……ごめんな。



 気がつけば居間のこたつに突っ伏して寝ていた。
 俺の肩には毛布がかけられていて、つけていなかったこたつもついていた。雪乃が起きて俺に毛布をかけてくれたのがうれしかった。

 寝室を覗くとさっきより少し楽そうな表情で休む雪乃の姿。
 瞼を腫らして痛々しいその顔を穴が開くほどじっと見つめ、頭を撫でてから頬に触れる。
 少しだけ反応を示す雪乃が愛しくて、その頬に口づけを落とした。



 
 お粥を作って雪乃に勧めるもひと口しか食べず泣き出してしまい焦ったが、母親の作ったお粥の味に似ていると言う。
 思い出して泣くほど懐かしかったのか、いつか会わせてほしいと願い出たら簡単に却下された。
 
 そんなに簡単に断らなくてもいいのに。俺は心の中で小さく悪態をつく。


 もう、俺のことを名前で呼んでくれなかった。
 最初の状態に戻っている。雨宮さんと冷ややかな声で呼ばれて辛かった。
 名前で呼ばれないことがこんなに悲しいなんて。
 
 
 雪乃の拒絶の理由もわからないまま帰れと繰り返し言われ、離れたほうが雪乃がゆっくり休めるのかもしれないと俺は自分に言い聞かす。

 薬を飲ませ帰ると伝えて立ち上がると、薬代を払うと辛い身体を起こしあげて金を寄越そうとした。
 頑なな態度の雪乃、こんな時くらい頼ってほしいのにどうして素直に受け入れてもらえないんだろうか。
 そんな真面目なところも大好きだけど、今の彼女は腹が立つほど憎かった。
 だけど、どうしても離れたくなくて、ここで離れてしまったら本当に終わりのような気がして胸が締め付けられた。

 感情のまま強引に抱き寄せ、唇を奪うと思いのほか熱かった。
 一瞬身体を強張らせ、抵抗する体力も気力もない雪乃はすぐに足が立たなくなってしまった。

 こんな君をひとり残してなんか帰れるか。

 何があっても帰らない。
 帰ると言ったのはただのフェイクだ。帰れるわけない。

 
 雪乃の身体を抱き上げて布団に寝かせると、すでにほぼ意識のない状態だった。
 こんなに辛そうなのに、なんでもっと頼らないんだ。俺だからいやなの?
 こんなに好きなのに伝わらないなんて切ないよ。

 だから俺は、思い余って口にしてしまったんだ。


「結婚してほしいんだ、雪乃」


 今は聞こえていなくても、いつか必ずちゃんと言うから。
 今は俺の素直な気持ちだけ、伝えさせて。


 眠った雪乃は穏やかな表情だった。

 俺も居間のこたつで横になって電気を消した。
 カーテンの隙間から月が見える。
 その月明かりに照らされて、俺は静かに目を閉じた。



**



 翌朝、雪乃の家の鍵を拝借し、そこから出社することにした。
 家を出る前に寝室を覗くと、雪乃はよく眠っていた。額はまだ少し熱かった。
 そこにそっと口づけを落とす。ずっとそばにいたい気持ちを押さえるのに必死だった。

 鍵は帰りにまた持って来ればいい、そう思っていたから何も言わずに持ってきてしまった。
 幸い今日は金曜日、明日と明後日は休みだからゆっくり雪乃の看病ができる。そう思ったらうれしくて、少しでも早く帰りたくて仕事を頑張ってこなした。


「雨宮、今日飲んで帰らないか?」


 終業のチャイムが鳴る前、三浦さんに声をかけられて丁重に断る。
 普段なら二つ返事でOKなのだが、今日だけは無理だ。
 早く帰って雪乃に会いたかった。少しでも具合がよくなっていればいいと祈りながら足早に社を後にした。


 俺が家の鍵を開けて入ると、寝室の襖付近で雪乃は目を丸くして驚いていた。
 まるで怯えている猫みたいでかわいくて必死で笑いを堪えたんだ。君は気づいてないだろうけどね。



 雪乃に野菜スープを作って食わせた後、風呂を借りていた時に事件が起きた。
 真奈美から俺に電話がかかってきたのだ。

 雪乃がその電話を浴室まで持ってくる。強張った形相で、急かすようにそれを向けた。
 普通電話だったとしてもわざわざ浴室まで持ってきたりはしないだろう。

 その時、嫌な予感がしたんだ。

 雪乃が俺を拒絶する理由。
 それはもしかして、真奈美に何かを言われたんじゃないかと。
 いつどこで何を言われたかなんてわからない。証拠だってない。ただ、それしか考えられなくなっていた。

 そうじゃなかったら俺の家にいた雪乃がいきなり帰る理由なんてないだろう。

 俺の留守中に家に来たのかもしれない。その時、雪乃に何かを言ったのかも。
 あくまでも推測の域をを出ないが、ないとは言い切れないだろう。一度そう思ったらそうとしか考えられなくなっていた。


 風呂からあがって早く真奈美に電話するよう促す雪乃の態度は明らかにおかしなものだった。
 雪乃は帰れとしか言わない。

 帰るなら一緒だと腕を引くと子どものように抵抗する。
 何があったのか、理由を雪乃の口から聞き出すまでは絶対に引かない、そう決めていた。
 だから泣かせても構わないとさえ思った。泣いて感情のまま思っていることをぶつけてくれたほうがよかったから。

 逃げ惑う雪乃を追い詰めると、涙を流しながら応えた。


「彼女……いるくせにぃ……」


 やはり雪乃は真奈美に何かを言われたようだ。

 
 はっきりそうだとは言わないけど、雪乃の態度を見ていればわかる。
 でも俺から身を引くように仕向けたのは真奈美だろう。


 雪乃に不安な思いをさせて俺は情けなかった。
 もっと早く気づいてやればこんなに辛い思いをさせずにすんだかもしれないのに。
 
 でもごめん、俺はうれしかったんだ。

 雪乃が本気で俺を嫌いじゃないってわかって。
 俺に女がいると勘違いした雪乃が悲しそうに泣く姿を目の当たりにして胸を突かれる思いと共に全身が震えた。

 こんなにも悲しげに泣くのは、俺のことを好きでいてくれているからだろう。

 俺に女なんかいない。
 好きなのは君だけだよ。なんで俺の言うことじゃなくて真奈美を信じたの?

 そんな思いもあって俺は雪乃に少し苛立ちを感じた。
 だけどそれよりも誤解が解けてよかったって思いの比重が高くて。

 
 怯えた目をした雪乃を抱き上げ、ベッドへ運び強引に押し倒す。
 小さく『待って』と漏らす声を聞いたような気がしたけど待ってなんてやれそうになんかなかった。
 もう俺は十分待ったつもりだ。これ以上は限界だった。
 熱が下がったばかりの雪乃には酷なことをしたかもしれない。だけどもう離したくない。心の中で詫びながらも弱い抵抗を見せる雪乃の腕を拘束し、強引に衣服を剥ぎ取った。

 貪るように雪乃の身体中に俺の印を刻み込む。
 触れていない場所なんかないくらいに触れて、撫ぜて、唇を押し当てて、舌を這わせる。
 
 
 早く、早く俺の元に、堕ちて来て。


 俺しか見えないくらいに。俺だけを求めてよ。
 もうやめて、と泣きながら訴える雪乃に同情しながらもやめられない自分。欲に支配された自分。
 まだ、足りない。君が足りない。
 
 
 その時、雪乃の両手が俺のほうに伸びてきた。


「……っ」


 声にならない声音をあげて、果てた俺と力尽きて意識を失う雪乃。
 そのままその身体を抱きしめ、しばらく繋がったまま時を過ごした。


 もう離さないから、覚悟して。


 だけど、その前にちゃんとけじめをつけないといけない。

 

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Date:2013/02/08
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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