空色なキモチ

□ ○○の日 □

7月25日 かき氷の日

7月25日 かき氷の日

Chipped ice is a taste of reconciliation

《幼馴染・中学生》



 
 昼間のうだるような暑さは日が沈むことにより少しだけ落ち着く。

 カナカナカナとひぐらしの鳴き声がどこからともなく聞こえてきて、オレンジ色だった空がわずかに青みがかってくる頃にわたしは日課の庭の水まきを開始する。
 あまり日差しのある頃にまいてもすぐにからっからになってしまうし、日焼けしちゃう。

 ホースの口の部分をぎゅっと指でつかむと水がぶわーっと扇状に広がってゆく。
 そうやると一気に広範囲へ水まきをするのに楽だと教えてくれたのは隣に住む幼馴染の直樹だった。

 目下喧嘩中だけどね!



 期末テストが終わってすぐのこと、喧嘩の原因は『ビキニの日』
 夏休みにプールに誘おうと思って直樹の部屋に行ったら、巨乳アイドルのビキニ姿の写真が掲載されたエッチな雑誌を見ていた。
 そのことはもうどうでもいい。見てた時はエッチだなあと思ったけど、今思えばわたしも過剰に反応し過ぎたのかも。
 でもその後が許せない。わたしの胸が小さいことであーだこーだと言い争いになったから。
 それにそのエロ雑誌は直樹のお兄さん達が「ビキニの日だからって言って渡して来た」とかわけの分からないことばっかり言って。

 でも、ビキニの日は本当だったらしい。家に帰ってきて検索してみたら本当に出てきてびっくりした。
 正確には『ビキニスタイルの日』らしいけど、直樹の口から出まかせだと思っていたから。

 ビキニの日を信じてなかったことは謝ろうと思ったけど、あれから口をきいてないからそれもできない。
 目があえば「ふんっ」とお互い顔を背けてる。
 毎年一緒に行っている七夕の日のお祭りも別々だった。まあ、鈴花と行ったからいいけどね! 
 なんで直樹を誘わなかったのかあれやこれや鈴花に聞かれたけど(そしてそれとなく誤魔化した)
 
「瑠璃ー電話よ」
「はーい!」
「ブホォ!」

 リビングのほうを向いて返事をしたのとほぼ同時に変な叫び声が聞こえてきた。
 嫌な予感がして振り返ると、自分の家の庭からうちとの境の塀越しにこっちを見ていた直樹の顔にわたしが持っているホースの水が直撃していた。しびびびび、と変な音がー。

「ごめ」
「わっ、るいとっ思うっならっ! ホース、のっ、向きっ!」
「あ、そうか」

 なぜか腕で顔を庇うようにして水を避ける直樹の途切れ途切れの訴えで気づく。
 背中を向ければ顔にはかからないのに、何やってんだか。その前に気づけよ、自分って感じか。

「瑠璃ー!」
「はぁい!」

 リビングに繋がる掃き出し窓から再びお母さんに呼ばれ、ホースの水を止めてそっちに向かう。
 そうそう、電話だったっけ。

「おかーさん、直樹にタオルー」
「直くんどうしたの? びしょ濡れ!」
「ホースの水かけちゃった。へへっ」
「笑いごとじゃないでしょー大丈夫?」

 入れ違いにわたしがリビングへ入ると、お母さんは慌てて直樹のほうへ向かって行く。

「はい、お電話変わりました」
『瑠璃ちゃん、ハルだけど』
「あれ、どうしたの?」

 電話の相手は直樹のすぐ上の兄、晴樹くんだった。
 
『今日時間ある?』


**


 電話を終え、庭に戻るとびしょ濡れの直樹がタオルで頭を拭きながらお母さんと話をしていた。
 お母さんの笑いがひぐらしの鳴き声より大きい。そんなに楽しい話をしてるのかな。

「あ、瑠璃。ちゃんと直くんに謝りなさいよ」
「さっき謝ったよ」

 ごめん、だけだけども。
 直樹は唇を尖らせてむっとしている。

「晴くんはなんだって?」
「鳳公園でお祭りやってて浴衣着て行った子だけ抽選ができるんだって」

 しかもその抽選には抽選券が必要らしく、持ってるから引いてきてと頼まれた。
 条件がある分はずれくじなしで豪華賞品が当たると言われてつい引き受けちゃったの。

「じゃあ浴衣着ないとね」
「お願い」
「お願いは直くんにしなさい。一緒に行ってもらうんでしょ?」
「えっ!?」

 わたしと直樹の声がハモる。

「浴衣出してくるから、直くん、瑠璃をよろしくね」
「あっ、の! おばさん?」

 直樹が引き止めるのも聞かずにお母さんはそそくさとリビングに入って行ってしまった。
 もう、全然人の話聞いてないんだから。
 わしゃわしゃと髪を拭く直樹はタオルで顔が隠れててどんな表情をしているのか全くわからない。

「――準備しとく」
「え?」
「浴衣着るのだって時間かかるだろ。十九時半に迎えに行く」

 黄色のタオルが放られ、ふわりと舞う。
 それをうまくキャッチした時にはさっさと自分の家の玄関に入って行ってしまっていた。

「……まだ一緒に行くって言ってないのに」

 でもまあ、いいか。


**


 申告時間より少し前に迎えが来た。
 直樹は黒の七分丈襟付きシャツに中に白のTシャツ、下はデニムシャーリングクロップドパンツ姿。
 なんとなくおしゃれな感じがするからもしかしたらハルくんかヒロくんにコーディネートしてもらったのかもしれない。いつもなら服なんて無頓着でTシャツにデニムのローテだもん。今日はチョーカーまで首にぶら下げてるよ!
 まじまじと見つめていると「なんだヨ」とムッとされた。
 そういう直樹だってわたしの浴衣姿見てるじゃん、お互いさまだと思うのに。
 わたしの浴衣は白地で全体的に藤の花が咲いているデザイン。帯は紫に近いピンク色で無難に蝶結び。髪はお団子にして薄い桃色のかんざしを挿してもらった。七夕の時と全く同じスタイル。
 
「行くぞ」

 ぷいっと顔を逸らすとパンツのポケットに両手を突っ込んで先を歩いて行く。
 こっちは履きなれない下駄なのに。気を遣うとかないのかなあ。もう。
 急ぎ足でついていくと直樹がこっちを振り返って一瞬目を丸くし、歩く速度を緩めた。
 その勢いでわたしが少し前になってしまうと、慌てて隣に並び出す。 
 あれ? もしかして気を遣ってくれたのかな? それとも気のせい? まあいいか。
 
 無言で鳳公園へ向かう途中、わたし達のような男女二人組が結構いるのに気がついた。
 どのカップルも女性のほうが浴衣で男性はラフな恰好。あ、わたし達はカップルじゃないけど!
 手には例の抽選券を握りしめている人もいる。気合入ってるなあ。

「兄貴から預かってきた」

 直樹から渡された抽選券を見ると『浴衣カップル限定』と大きく記されていた。
 
「え! 縛りは浴衣だけじゃないの?」
「知らなかったのか」
「浴衣着てればいいって」
「その抽選券見ると、一緒に回すって書いてある」

 聞いてないよー!
 と、いうことは手を重ねてガラガラとってことだよね。
 今までだったらなんとも思わずできていたかもだけど、今の心境は違うのに。

「なにそのジト目」
「……別に」
「ならいいけど」

 ぷいっと顔を背けられ、またお互いに前だけを向いて歩き始める。
 空を見上げると、まだ少しだけ明るくて雲ひとつない。
 今日が七夕だったら織姫と彦星は会えていただろうな。今年も小雨降ったりやんだりしてたから。

「――っ!」
「あぶなっ」

 上を向いて歩いてたら何かにつまづいて、前のめりに倒れそうになったのをすかさず直樹が抱き留めてくれた。
 転びそうになったのことと抱き留められたことの両方の思わぬハプニングが作用して、心臓が太鼓を打ち鳴らしているかのようにドコドコいってる。
 わたしの二の腕辺りをぎゅっと掴んでいる直樹の手がすごく熱く感じた。

「下駄で足痛めてないか。気をつけろ」
「うん、あ、りがと」

 ぱっと身体を離されて、少し前を直樹が歩いていく。
 だけどゆったりとした歩調だったから斜め後ろをついて歩いた。

 しばらくの間、わたしのどきどきはおさまらなかった。


**


 鳳公園はいつも静かな雰囲気とは打って変わってにぎやかだった。
 祭り特有の笛や太鼓の音、やぐらをぐるっと輪で囲んで割れたような音の盆踊りの曲に合わせ、踊っているたくさんの浴衣の人。笑い声もあちらこちらで飛び交っている。
 焼きそばやたこ焼きの匂いにつられて横並びの屋台を覗きたくなったけど、目的の抽選会場に行こうと促された。
 屋台を楽しみにして夕食をつまむ程度しか食べていなかったわたしはぐぅと鳴りそうなおなかを押さえて直樹についていく。

 
 迷子案内の隣にあるテントの前に『浴衣カップル限定・抽選会会場』と大々的に書かれた看板が立て掛けられていて、限定と抽選会の間の『・』はピンクの紙で作られた花がくっついていた。
 屋台の並びから少し離れたこのテントは意外にも多くのカップルでにぎわっている。やっぱりみんな賞品目当てなんだろうな。
 この中にはわたしと直樹みたいに即席のカップルもいるのかもしれない。
 
 特等はT-Bリゾートホテル宿泊券&パスポートチケット(二日分)
 二組四名様って書かれてるけど一組はもう当たっているみたいで『残り一組二名様』に直されてる。
 二等がT-Bランドの一日パスポート&ディナー付きチケットだった。
 特等は宿泊券ついてるからお母さんが許さないだろうけど、二等が当たったら行きたいな。

「すみません! 抽選機の調子が悪いため、時間がかかりますー」

 係の人が長蛇の列のカップルに大声で伝えると「えー」っと大きなブーイングが聞こえてきた。
 こんなにたくさん並んでるのに、時間がかかるとなると結構待つことになりそう。
 その時、わたしのおなかの虫がぐーっと音を立てて鳴いた。
 だけど周りは騒がしいし、聞こえないだろうと思ってほっとしたのもつかの間、直樹が「くくっ」と笑いを噛み殺した。

「なんか食いに行くか」
「うんっ! 焼きそばとフランクフルト!」
「脂っこいのばっか……」

 呆れ顔をしながらもちゃんとわたしの目当ての屋台に連れて行ってくれて並んでくれたのはうれしい。
 しかも焼きそばもフランクフルトも奢ってくれたの。

「別に奢りじゃないし。半分食わせろ」
「むー、わかった」

 このくらいひとりで食べられる量だけどスポンサーがそう言うからしかたない。
 ベンチはふさがっているため、花壇周りを囲んでいる少し高めの石段に座って食べることにした。
 大きめのタオルハンカチを敷いてそこに座ると硬くて痛かった。だけどこの際贅沢は言ってられない。
 目の前を子供が走り去って行く。人通りがかなり激しく、その人達を見ながらわたしが先にフランクフルトを、直樹が焼きそばをもそもそと食べた。

「あっ! 直樹食べ過ぎ」
「そうか?」
「わたしなんてほら、途中で止めたもん」
「……ナンカイヤラシイ」

 食べかけのフランクフルトを目の前に突きつけると、直樹は食べかけの焼きそばの蓋をそっと閉じてわたしに手渡した。
 どういう意味だろうか。首を傾げながら焼きそばを食べようとして、ふとその箸を止める。

 ……これって、間接キスじゃん。

 気づかなければよかったと思いながら右隣に座る直樹を見ると、わたしの食べかけのフランクフルトに噛りついている。
 しかも何のためらいもなく! わたしの食べかけなのに、気にならないの?

「なんで睨んでるの?」
「べっ、別に睨んでなんかっ」

 気づいていないならいいや。むしろ気づかれたほうがやっかいだ。
 ぷいっと前を向き直ると、カップ山盛りのかき氷を持った仲良さそうな男の子と女の子が笑いながら楽しそうに通り過ぎてゆく。わたしと直樹も昔はあんな感じだったのかな。

「かき氷食いたい」
「わたしも」
「じゃ、早く食えよ。抽選終わったら奢ってやる」
「うそっ、やったー」
「この前の詫びだからな、それで機嫌直せよ」

 この前のことって、巨乳ビキニアイドルの写真のことかな。
 別にもう怒ってないんだけど、ここはおとなしく奢ってもらおうっと。



 抽選をしてかき氷を食べたら目的達成なので、抽選会場に向かいつつ近めの屋台を物色した。
 本当は一番山盛りのかき氷を作ってくれるところがいいなと思ってきょろきょろしていたんだけど……。

「おい! 直樹!」

 どこからともなく直樹を呼ぶものすごいどすの利いた低い声が聞こえてきた。
 直樹なんて名前は多くも少なくもないけど。直樹がきょろきょろと周りを見渡す。
 それにつられてわたしも周りを見ていると。

「あれ、もしかして豊さん?」
「おう、ひさしぶりだな」

 かき氷の屋台の中にいた頭にタオルを巻いてサングラスをかけた顎髭の生えた男の人だった。
 やけに親しげに名前で呼んでるから知り合いなんだろうな……なんだかすごく怖そうな感じだし、かなり年上っぽい。

「おっ、彼女連れ?」

 直樹の後ろに隠れるようにして軽く頭を下げたら顔を覗き込まれた。
 思わずひきつった笑みを浮かべてしまう。

「ちっ! 違っ、こいつはただの幼馴染でっ」
「なーんだそうなの? 彼女ならサービスしてやろうと思ったのに」
「え? 彼女っすよー。決まってるじゃないですか、なっ、瑠璃」

 ……なにそれ?

 今思いきり『ただの幼馴染』って紹介しておいて、奢ってもらえるとわかった途端彼女扱い?
 いきなり肩を抱かれて引き寄せられたことにも直樹のその態度の変化にも胸の奥からこみあげてくるような何かを感じて言葉を発することができなかった。
 だけど直樹は間違ったことは言ってない。
 視線を感じ、自然に俯けていた顔をあげるとサングラス越しにじっと見つめられているような気がして固唾を飲む。

「ふーん、じゃ今からカップル限定抽選行くんか?」
「これから。それ終わったらかき氷食おうと思って」
「んじゃあ帰り寄れや。瑠璃ちゃんだっけ? 何味がいい?」
 
 直樹に話しかける声のトーンよりも、無理に少しだけあげているような感じで尋ねられた。

「え、あ、イチゴ」
「ミルクもかける?」
「……お願いします」 
「おっけー! サービスするから抽選の帰り寄ってね。直樹、おまえは金取るからな」
「えーなんで」
「女の子に……な顔させる……にサービスするわけねーだろ。自覚しやがれクソヤロウ」

 なにかふたりで話してるふうだったけどよく聞き取れなかった。
 

 お互い無言で抽選会場に行くとまだにぎわっているもののさっきよりは確実に人数は減っていた。
 もう二十時半になりかけてるし、わたしも二十一時までには帰ってくるように言われている。
 隣に立っている直樹が「あのさ」とつぶやくような小さな声で言った。 

「さっきの人豊さんっていうんだけど、兄貴達の中学の時の同級生なんだ」
「――え?」

 信じられない! 
 ヒロくんとハルくんと同い年ってことは……十八歳ってこと。どう見ても二十代後半に見えたのにー。

「豊さんに教えてもらったんだ。今日はかき氷の日なんだって」

 そんな日もあるんだ。だからサービスしてくれるのかな。知り合いの弟だし。
 ふうん、と曖昧な返事をして前を向くと、小さな声で「ごめん」と聞こえた。
 空耳? ふと直樹を見上げてみると、目頭に力を込めて俯いている。

「俺、からかわれて恥ずかしくてさ」
「ん?」
「だからただの幼馴染とか……」

 ふいっと視線を背けられた。

「その通りじゃない」
「はい、次のカップルどうぞー。中学生? ん? 彼は高校生かな?」

 わたし達の順番になって、赤いはっぴを着た係の人に促された。
 直樹は大きいから高校生と見間違えられたみたい。
 肯定も否定もせず抽選機に手を伸ばした直樹が振り返り、ちらっとわたしを見た。あ、そっか。一緒に回さないといけないんだっけ。
 直樹の手の上に自分のを添えようと伸ばした手がふわりと包み込まれた。
 わたしの手よりずっと大きくて骨ばっている、と思った時にはわたしがハンドルを握らされていた。
 直樹の動きに合わせてハンドルがゆっくり動き出し、ぐるりと回される。

 コロン、と飛び出したのは黄色い玉。

「四等賞大当たりー!!」

 ガランガランとややこもったようなの鐘の音が鳴り響く。
 なにか当たった! 喜びで直樹と視線を合わせて合図しあう。

「おめでとうーラブラブハートクッションでーす!」
「……」

 出されたものはどぎつい赤と青のハートのクッションが二つ一緒に袋に詰め込まれたものだった。
 わたしも直樹も一瞬にしてあがったテンションがそれを見てダダ下がりで。
 
「仲良く使ってね」
「ハイ……」

 すごく乾いた返事しかできなかった。 




「T-Bランド、行きたかったな」

 ぼそりとつぶやいた直樹の左腕にぶらさがる大きいクッションが詰め込まれた袋。
 これを分けるかどうかの話し合いになった時、直樹は即「いらない」と言った。
 そうだよね。どぎつい色だけでなく、ハートを縁取るようにクッションよりやや薄い色のレースが施されてて、はっきり言えば趣味が悪い。
 
「せっかくハルくんとヒロくんがくれたチケットで当てたものだから大事にしないと」
「いっそのことあのふたりに一個ずつ渡すか」

 想像しただけで吹き出しそうになった。
 ある意味あのふたりがひとつずつ持ってたら笑えるかも。

「豊さんのとこでかき氷食って帰ろう」
「うん」
「あとさ」

 ぼそっと直樹がつぶやいた。
 聞き逃してもおかしくないくらい小さな声で。

「なに?」
「ただの幼馴染じゃ、ないから」
「ん?」

 直樹がわたしの前をさっさと歩き始める。
 
「おまえはそう思ってるかもしれないけど……は違うからな!」
「え? えっ?」
「豊さん! かき氷ください!」
「おう、何が当たった?」
「これっすよーなんだっけ? ラブラブハートクッション?」
「うっひゃっひゃ! ベタなヤツ当たったなあ!」
 
 よく聞こえなかったし、うやむやなまま話が途切れたし。
 豊さんがクッションを見て大笑いしながらかき氷を作り始めた。
 氷がしゃりしゃりと削れていく音が涼しげで、聞いているだけでムシムシとしていた空気が爽やかなものに変化するようだった。手際よく赤いシロップがかけられて氷の山が染まってゆく。

「はい、瑠璃ちゃんのイチゴミルク。直樹はメロンだよな。あとこれはお兄さんからのプレゼント」
 
 山盛りのかき氷にたくさんのイチゴシロップ、そして練乳。すごくおいしそう。
 直樹は白い封筒を一緒に渡されて、とっさに受け取ってしまっていた。
 首を傾げながらその封筒をまじまじ見てるけど、それを持ってたらかき氷が食べられない。
 そして何を思ったのか、直樹がわたしの浴衣の胸元の合わせにその封筒を差し込んだ。

「ちょ!」
「ごめん、手がふさがるから置かせて」
「置かせてって何!?」

 豊さんがお腹を抱えて大笑いしている。
 そりゃそうだろう。まさかわたしだってこんなところに差し込まれるとは思わなかったわ。怒る気も失せた。

「なんだかわからないけどありがとうございます」
「おーこれがこれでもうすぐだから無理なんだわー気をつけて帰れよー」

 小指を立てたりすばやいジェスチャーをした豊さんがお客さんに声をかけられてかき氷を作り始める。
 邪魔にならないようその場を離れて、さっき焼きそばを食べた花壇の石段に座ってかき氷を食べることにした。

 石段にかき氷の入れ物をおいておもむろにわたしの合わせに手を伸ばしてきた直樹が封筒をすっと抜いた。あーよかった。それがここにあるだけで落ち着かなかったから。

「これ……」
 
 封筒には『三等賞』の印が押されてあって、直樹が中身をこっちに向ける。
 そこに入っていたのはTーBランドの一日ご招待券(ペアパスポート)だった。

「これが、プレゼント?」
「あーこれがこれでって彼女が妊娠してる……ってか、結婚してたのか? 豊さん! なんだか急にうちの兄貴どもが子供に思えてきたなあ」

 ひとりで納得したようにうなずきながらしゃくしゃくと氷の山を崩しながらかき氷を食べ始めてる。
 わたしも食べようとしたけど、封筒を受け取ってしまったからスプーンが握れない。

「うぅー」
「くくっ」

 直樹が笑い出す。
 スプーンで合わせの辺りを示されて、渋々そこに差し込んだ。
 口いっぱいに広がる冷たさと甘み。それを噛みしめながら、しばらく無言で食べ続けていた。

「それいつ行こうか、早い方がいいよなあ」
「えっ、あ」
「何? 俺とじゃ不満なの?」

 あからさまにむっとした表情の直樹。

「違うよ、直樹がもらったのにわたしとで……いいの?」
「鈍すぎ」

 べーっと出された直樹の舌が緑色に染まっていた。
 きっとわたしの舌も赤色に染まっているに違いない。

 甘くて冷たいかき氷に身体も心もすうっとさわやかな風が吹いたような心地よさを感じていた。

 
 【おわり】
 




 かき氷の日
 夏氷の日ともいう。「な(7)つ(2)ご(5)おり」の語呂合わせに加え、1933年のこの日、フェーン現象によって、山形市で日本最高気温の40.8度が記録されたことにちなんで、日本かき氷協会が、冷たいかき氷にふさわしい日として制定(はてなキーワード・はてなダイアリーより一部抜粋)


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Date:2014/07/25
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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