空色なキモチ

□ 満月の夜に見る夢は □

満月の夜に見る夢は 第7章 第105夜 恩愛 (終)

 
 挙式とニ次会を終えたわたしと翔吾さんは、マンションに戻って来た。
 三次会、四次会もあると言われたけどさすがにゆうべはふたりともよく眠っていないので、またの機会にと辞退させてもらった。
 
 新婚旅行は明日から。今日はゆっくり寝ようということで早々ベッドに入った。
 窓際に立った翔吾さんが小さく驚きの声をあげて、こっちを振り返る。

 
「今日は満月だよ」


 カーテンの隙間から射す月の光をベッドの中にいるわたしに見えるように開けてくれた。
 少しだけ身体を起こして窓の外を見ると、ぽっかりと浮かぶ満月がこっちを見ているようだった。

 ふと、初めてこの部屋で翔吾さんと一夜を迎えた時のことを思い出した。

 あの時はなんで翔吾さんがわたしに執着するのか本当にわからなくて。
 何もかも初めてで不安いっぱいだったわたしをそっと抱きしめてくれた。痛みの恐怖で泣き出しても冷静に宥めてくれた。そして何度も愛の言葉を繰り返し、囁いてくれた。

 思い出したらうれしさがこみ上げてきて笑ってしまい、不思議そうな目で翔吾さんが見つめていた。
 首を傾げて窓のほうに向き直り、カーテンを引こうとした翔吾さんを止める。


「開けておいて」


 一瞬動きを止めた翔吾さんがこっちを再び振り返り、にっこりと笑みを浮かべてうなずいた。
 カーテンをそのままにして滑り込むようにベッドの中に入ってくる。
 自然に腕枕の体勢になった翔吾さんはわたしのほうを見て、何度も優しく髪を梳いた。
 

「この髪、好きだよ」


 わたしの長年のコンプレックスを溶かすような、甘いバリトンボイスで耳元に囁きかけてくれる。
 くすぐったさと恥ずかしさに身をよじると耳たぶにちゅっと唇が触れる感触がした。
 耳が弱いの知っててこうするんだから……ちょっとふくれて見せると蕩けそうなくらい甘い笑みを向けるから怒る気力も失われてしまう。


「ね、雪乃」

「うん?」

「ちょっと頼りないこと言うかもだけど……俺さ、式の時すごく幸せだった。あ、もちろん今もだよ」


 よくわからない前置きに首を傾げると、翔吾さんの表情が少しだけ困惑するようなものに変わった。
 うーん、と小さく唸り声を上げて上目遣いになる。なんて言おうか言葉を選んでいるみたいに思えて、大人しく待っているとぎゅっと抱きしめられた。


「雪乃と一緒に幸せになりたい。幸せにしてやりたいって思うけど、正直確固たる自信はない。だけどね、雪乃といれば俺が幸せになれる自信はあるんだ」

 
 そう言い切る翔吾さんがおかしくて、笑うと頬を軽くつねられた。
 

「雪乃が幸せになるのが俺の幸せ。俺も幸せになりたいから頑張る。今までたくさん不安にさせたり辛い思いをさせた。でももうそんな思いをさせないように、今日誓いを立てた。その気持ちに嘘はない。雨宮雪乃になってくれてありがとう」


 翔吾さんの指輪が月の光に反射してきらりと光った。
 わたしとおそろいの指輪。
 それを愛しむように、そっと指で触れて撫でる。

 わたしもありがとうって伝えたい。

 ベッドのヘッドボードの上に置かれたクマのぬいぐるみ。
 わたしと共にずっといてくれた。わたしの成長過程をずっと見つめてきてくれた。
 これからもずっとずっと、今度は翔吾さんとともに歩む人生を見続けてほしい。


 わたしも翔吾さんと一緒なら、わたしが幸せになれる自信があるの。
 わたし達、同じ思いを持っているんだね。
 そのことがうれしくて、翔吾さんの胸に顔をうずめた。

 暖かくて優しくて逞しくていい香りがする翔吾さんの腕の中。
 ここがわたしの居場所。
 ようやく見つけたわたしだけの特等席。
 すん、とその香りを楽しむように頬をすり寄せると、急に眠くなってきた。安心したからかもしれない。


「おやすみ、雪乃。いい夢を見るんだよ」


 額に柔らかい感触。
 その心地よさも手伝って、吸い込まれるように瞳を閉じた。

 夢の中でも翔吾さんと一緒がいい。

 こんな満月の夜に見る夢は、きっと幸せなものに違いない。


 【おわり】



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Date:2014/03/24
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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