哀恋歌 おまけ
それからしばらく経った大学三年の春。
桜の花びらが舞い散るうららかな日差しの中、大学構内を歩く僕の足元に擦り寄る猫がいた。
白とは言いがたい、少しくすんだ色に変色してしまっているその猫は僕を見上げて「にゃーん」と鳴き声をあげた。
あの時のことを思い出す。
うちにいる彼女の名前をつけたあの雄猫を拾った時よりも、もう少し育っているように見えた。
しゃがみ込んでその猫をよく見ると、目は少しだけしょぼしょぼしているがそんなに酷くはない。
「――仔猫?」
背後からふとそう聞こえ、慌てて振り返る。
それは彼女の声そのもので。
ただ、そこには誰の姿もなく、優しい風がふわっと僕の頬をかすめていった。
暖かな思い出を胸に、つい笑みをこぼしてしまう。
目の前の白猫は小さく首を傾げたようにして、再び高い声をあげた。
あまりにも軽くて頼りない猫を抱き上げると手のひら全体にじんわりと広がるような温みを感じ、生命の尊さを実感した。
彼女の名前をつけたあの猫のいい友達になってくれるだろう。
そう思いながら、帰路につく足を少しだけ速めた。
(了)
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