空色なキモチ

□ 重ねた嘘、募る思い □

重ねた嘘、募る思い 4

第4話

怒る真麻とわたし




 どうやって帰って来たかは覚えていない。
 気づいたら自分の部屋の布団で丸まって寝ていた。むっつりとふくれた真麻に揺り起こされるまでは。

「どういうつもりか知らないけどさ、これ預かったから」

 その手には小さなメモ紙みたいなものが握られていた。
 腫れぼったい目をこすりながらそれを見るけど部屋の電気が逆光になっている。それに顔を近づけて目を細めると、数字と英数文字の羅列が二行になって記されているように見えた。

「なに、これ?」
「陽の連絡先」

 むくりとベッドから起き上がって真麻につき返す。

「真麻にでしょ?」
「よく見なさいよ。ノブちゃんへって書いてあるでしょ。まあ、私ももらったけどさ。それに、あんなふうに急に帰られたら陽だって心配するでしょ? のんがこんな常識ない行動をするなんて思わなかった」

 確かに真麻が指差したところには『ノブちゃんへ』と少し乱れた字で書かれていた。真麻の文字ではないことは一目瞭然だ。
 だけど陽がわたしの心配なんかするわけがない。向こうが遠まわしにだけどふたりきりにしてほしいって言ったんだ。 でもそれを言ったらきっと真麻は陽に嫌悪感を抱くに違いない。

「ごめん」
「……もう、いいけどさ。陽にもメールなり電話なりして謝っておきなよ」
「えっ!?」
「とにかく、今日はつき合ってくれてありがとう」

 手をひらひらと振ってわたしの部屋を出て行く真麻を呆然と見送った。

 謝る必要なんかないはず。だってわたしは陽の願いを叶えたのだから。
 真麻とふたりきりになって告白でもしたかもしれない。それとも連絡先を教えて「また遊ぼう」と誘ったのかも。
 そっか、真麻だけに連絡先を教えるとターゲットをロックオンしたとバレバレだからカモフラージュでわたしにも連絡先を教えたってことか。なるほどね、そう考えたら合点がいく。思ったよりも慎重に事を進める人なのかもしれない。


**


 あっという間に年が明け、正月を迎えた。
 毎年藤城家と合同で年越しを迎えるけど真麻は大晦日から夜勤入りで不参加、なんとなくわたしもいづらくて自室にこもっていた。

 彼氏のいない正月なんてつまんないとぶーたれる真麻に初詣へ誘われ、なんとなく同行したけどあまりの混雑にすぐに帰って来てしまった。
 思わず『陽を誘えば』と言おうと思ったけど口をつぐんだ。真麻も陽のことは口にしないし、こっちが触れることでもないだろう。

 名前を口にしなくてよかったと思う。それくらい思い出したくなかった。
 少しの間だけ、flybyの音楽を聴くことさえ避けていた。別人なのにそこまで消し去りたいと思ってしまっていたのに正直驚いたくらい。
 音楽は聴けるようになった。ただ、陽と出逢った時に聴いていたflybyのデビュー曲は無意識に避けていた自分がいたんだ。


 そして三が日が過ぎ、すぐに仕事始めの日が来た。
 新年会はもう少し後に予定されているので、今日はいつも通りラフな恰好で出社した。飲み会があってもおしゃれな服なんて持ってないんだけど。
 とりあえずOLらしく見えるファーのついた黒のトレンチコートにブラウンのパンツ、足元が寒くないようにショートブーツで完全防備。どうせ社では制服に着替えるんだから何を着ても同じなんだ。

 会長の新年の挨拶が終わり、すぐに仕事が開始となる。
 今までと何も変わらない日常。仕事も相変わらず忙しい。慌しく午前中が過ぎてゆく。
 昼食を取り、甘いものがほしくなって一階のコーヒーショップに行こうかと思ったら先輩に声をかけられた。

「人事部から聞いたんだけど、あのお店は電話注文も受け付けてるんだって。注文してみない?」
「はあ、いいですよ」
「じゃ、注文したい人ー!」
「ちょっと待った。今日、取引先から大福たくさんいただいたんだよ。これみんなに配って」

 部長が大きな菓子折りの箱を持ってわたし達の方ににこやかに近づいてきた。
 それはこの界隈では有名なみまつ屋の栗大福だった。大きくて味もよく高価なのでなかなか買えないけどこうしてもらえた時はご相伴にあずかるようにしている。

「わー! じゃあ、コーヒーよりお茶だよね」
「お茶がいいー」

 そんな『お茶コール』を受けて、いそいそとお茶を淹れてみんなで食べた。
 甘くておいしい。こういう時って幸せな気持ちになれるんだよな。少しの間疲れも忘れるくらいだった。

 

「つっかれた……」

 ついひとり言をこぼしながら帰路に着く。正月明け初日は毎年こうだ。
 仕事量もそんなに日々のものと変わってはいないんだけど、年越しと正月で一週間近く働いていないから少し身体がなまっているのかもしれない。
 帰り道、街路樹がイルミネーションで飾られているのを見て、クリスマスイブに行ったT-Bランドのツリーの絵が描きかけで終わってしまったことをふと思い出した。ネットで調べて続きを描くべきか悩む。中途半場で終わらせたくはなかった。
 あの時、陽が声をかけてこなければ描き終えたかもしれない。何となく苛立ちに似たものを覚えて鬱々としてきた。

 そういえば昼に甘いカフェオレを飲まなかった。栗大福を食べたけど、今は別の甘さが欲しい。
 会社を出る前に一階のお店で買ってくればよかった。しょうがないから駅前のコーヒーショップで買うか。苛々が募るのは糖分不足に違いない。欲しいと思うのは身体が欲しているからとよく聞く。
 帰りが少し遅くなるけど、と思いながらも駅前のコーヒーショップを覗くと道路に面しているカウンター席しか空いてなさそうだった。なるべく奥がいいんだけど(寒いし目立つから)買って飲みながら帰るほうがいいかな。

 お店の前にある木のオシャレな看板を見ながら何を飲もうか考えていた時、後ろから肩を掴まれた。


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Date:2013/12/27
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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