空色なキモチ

□ 重ねた嘘、募る思い □

重ねた嘘、募る思い 2

第2話

陽とわたし




 わたしは別に男嫌いなわけではない。
 好きな芸能人はいるし、タイプだってハッキリしているほうだと思う。電車の中で見かける素敵な男性に胸をときめかせたりだってする。

 普通の二十二歳だと思うのに、いざ男性を目の前にして接するとうまく話せない。どもるとかじゃなく、言葉が出てこない感じ。途端に無口になってしまう。相手からしたらとっても感じの悪い女に違いない。
 ある程度慣れてしまえば顔が赤くなるのはおさまるようだけど、そこまで長い期間接することなんて先生だったり職場の上司くらいしかない。上司でも同僚でも自分の部署の人限定になる。他部署へのお使いなんて一番やりたくない仕事だ。

 真麻の歴代の彼氏はきっとわたしをよく思っていないに違いない。紹介されても真っ赤になってだんまり。やっぱり自意識過剰だと思われていただろう。
 過去のことだけど真麻が当時の彼氏にわたしを紹介した後、すぐに「全然似てねえのな」と言われたことがある。
 それに対して真麻は「従姉妹だもん」と答えた。『当たり前でしょ』という言葉を飲み込んだ真麻が訝しげな目で彼氏を見たのをはっきり覚えている。その真麻の態度が彼氏の何かに触れたのかもしれない。直後彼氏が「名前はかわいいのにな」とボソリと聞こえよがしに漏らし、虐げるような笑みをわたしに向けた時、真麻はすぐにその男と別れた。

 まだつき合い始めたばかりだったのに。
 気にしてないからと言ったのに、真麻は「あんな男とつき合わなくてよかった」と誇らしげに笑った。
 それからその元彼氏にはずっと忌々しそうな目線で見られていたけど、気にしないようにしていた(実際は気になっていたけど)


 真麻はわたしが虐げられると牙を剥く。
 わたしのことなのにわたし以上に怒り、攻撃を始める。まるで子を守る親ライオンのようだ。小さい頃からそうだった。
 鈍くさいわたしが近所の男の子達に追いかけられたり土の団子をぶつけられていると容赦なくやり返した。しかも倍返し。真麻を怒らせると怖い。敵にしたくない人間ナンバーワンだ。


『真麻ちゃんは大人しくしていればかわいいのに、なんでこんなに男勝りなのかしら?』

 よくおばあちゃんがそう口にしていた。だけど真麻は負けない。

『だって、いじわるするほうが悪いんだもん! ね、花音。ずっと守ってあげるから心配しなくていーよ』

 ニッコリと微笑む真麻はまるで女神のようだった。
 小さい頃からの憧れで、強くて、わたしだけにはいつでも優しい真麻。
 こんなふうになりたい、なれたらいいなって思うけど絶対に無理だってことも小さいながらにわかっていたんだ。



**


 クリスマスイブ当日。
 真麻は朝九時に仕事を終えて直接向かうとのことだった。
 うちと真麻の病院のちょうど中間地点辺りにT-Bランドがある。一度戻って来ると出るのが億劫になると言うので、現地で待ち合わせにした。

 iPodで音楽を聴きながらテーマパークの前に立ち尽くしているのは少し恥ずかしい。いかにもデートの待ち合わせっぽいけど来るのは真麻だし。
 キョロキョロ周りを見渡すと、チケット売場にはたくさんのカップルが仲睦まじそうに手を繋いだり、肩を組んだりしている。当日券を求めて長蛇の列が続いているけど、ふたり一緒なら問題ないというオーラがひしひしと伝わってきた。彼氏のコートのポケットに手を入れたり、ひとつの飲み物をふたりで飲んだり……

 入口のチケットをチェックしてもらう入場門は混んでいるので、その手前の広場で待つことにした。
 だだっ広いスペースの真ん中に大きな丸い花壇があって、そこにはクリスマスツリーが立っている。そこで待ち合わせをしている人たちも多いけど、すでに人が待つようなスペースはない。まるでツリーを取り囲むように人が待機している。

 わたしはさらに下がってパークの正門の内側に立ち、トートバックの中からスケッチブックを取り出した。
 唯一真麻より自分ができること、それは絵を描くことだと思っている。小さい頃から絵を描くのが好きで、気に入った風景はスケッチするのが趣味になっていた。
 待ち合わせの十時までまだ三十分もある。このツリーを描こうと思って早めに来た。
 
 鉛筆を握り、iPodの音量を上げる。流れているのはflybyの曲。
 リズムに乗りながら描くのがわたしの至福の時。ボーカルの大野達央おおのたつひさの声がわたしに勇気をくれる。

 まるで『もっと描けるよ、頑張れ』って励ましてくれているみたい。スケッチをする時は絶対にflybyの曲がないとダメなくらいハマっている。わたしの理想の男性像そのもの。

 自分の意志と言うよりは目で見たものを勝手に鉛筆がかたどっていく感覚。まるで描かされているような。だけどこの感覚が好きだった。背筋がぞくぞくするくらい興奮する。そして達の声。
 ずっとこうしていたいし飽きないから待ち合わせの時はこのセットがあればいくらでも待っていられる自信がある。

「へえ、うまいね」

 達の声に聞き惚れているわたしの耳に、聞き覚えのない声が入ってきた。
 結構音量を大きくしているのに聞こえるってどれだけ大きい声なんだろうか。しかもうまいねって……

 え、まさか見られてる? そう思って振り返ると長身で細身の男の人が後ろからわたしのスケッチブックをのぞき見していた。慌てて自分の胸にスケッチブックを抱きかかえて隠す。
 よく見るとその人は達に似ていた。長い前髪が目元を隠し、切れ長の細い瞼がわたしを見てにっとさらに細められる。もちろん別人だし、顔は違う。だけど雰囲気がよく似ている。

 おぼろげな既視感を覚えた。この人、どこかで会ったことがあるかもしれない。
 flybyのライブで見た達じゃなく、もっと身近で。だけど考えても思い出せなかった。

「字もきれいだし、プロの人?」

 そう尋ねられ、首をぶんぶん横に振る。そのくらいのアクションしかできない自分が恥ずかしい。ボブの毛先が頬にぶち当たるくらい振っていた。そんなことをしていたら自然に右のイヤホーンがはずれた。
 字もきれいと言うけど、目の前に見える入口の『チケット売り場』という文字しか書いていないのに、それだけで判断できるのだろうか。一応習字の段位は持っているけど、よろこんでいいものだろうか。

「そうなんだ。ねえ、君。結構長い間ここにいるよね。もしかしてフラれちゃったの?」

 長い間。時計を見ると十時半を過ぎていた。全く気がつかなかったけど、待ち合わせ時間を三十分過ぎている。

「もしそうなら一緒に遊ばない?」
「え?」
「僕もフラれちゃったんだよね。ひとりでつまんないからさ」

 いやいや、わたしはフラれてないし! 相手は女だし!
 これってナンパなのだろうか? ツリーの周りには女の子がひとりって姿もある。たぶん彼氏待ちなんだろうけど、わたしに声をかけるのは間違っているだろう。もっとかわいい子に声をかければいい。
 スケッチブックを抱きしめておろおろするわたしを見て、その人はまたにっこりと笑いかけてきた。

「僕、ヨウっていうんだ。太陽の陽、一文字。君は?」
「え、あ……」

 勝手に自己紹介をはじめられても困るんですが。
 肩に掛かる程度の長めのショートレイヤーで緩いくせのある髪型はまるで達を意識しているようにも見えるけど、この人にはよく似合っている。
 カーキのコートにふわふわの毛糸のマフラーはクリームに黒のボーダー。細身の黒のパンツは足の細さを強調しているし、ショートブーツは古くさいけどおしゃれに見える。
 ちょっと描いてみたい、って思ってしまうくらいだった。や、わたしは人物画はほとんど描かないけど。それでもそう思わせるほどの何かをこの人は持っていた。達に似た雰囲気が一番のポイントかもしれない。

「何ちゃん?」

 ずいっと顔を近づけられて後ずさると、正門に激突した。
 こんなふうに男の人に近づかれるのにも慣れてないし、ましてや憧れの達に似すぎていてわたしの心臓はばっこんばっこんいっていた。


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Date:2013/12/25
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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