空色なキモチ

□ あなたはおもちゃ □

あなたはおもちゃ 4

第4話

おもちゃのくせに!




 その数日後。

 大学の食堂で、でく男がきれい系の女の人と一緒にランチをしている姿を見かけた。
 いつもあんなに素敵な人と一緒にいるくせにわたしが服部先輩と少し仲良くしているだけで泣きそうな顔するのって間違ってると思う。
 その女の瞳は少し潤んでいるように見えた。それを一生懸命でく男がはげましているようす。気づかれないようでく男の後ろの席をキープしてその会話を盗み聞きした。すると――

「元気出して、世の中そんな男ばかりじゃないよ」
「でもっ、女は初めてじゃないといやだって言われて……」
「うん、気持ちは分かるけどね」
「えっ? コータローくんもそうなの?」
「いや、でもさ、初めてのコがめんどくさいっていう男もいるよ」

 ……。
 でく男のくせになにモテ男ぶったアドバイスしてるんだ!
 沸々と苛立ちが湧き上がる。でく男の分際で、いかにも経験豊富な男ぶりやがって! おまえは童貞だろうが、こんちくしょう!

 ちょっと待て。 
 わたしはでく男の口から直接童貞だと聞いたことはない。と、いうことは経験があるのかもしれない。そして今言った言葉。

 ――初めてのコがめんどくさいっていう男も――

 思いっきり初めてですけど。
 さんざんじらしておいて「はい初めてです」なんて言えるわけないじゃん。そんなのプライドが許さない。

 いつかはでく男とスルことがあるなら、経験豊富な女を演じたい。その程度でわたしを満足させることができるだなんて思ったのって蔑まないと気が済まない! だってわたしのほうが常に優勢の立場でいたいんだもん。あいつはわたしのおもちゃなんだから!
 
 ……こうなったらどこかで。


 その三日後の土曜日、わたしは服部先輩と出かけた。
 昼間映画を楽しんで、その後ボウリングをし、そして飲みのコース。結構疲れた身体にお酒がジンジン浸透していくようだった。
 思えばわたしは変な飲み方をしていたかもしれない。だけどその方がいいと思った。初めての時は痛いと聞いていたから。

 居酒屋を出て、わたしの肩を抱き寄せる服部先輩の手に力がこもる。
 顔を見上げると、優しい笑顔でわたしを見つめていた。

「どこかで休んでいく?」

 耳元で囁かれ、うんとうなずく。
 これでわたしは経験者になれる。服部先輩にすべてお任せしておけばいい。デキた男だから初めてだと言えば優しくしてくれるはず。そしてレッスンの如く手ほどきしてくれるに決まっている。
 連れてこられたのはちょっと落ち着いた雰囲気のブティックホテル。ここに来たらヤるこたひとつだ。

「じゃ、入るね」

 グッと肩を抱き寄せられ、それに従う。
 どきどきしながら足を踏み入れた、その時。

「ゆーちゃん」

 背後から怒りに満ちた声でそう呼ばれ、びくりと全身が縮みあがった。
 わたしの肩を抱いていた服部先輩の手も跳ね上がる。
 この呼び方、そして―― 恐る恐ると振り返ると

「服部くん、ゆーちゃんに手を出さないって約束したよね。念書も書いたはずだよ」

 大きく「念書」と書かれた紙をもって仁王立ちするでく男の姿があった。何? 念書って?
 服部先輩を見ると、あわあわして胸元で両手をぶんぶん振っている。そして首もぶんぶん横に振って……。

「黛くんっ、違うんだよっ。この子が僕を誘惑してっ」
「えっ!?」

 驚きの声を上げると、服部先輩に急に鋭い目つきで睨まれた。

「僕はもちろん拒絶したよ! この子が、どうしてもって言うから!」

 すごい勢いで、でく男に弁解する服部先輩。
 どうしてもだなんてもちろんそんなことは言っていない。だけど利用しようとしたのは確かだった。
 でく男がいつもよりさらに細めた目でわたしと服部先輩を交互に見る。三白眼になっていて怖い。
 無言で腕を引かれた。その力が強くて顔をしかめるけど、でく男はひとつも表情を変えない。ホテルを出ると、いつもと違う黒い大きな車が止まっていた。リムジンかって思うほどの長い車に思わずテンションがあがる。
 後部座席の扉の前に黒服にサングラスをかけた男の人が恭しく立っている。わたし達の姿を見るなり最敬礼をし、車の扉を開いた。

「乗って」
「えっ?」

 驚きも途中のまま背中をどんと押される。
 その中は広くてコの字型の皮の座席がテッカテカに輝いていた。酔いもすっかり醒めたわ。
 キョロキョロしていると、車のライトが薄暗くされた。あん、もっと内装を楽しみたいのに! そう思ってでく男を見るといつになく怒ったような表情でわたしを睨みつけ、向かいの座席に座る。

「この車、どうしたの?」

 異質な雰囲気に思わずテンション高めに声をかけるとギロリと睨みつけられた。
 何よ、その目。でく男のくせに。
 そのでく男は備え付けの電話に手を伸ばし、苛立った様子で足を組み、どっかと背もたれに寄りかかった。
 
「光太郎だけど、服部商事の融資の件、白紙にして。うん、もう二度と融資しない。倒産? 勝手にすればいいよ」
「ちょっ」

 ギッと鋭い目で睨みつけられ、再び言葉を失った。
 今服部商事って言った。服部って、きっと服部先輩絡みだよね。しかも内容が融資とか……倒産とか!?  
 自分の家が倒産して黛家に売られた事実を思い出す。
 
「今の電話」
「ゆーちゃんは何も心配しなくていい」
「でも」

 伏し目がちだった目をキッと開いてわたしを見据えるでく男、その目にはいつもと違う光が宿っているように見えた。
 
「家につくまで寝るから静かにしててくれる?」

 両腕を胸元で組み、すぐに瞼を閉じるでく男にそれ以上何も言えなかった。


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Date:2013/11/30
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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