VOICE 194
第194話 プロポーズ未来視点
「……結婚?」
思わず聞き返すと、お兄ちゃんが深くうなずいた。
「お兄ちゃんとわたし?」
「他に誰がいるんだ。いやか?」
寂しそうな顔のお兄ちゃん。
冗談を言っている顔ではない。いたって真面目だ。
「いや、いやって言うか、まだ五年も先のことだし、成人って……」
いきなりのことでビックリして頭がパニックしてしまう。
あたふたと狼狽えてしまっているわたしを余裕たっぷりの笑顔で見つめるお兄ちゃんのその表情はとっても優しいものだった。
「五年なんてあっという間だよ」
「でもお兄ちゃん二十七歳になっちゃう」
「別に早く結婚したいわけでもないから」
「えっ! でも、でも……」
何を言っていいかわからなくなってしまった。
お兄ちゃんがテーブルに肘をつき、指を絡ませた手の甲に自分の顎を乗せてわたしを上目遣いでじっと見つめている。
「他に断る理由は? どの理由も全部覆してやる」
「っ!?」
わたしは言葉を失った。
お兄ちゃんを見つめ返すとニッと笑っている。
前に悠聖くんが教えてくれた、お兄ちゃんが言った言葉をいきなり思い出した。
――自分の人生をかけて未来に償いたいって――
償いで、わたしとの未来を考えているのだろうか。
不安になったわたしは、思わず聞き返していた。
「わたしで、いいの? 償いじゃ、なくて?」
「償い、かあ。実父のしたことを償いたいという気持ちは正直少しはある、かな」
やっぱりそうなんだ。
そんな気持ちならほしくない、そう思って俯いた時。
「でも、それとは全く別の次元で言っている。俺は未来じゃなきゃダメなんだ」
その言葉を聞き、思わず顔をあげるとふんわりと全てを包み込むような暖かな笑顔が向けられていた。
きっとわたしの顔は驚きに満ち溢れていただろう。そんなわたしを見つめているお兄ちゃんがうん、と一度だけうなずいた。
「未来と一生一緒にいたい。俺は決意できてる。返事をいくらでも待つ覚悟もできてる」
うれしくて泣きそうだ。
でもぐっと堪え、唇を噛みしめて負けじと大きくうなずいてみせた。
ありがとう、お兄ちゃん。
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