空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 192

第192話 母の反対と過去

柊視点




「なん、ですって?」


 俺の言葉に驚いた母が前のめりに倒れこんできて慌てて抱きとめると、その身体が小さく震えているのがわかった。


「どうして? あの子は悠聖とつき合っているんでしょ? なんで柊が?」


 さっきも同じことを聞かれた気がするけど、答えていなかったことに今気づいた。


「悠聖と未来は終わったんだ」

「なによそれ」

「悠聖が俺に譲ってくれた」

「あの子は柊も悠聖も私から奪うの? ダメよ、絶対に許さないから!」


 俺の腕を強い力で掴んで母が震えている。哀願するような目で俺を見つめ目許を濡らしはじめた。そんな表情をさせたくはないし、見たくなかった。だけど目を逸らさずに母をじっと見据える。俺の意志の強さを証明したかった。


「あんな子に……息子をふたりとも取られるなんて」

「母さん」

「私は認めない!」

「反対されても俺の気持ちは絶対に変わらない」

「柊!!」


 母が俺の腕の中で泣き叫びその身を震わせて必死にすがりついてきた。
 小さく首を横に振りながら「いや、いや」と小声で繰り返す。まるで駄々をこねる子どものようだった。
 

「あの子はダメ! あの子だけは、お願いよ……また姉さんに取られるみたいで、いやなの」

「……え?」


 意味がわからない。
 泣きじゃくる母を支えながら、泣き止むのを待つしかなかった。



***



 母の話は衝撃的だった。


 もともと実父と母、母の姉は幼馴染だったそうだ。

 母は父のことが元々好きだったが、父は母の姉が好きだった。しかも父と母の姉は両思いで、幼い頃に結婚の約束もしていた。そんなふたりを見ているのはいつも苦しかったと暗い面持ちで話す。

 母が高一の時、事件が起きた。

 居眠り運転のトラックが横断歩道を渡っている母に向かって突っ込んできた。
 それを当時高三だった母の姉が庇って撥ねられ、即死だったそうだ。
 この話は父から少し聞いていたが、改めて聞かされるとやっぱり辛いものがある。
 

 嘆き悲しむ父の心の隙間を埋めたのが母だった。
 父は当初母を拒絶していたそうだが、少しずつ時間をかけて歩み寄り、結婚に至る。すぐに俺が生まれたが、父の心から母の姉の存在が消えることはなかった。

 ――そして離婚。

 その後、父が出逢ったのが亡くなった姉によく似た未来の母親。
 一緒にいた子供の未来はもっと初恋の人に似ていた。

 だから父だけでなく、俺まで取られる気がする。そう泣きじゃくりながら母が語った。
 未来が母の姉に似ているのは姉の怨念だとまで言い出した。未来には全く関係のないことなのに。


「なんで母さんは父さんと結婚したのに、お姉さんの存在が消えてないって思ったの?」


 過去の話を聞いて疑問に思ったことを尋ねると、母はふふっと小さく笑った。


「……あなたの名前よ。柊っていうのはあの人がつけたの。姉がひいらぎの木が好きだったから。あの人は私がそれに気づいてるってことを知らなかったのね……きっと」


 笑いながらボロボロ涙を流す母の姿が痛々しかった。

 母は本当に父が好きだった。だけど自分にその気持ちを向けることができなかったと自ら生んだ子供の名前で実感した。だから離婚したのだろう。
 だけどそれでよかった気がする。母の父に対する思い出はきれいなままで守られたのだから。変わり果てた父が未来にしてきたことを知ったら嘆き苦しむかもしれない。

 今の親父と逢えた母は幸せだと思う。
 親父は母を心から愛し、必要としてくれているのだから。



**



 実家を出たのは二十一時を過ぎていた。
 佐藤の父は急な会合があって帰宅できなかった。せめて顔を見せてから帰りなさいと何度も言われたが、少しでも早く未来に逢いたかった。その理由は伝えられないけど、急用を思い出したと理由づけた。
 寂しがる母を見て、悠聖が「自分が泊まって行くから」と俺の背を押してくれた。

 悠聖の協力に感謝しながら俺は未来の待つマンションへ向かった。



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Date:2013/11/24
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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