空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 191

第191話 母の気持ち

柊視点




 実父の初七日が終わり、ようやく少し落ち着いてきた。
 未来と母親の引っ越し先も決まった。明日がその日なので手伝いに行くことになっている。


「ただいま」


 ひさしぶりに悠聖と一緒に実家へ帰ってきた。
 その間未来はマンションでひとり留守番。かわいそうだけど『大丈夫。いってらっしゃい』と笑顔で見送ってくれた。
 今日は未来が俺のマンションで過ごす最後の夜。本当はずっと一緒にいたかった。
 だけど今日は佐藤の父の誕生日。どうしてもパーティーをしたいから帰って来てほしいと母にせがまれ、断りきれず夕食だけの約束で実家に帰省した。
 未来にはなるべく早く帰るとだけ伝え、後ろ髪を引かれる思いで家を出たのだった。


「おかえりなさい。柊、悠聖」


 母がスリッパの音を立ててニコニコしながら玄関まで出迎えてくれた。
 この家に帰ってきたのは半年振りくらいかもしれない。随分足が遠のいていた。時々帰って来て顔を見せなさいとは何度も言われていた。母からも、そして佐藤の父からも。
 思えば佐藤の父はいつも悠聖よりも俺を優先してくれていたような気がする。悠聖が生まれる前から、そしてその後も変わりなく優しくて、俺を本当の息子のように思ってくれていたことだろう。
 だけど、俺は実父のことを思うと素直に甘えられなかった。だからあんまり親密に接することもなかったし、大学を卒業してからはほとんどこの家に出向くことはなかった。思えば申し訳ないことをしていた。


「今日はふたりが帰って来るから夕食張り切っちゃったわよ」


 親父の誕生日だからだろうと突っ込もうと思ったけど、あまりにもうれしそうな表情を見せるので言えなかった。
 もうすぐ今日の主役の父も帰って来ると言いながらキッチンに戻ろうとする母を呼び止め、「話がある」と伝えると、少し顔色を変えた。食事時じゃだめなのか問われ、親父には知られたくないことと伝えるとさらにその顔色が変化していった。



**



 二階の俺の部屋に母を呼び、実父が亡くなったことを伝えるとさあっと青ざめた。


「あの人に会っていたの?」

「……まぁ」


 物置と化している俺の部屋を母がぐるっと見まわし、視線を逸らした。
 俺がいなくてもこの部屋は掃除されているようでチリひとつ落ちてない。


「昔のアルバムって納戸のダンボールにあったよね。勝手に見ていいかな」
 
「……いいけど、あんまり散らかさないでね」


 母が怪訝な表情をして顔を強張らせた。
 正直あまり見てほしくないといった表情をしていたのは気づいていた。だけど俺はどうしても見たかった。



 食事を済ませてから納戸を漁る。用がない限りあまり出入りはしないだろうからさすがに空気がこもっていて少し埃っぽい。
 アルバムのダンボールを開けるとたくさん出てきた。表紙に誰のものか名前が書いてある。

 親父の、悠聖の、俺の。
 たくさんあるアルバムの中の一番下に一冊だけ名前の書いていないものがあった。隠すようにおいてあるそのアルバムが母のものだとすぐにわかった。パラパラと開くとセーラー服を着た未来そっくりの女の人の写真を見つけた。


「――柊?」


 納戸の扉口から母の声。
 振り返ると驚いたような顔をして、俺の手元にあるアルバムを見ていた。


「……それ」

「この人、母さんのお姉さん?」

「……ええ、そうよ」

「この人にそっくりな子知ってるんだ」

「弓月、未来さん?」


 母の口から未来の名前が出た。
 悠聖の話を聞いて母が未来の名前も顔も知っていることはわかっていた。俺の手術中に顔を合わせていたはずだから。


「あの子と関わらないでほしいの」


 母が俺を鋭い目で睨み、震えたような小さな声でつぶやく。
 苦虫を噛み潰したような不満そうな表情を目の当たりにしてやり場のない憤りを覚える。だけどそれを押し殺し、一呼吸置いてからなるべく平常心で母に尋ねた。
 

「……どうして」

「どうしてって、あの子は悠聖とつき合っているんでしょ?」

「それ、俺と関係ある?」


 母が一瞬たじろいだ。


「だってあの子はあの人の……」

「勘違いしてない? 未来は父さんの本当の子供じゃないよ」


 母の表情が愕然とした。
 目を見開いて信じられないといった顔をしている。


「そ、うなの?」

「未来はお母さんの連れ子。しかも父さんと婚姻関係もない。うちと未来の家は全く無関係」

「……そんな」


 目の前で母がガクガク震えだす。
 やっぱり勘違いをしていたのだ。しょうがないことだろう。俺だって最初はそうだったのだから。


「母さんが未来に辛くあたるのは父さんの子供だと思っていたから? それとも未来がお姉さんに似ているから?」

「――柊!!」


 俺の名前を叫ぶ母の声が納戸に響く。
 図星だって態度でわかった。


「どっちの理由?」


 冷静に俺が訊くと、母さんが顔を背けて小さな声をあげた。


「……どっちもよ」


 その答えにため息しか出なかった。
 どっちも直接未来に関係のないことだ。どうにもならないことで辛くあたられた未来が不憫でならない。


「次、未来に会う時は冷たくしないで」

「……次?」


 母の顔がさっと険しくなる。
 俺はここ数日考えていたことを母に伝えた。


「未来とずっと一緒にいたいと思ってる」



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Date:2013/11/24
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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