空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 190

第190話 義父の旅立ち

未来視点




 時計を見ると十八時を過ぎていた。
 母から何度も携帯に連絡が来ていたけど、全然気がつかなかった。


 義父が亡くなった。


 わたしがウトウトしている間に状態が急変していた。
 お兄ちゃんが義父を呼ぶ声で気がつくなんて。

 急いで母に連絡をし、病院に向かってもらっている。
 お兄ちゃんはひんやりとした霊安室で永遠の眠りについた義父を見ながらパイプ椅子に凭れかかっていた。わたしもお兄ちゃんの隣のパイプ椅子に座る。
 声をかけづらい。お兄ちゃんの方を見れず、白い布で覆われた義父を見た。

 いまだ信じられない気持ちでいっぱいだった。
 声をかけたら起き上がるんじゃないか、そんな気すらしてしまう。気がつけば今まで抱いていた恐怖心は消失していた。

 余命一ヶ月だと今日言われたのに、すぐに旅立ってしまった。しかもこの世に全く未練を残していないと物語るような穏やかな表情で。


「……未来」


 低い震えた声でお兄ちゃんがわたしを呼んだ。
 焦燥しきったその横顔に「なに?」と問いかけるも俯いたままだった。


「何か隠してただろう? もしかしてこのこと?」

「――そうよ」


 高崎さんが霊安室に入って来て、お兄ちゃんの視線が入口の扉に向けられた。
 神妙な面持ちの高崎さんはいつもとは別人に見える。
  

「小林さんの遺志だったのよ。余命幾許もないことを柊さんや未来ちゃんのお母さんには黙っていてほしいって。知らされたのは未来ちゃんだけ」


 高崎さんが義父の前に立ってお焼香をしはじめると、お兄ちゃんが顔を歪めてわたしを見つめた。
 

「……ごめんなさい。黙ってて」

「いや、いいんだ」

「未来ちゃんは悪くないからね。私が単独行動しただけなんだから」

「わかったよ。亜矢、ありがとう」


 目の前にお兄ちゃんの手がすうっと伸びて来て、親指の腹でわたしの唇をぐいっと拭った。
 

「……何、お兄ちゃん?」

「……やられた」

「え?」

「あいつ、最期に……」


 お兄ちゃんが睨むように義父を見る。
 何かを言いたそうに唇を噛みしめて「いや、いい」と漏らすようにつぶやき、眉間にシワを寄せたまま目頭の辺りを手で覆うようにしてその目を閉じた。


→ NEXT
→ BACK
    web拍手 by FC2
*    *    *

Information

Date:2013/11/23
Trackback:0
Comment:0
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://ageha572.blog.fc2.com/tb.php/312-c6fb58dc
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)