空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 189

第189話 実父の愛

柊視点




「……え?」


 俺が訊き返すと、父は遠くを見つめながら深くうなずいた。


「未来と同じぐらいの時……いや、もう少し上だな。妹を庇って、交通事故で……」


 眩しそうに、そして寂しそうに目を細め、夕陽を凝視している。
 父にもそんな辛い過去があったのか。


「その妹が、おまえの母親だ」

「っ!?」


 しばらく何も言えなかった。
 父の初恋の人が未来に似ていて、それが母の姉。
 俺の母親と未来は全然似ていないが、偶然の相似なのだろうか。


「……未来」


 父の声でハッと我に返ると、優しく未来の頭を撫でていた。
 その行為にヒヤヒヤしながらも軽く嫉妬の念を抱いてしまう。こんな時なのに。
 だけどこの男は未来に恋愛感情を抱いている、いわばライバル。そう感じてしまうのは自然のことかもしれない。


「柊……」


 夕陽を見つめた父が俺を呼ぶ。


「未来を……」

「……を?」


 その後の言葉を待つけどなかなか返ってはこなかった。


「父さん?」


 見ると目を閉じて深い呼吸をしていた。
 父の顔色がさらに悪く見える。


「父さん? 父……」


 背もたれにあった父の手が俺の頭を軽く撫でた。
 父の閉じた瞼が小刻みに揺れている。そこはかなり落ち窪み眼球の形がくっきりと浮き出ていた。やっと開かれた双眸は震え、その眦にはうっすら涙が滲んでいる。
 

「柊……ぅ」


 苦しそうに呼吸を繰り返す父の背もたれにあった腕をゆっくりその膝の上に戻した。
 辛そうに身じろぎながら緩慢な動作を繰り返すが、背中はソファの背もたれに預けたままだった。


「すまない……」


 急に詫び、大きな吐息を漏らした父が未来の寝顔を横目で見下ろすように視線を落とした。
 満足そうに下がった目尻は深い情を含んでいるように見える。それは愛情なのだろうと推し量ると穏やかな気持ちでは見ていられなかった。


「み……ら、い……ごめ……んな」


 未来のあどけない寝顔をじっと見つめている。
 急にたどたどしくなった父の声に、不安な気持ちが押し寄せてきた。まさか、このまま……。

 その時、父の上半身がゆっくり動きだした。


「……え?」


 一瞬、何が起きたのかまったくわからなかった。
 身を起こす力もないのかと思っていた矢先に動き出したから、俺は呆然としてその行為を見過ごしてしまっていた。
 
 父は眠っている未来の唇に自分の唇を重ねていた。
 それは当たり前のように、自然に。


「みら……い……愛して、る」


 そうひと言つぶやくと、父の身体が未来に凭れかかるように崩れ落ちた。


「父さん!」


 自分に圧し掛かる重みを感じたのか、俺の大声のせいなのかわからないが未来がハッと意識を取り戻し、目を見開いて父と俺を交互に見ていた。
 動かない父の身体をソファに凭れかけさせて呼びかけるけど反応はない。だけどすごく穏やかで満足そうな父の顔。未来がそれを見て震えている。


「父さん!! 俺、ありがとうって言ってない!! 未来と約束したんだ!! 生んでくれて……未来と逢わせてくれてありがとうって伝えるって!」


 父の反応はない。


「父さん!!」


 もう一度大きい声で呼ぶ。
 その時、父の目から一筋の涙が零れた。



 父は穏やかな表情のまま、眠るように息を引き取った。



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Date:2013/11/23
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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