空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 188

第188話 実父の過去

柊視点




 父を真ん中にして左側に未来が、右側に俺が座った。
 するといきなり父が俺達の肩を抱いたのでビックリしてしまった。俺だけならまだしも、未来にまで。
 未来の様子を伺うとかなり警戒をし、身体を強張らせているように見えた。父に手をどかすよう言おうとしたら、こっちの視線に気づいた未来が首を横に振り、小さく吐息を漏らしたあと軽く肩をすくめて力を抜いていた。

 俺は父より大きいからその腕は肩までまわらずに、ソファの背もたれの上に乗せられているだけの状態だった。父の手は俺の後頭部に軽く触れていて、そこから伝わる温もりが不思議な感じだった。

 まるで過去に戻ったような、そんな感覚。


「柊は……いくつになった?」


 夕陽に照らされる父の目に力はない。
 眼球すらも黄色に見えてくる。夕陽の光のせいであってほしい。そんな父の顔をまともに見れず、目を逸らして「二十二」と小さな声でつぶやいていた。


「……もう十七年か」


 ふぅと父のため息が聞こえた。
 十七年前、俺と父は別れた。その時のことを言っているのだろう。


「俺、父さんのことを見かけたことあったよ」

「……いつ?」


 中一の頃に見かけた父の姿を思い出す。幸せそうに微笑む今よりずっと若い父、髪も真っ黒で生き生きしていた。そしてその傍らにいるのは小さな未来。父は未来を『みーちゃん』と呼んでいた。

 そのことを話すと「あぁ」と思い出したように小さくうなずきながら照れくさそうに父が笑う。
 未来を見ると父の肩に凭れかかっていた。


「未来、寝てるの?」


 父に尋ねるとうんうんと二回うなずいた。
 よっぽど疲れていたのだろうか。それとも俺が一緒にいるから緊張の糸が解れたのか未来は寝息も立てずに眠っている。


「いつからだろう……オレの中でみーちゃんが未来に変わったのは。最初は本当にかわいいだけの娘だった。それが成長していくにつれ、オレの中の気持ちが変化した」


 ぽつりぽつりと父が小声で昔の話をはじめた。
 少しだけ未来の方を見て様子を伺うように顔を覗き込んだ後、夕陽に視線を戻した。


「未来の母親、万里もそうなんだが……オレの初恋の女の子に似てる。でも未来の方がよりその子に似ているんだ」


 再び眠っている未来を見つめていた。
 父の初恋の人に似ている。未来の母親よりもさらに。だからこんなにも未来に執着していたのだ。
 その気持ちを知ったからとはいえ、父が未来にしてきた行為が肯定されるわけでもない。ただの身代わりにされていた未来が哀れすぎる。
 だけど、未来が俺に望むのは父といがみ合い続けることではない。


「きれいな人、だったんだな」


 もちろん父を許したわけでもない。
 だけど複雑な気持ちを押し殺してそう告げると、父はうれしそうに笑った。


「そりゃもう……」

「その人とうまくいかなかったのか」

「……」


 急に父が黙る。
 聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。
 
 しばらく間をあけたあと――


「死んだ」


 夕陽を見つめて父が悲しそうにつぶやいた。



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Date:2013/11/22
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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