空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 187

第187話 実父の願い

柊視点




 未来の今にも泣きそうな顔を見て、何かを隠していることはすぐにわかった。
 はっきりと言えない理由があるんだってことも。

 確かに未来の言う通りだ。
 実父がいたから俺が生まれた。そして、実父がいたから、未来に逢えた。
 今まで未来にしてきたことを考えたら許すことなんてできはしない。だけど、ここまで必死になって訴える未来の気持ちを考えたら無碍にはできないと思った。


「わかった」


 そう言うと未来はやっぱり泣き出しそうな顔をして笑ったんだ。





 再び九〇六号室に戻る。
 静かに病室へ入るとベッドの上に座り、苦しそうに肩呼吸をしている父の姿があった。オーバーテーブルに寄りかかりながら何かを書いている様子。


「柊……?」


 こっちに気づいてうつろな目で俺を見ている。
 さっきと全く違う父を見て愕然とした。酷く顔色が悪い。少し前まで嫌がる未来を力ずくで抱き寄せた男とは思えなかった。
 病気なのだろうか。今にも死んでしまいそうじゃないか。俺はさっきまでこの人のなにを見ていたのだろうか。そう思ったらなぜか足がすくみ、一歩も動けなくなっていた。


「何?」


 俺がじっと見ていたからか、小さい声で父が聞いてきた。
 オーバーテーブルの上には便箋とペンが置いてある。何を書いているのだろうか。
 それをゆっくり閉じる父を見ると、胸の辺りがザワザワした。


「父さん、あの……」


 なんて言ったらいいのかわからなかった。
 いきなり未来が望むようなことを言うのもおかしな感じがするし、どう言葉を切り出したらいいか頭の中が真っ白になってしまっていた。


「何だ」


 父の鋭い目つきが俺の心臓を射抜くようだった。
 目許はさっき泣いたからか真っ赤のまま。そして深いシワが刻み込まれている。その視線に少し萎縮してしまった俺は唾をごくりと飲み込み、しばらくそのまま何も言えず立ちつくしていた。


「柊……」


 父の口が動く。そして、ベッドの右の足元にあるソファを指差した。


「そのソファにオレを座らせてくれないか?」


 いきなりの申し出に唖然としながらも軽い安堵を覚え、固まっていた足が自然に一歩前へ出た。
 長いソファを窓際の方に向け、肩を貸してやると足取りはおぼつかずにふらついている。
 俺に全体重を預けるような形でようやくソファに腰をかけることができた。膝の骨折があるからだけではないだろう。そんなことを俺に頼むくらい弱っているとようやく気づいて、胸の奥がざわめきだっていた。

 このソファに座ると窓から夕陽がよく見える。
 父の後ろに立ち、複雑な思いを抱きながらその夕陽に視線を落とす。父もそっちを見ながら小さい声で訊いてきた。


「……未来は?」

「いるよ。そこの洗面所の前に」


 振り返ると未来は悲しそうな顔で笑ってた。
 うんうんと俺を見てうれしそうにうなずいている。


「柊も未来も……オレの隣に座ってくれないか?」


 父の言葉に、俺と未来は自然に目を見合わせていた。



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Date:2013/11/22
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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