空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 184

第184話 好きなんだ

未来視点




「……彼に、見せたの?」


 わたしの声も身体も震えている。
 義父がこちらに冷ややかな視線を向け、目を細めて微笑む。


「悠聖くんに、あの時の……写真」


 信じられなくて涙が出そうだった。
 この人は狂っている。改めてそう感じた。


「あの男はユウセイっていうのか。見たかどうかはわからない。オレはおまえに渡してくれってあの男に頼んだだけだ」

「……そんな!」


 わたしの手元にそんな写真は届いてない。


「ちゃんと封筒に入れて渡したし、見ない方がいいと忠告もした。封はしてなかったけど。おまえの手に渡らなかったんだ。未来宛に手紙も入れておいたのに」


 囁くような義父の声に得意げに微笑む鋭い目。
 まるで悠聖くんに見せるのが目的で思い通りの結果になったと言わんばかりの振る舞いに反吐が出そうだった。

 わたしが義父と関係を持ったこと、悠聖くんは知っていた。
 だから昨日、あんなふうに不自然なこと聞いてきた。 

 それに、知っていたのに……あの日の夜、穢れたわたしを悠聖くんは受け入れてくれた。
 初めての時とかわらず、優しくわたしを抱きしめてくれた。
 かわったのはわたしの身体と気持ちだけ。それなのに、悠聖くんは――

 申し訳なくて、悔しくて涙が溢れ出す。
 悠聖くんは何もかも知っていたんだ。知らなかったのはわたしだけ。


「手紙って……どんな?」


 涙を拭きながら震える声で尋ねた。
 それを見られたくなくて必死に顔を背けて拭く。


「おまえの処女を奪った男を守りたかったらもう一度抱かれに来い……と」


 わたしは義父の手を思いきり振り払った。


「ひどい……よ」


 義父がベッドからのっそり起き上がる。
 それは緩慢な動きだったのに、素早くわたしの右手首を掴みあげた。あまりの素早さに息を呑むことしかできず、身体が引けたけど手を掴まれているから逃げることは不可能だった。


「……未来」

「やっ」


 義父の左手の力は驚くほど強かった。
 長くて余命一ヶ月の人の力とは思えない。


「こっちに来なさい」


 獲物を捕らえたような目つきで義父がわたしを見た。
 この目に見られると弱い。わたしは石で固められたように動けなくなってしまう。逃げなきゃって全身で警鐘を鳴らしているのに。


「許せなかったんだ、おまえの初めてを奪った男が」
「あっ――」


 強い力で義父に引き寄せられた。
 油断した、と思った時にはすでに遅く、そのまま義父のベッドの方へなだれ込むように引かれ、きつく抱きしめられた。


「……やっ!」

「オレを見て……未来……好きなんだ」


 耳元で繰り返し、囁かれる。
 義父の腕がしっかりとわたしの震え続ける身体を抱きしめた。


「おまえの初めてを奪った男に、嫉妬してるんだ」

「……やだっ」

「誰なんだ? 未来……ん、教えなさい」

「いやあ!!」


 耳元でそう囁かれ、かすかにかかる吐息にがくがくと全身が震え、自由の利く左腕で義父の胸を思いきり押しやる。
 その時、バタンと大きな音がして、義父の動きが一瞬止まった。

 音の方を見ると、お兄ちゃんが血相を変えて立っていた。


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Date:2013/11/20
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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