第180話 募る不安といやな予感悠聖視点
未来の部屋でひさしぶりにひとりで寝た。
目を閉じていろいろ考えていた。
未来の義父が彼女に恋愛感情を抱いているというのは衝撃的だった。
そしてそのことに対して未来に思い当たる節があったことにも驚いた。
義父に『愛してる』と言われていた。
気になって深いところまで突っ込んでしまったことを後悔していた。
未来の辛そうな顔や言いにくそうな態度で気づいてしまったから。
――どんな時に
そう聞こうとして、自分が酷いことをしていると自覚した。
そんなの聞かなくてもわかるじゃないか。
子供として『愛してる』と言われたとは思わなかったシチュエーションなんて、あの父親が未来を子供扱いしていない時しか考えられない。
きっと兄貴のために義父に身を任せた時のこと。
そんな時に未来に執拗に愛を囁いたのかと思うとゾッとする。
その時の未来はその言葉の本当の意味に気づいてなかったんだろう。地獄の時間に耐えるのに精一杯だったに違いない。
未来はその事実を僕が知らないと思っているから、言えなかったんだろう。
未来が僕に知られたくないのなら、いつまでも知らないフリをするよ。
でも、できるなら一緒に背負って……抱えてあげたかったんだよ。だけど、そうしてあげられるのは僕ではない。
悲しいけど、それが事実なんだ。
それと亜矢さんからの電話。
未来宛てっていうのも気になるし、意味がわからない。
明日十五時、亜矢さんの病院に行くと電話で話しながら未来が言っていた。あの病院に何かあるのだろうか。小さな声で『入院』とつぶやいていたのも気になるし。
しかも亜矢さんから未来に電話があったことを兄貴に内緒なんて。
僕の電話を経由しているから内緒にしてほしいなら口止めが必要だけど、一体未来は何を考えているのか。
本当に内緒にしておいていいのだろうか?
**
朝は普通に起きて学校へ行った。
今日、未来は元々バイトを休むことになっているが、僕に何て言ってひとりで亜矢さんのところへ待ち合わせに行くつもりなんだ。亜矢さんのところへ行くとはっきり言ってくれるのだろうか。
放課後。
意地悪じゃないけど、未来に一緒に帰ろうと声をかけてみた。
すると未来は少し戸惑ったような顔をした。
「今日はちょっと寄るところがあるから……十七時までには帰る」
そんなふうな理由でやんわりと僕を拒絶した。
僕は昨日亜矢さんと未来の会話を聞いていたのに、知られていないとでも思っているのだろうか。
きっと無意識に確認のために今日の待ち合わせ時間をつぶやいていたのだろう。
時計を見ると、十四時半。
あと三十分で未来はあの病院で亜矢さんと会う。本当に未来をひとりで行かせてよかったのだろうか。
ポケットから携帯電話を取り出して、何度も逡巡する。なんとなくいやな予感がしてならない。
兄貴に内緒で亜矢さんと会うなんてもってのほか。しかも僕の電話を使ってまで未来と直接話すなんて。知っていて見過ごすわけにはいかないような気がして。
もしかして、亜矢さんが未来に『兄貴に内緒』と念を押したのだろうか。
そうじゃなかったら亜矢さんは、兄貴の電話にかけて未来に替わってもらえばいいはず。いろいろ考えると不自然なことだらけだ。未来は亜矢さんに口止めをされているんだ。今そのことに気がついた。
プップップッと呼び出し音が聞こえてすぐに通話になった。
『悠聖? どうした?』
「兄貴? 今平気?」
『なに? 急用?』
「実は内緒って言われたんだけど、昨日亜矢さんから僕の電話に未来へって電話があって」
『何っ!? ほんとか?』
兄貴の声色が急に変わった。
「今日十五時に病院で……」
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