空色なキモチ

□ 満月の夜に見る夢は □

満月の夜に見る夢は 第2章 第25夜

 
 身体が熱くて重い。

 なんだか締めつけられているような感覚がする。
 人の温もりがするのは気のせいだろうか。


「……ん?」


 重い瞼を開くと、そこには雨宮翔吾の寝顔があった。


「んなっ! どうしてっ?」


 間違いなくここはわたしの部屋。
 そしてわたしのベッドに一緒になって眠っている雨宮翔吾。
 わたしの身体はしっかり抱き込まれていて動けない状態だ。


「ん? 起きた?」


 ゆっくり雨宮翔吾の瞼が開いていく。
 わたしはその腕の中で必死にもがき続ける。身体がだるいのに。


「なっ、何やってるんですかっ? 離してくださいっ」

「いやだ」

「なっ?」


 怒ったような眼差しの雨宮翔吾が、わたしの瞳の奥のほうを覗き込むようにじっくり見ている。
 そんな目を見たくなくて瞼を伏せた。

 いやだってなによ……子どもみたいなこと言わないでほしい。


「なんで昨日待ってなかった? それに電話も全く出ないってどういうことだ?」


 いつもより低い声、でも感情をなるべく抑えているんだろうとわかる小さい声だった。
 わたしは伏せた瞼を閉じた。


「帰ってください。なんでこんなところまで……」

 
 身体を離してほしくて雨宮翔吾の胸を押すけど、その腕の力は強くてさらにきつく抱き込まれた。
 骨が軋むんじゃないかと思うほどで、痛いくらいだった。


「理由を言うまで離さないし、出て行かない。なんで鍵を置いていく?」

「離してください」

「理由を言え」


 なんでこの人がここにいるの? 来たのは咲子のはず。
 ひょっとして、咲子について来たのかもしれない。


「雪乃、なんで出て行った? 会社帰りに電話した時はまだ俺の部屋にいてくれたんだろう?」

「離して……」

「理由を言えって」

 
 抱き込まれたまま揺さぶられる。
 頭がボーっとして脳まで揺れているようだった。


「あなたが嫌いだからです! これで気が済みましたか? もう離れてください」


 何もかもがどうでもよくなってわたしはそう叫んでいた。

 雨宮翔吾の動きが止まる。
 ゆっくり身体が開放される。締めつけられた感覚がなくなりほっと安堵の息をつく。 
 だけど、本当は寂しかった。ずっとこうしてほしかった。嫌いなわけない。ひとりで辛かった。

 でもそんな感情は押し殺す。そんなものはもう必要ない。


「どうして? 雪乃……」

「帰ってください」

 
 開放された身体をなんとか動かして雨宮翔吾に背を向ける。それがせいいっぱい。
 セミダブルベッドでそんなに大きくない。ふたりで寝るにはギリギリのサイズなのだ。


「なあ、納得できないよ。はい、そうですかなんて引き下がれない」

「……引き下がってください。それ以上の理由は思いつきませんから」

「雪乃! こっち向いて俺の目を見て話せよ」

「見たくありません。嫌いなんですから」

 
 目頭が熱い。涙が出そうだ。
 でも泣いたらだめ。少しでも身体を震わせようものなら……すぐに嘘がバレてしまう。


「じゃあなんで、俺と寝たの?」


 声、震えている。
 わたしのじゃない、真後ろにいる雨宮翔吾の声が。


「……理由とか、いるんですか?」

「え?」


 声を震わせないために必死だった。
 何度こみあげてくる感情と喉の奥からしゃくりあげられそうになるものを飲み込んだかわからない。
 ぎゅっと左手を握りしめて、右手でその甲に爪を立てる。痛みでなんとか堪えるしかなかった。


「そんな理由必要ないでしょう? ただ早く捨てたかっただけです。相手なんて誰でもよかった――」


 ――――嘘。

 誰でもいいわけなんかない。
 あなただから、抱かれた。
 でも、そんな理由すらもういらない。邪魔なだけ。

 だけど嘘はお互い様、だってそっちだって嘘吐きだもの。


 わたしのことが好きだなんてそんな嘘……ううん? それとも同情? この際どっちでも同じ。
 それに騙されたわたし。

 “好き”って言葉を出されたら勘違いだなんて思えないよ。
 普通そうじゃないの? わたしが間違ってるの?
 それでも信じて期待した自分が悪いの? 騙されたほうが負け?

 
 わたしの肩に手がのせられる感触がした。


「雪乃、こっち向いて。頼むから」

「……いやです」

「頼む。俺の顔を見て」


 泣きそうな声で訴えかけられる。
 そんな声聞かせないで……卑怯だ。泣きたいのはこっちなのに。


「早く出て行って……もうこれ以上わたしに関わらないでください……辛いの……」

「何が……辛いの?」

「一緒にいるのが辛いのっ! いい加減わかって!」


 吐き捨てるように、沸いて出る感情をぶつけるのがせいいっぱいだった。

 普通に話してたら絶対に涙声になってしまう。


 そっちが声を震わせるの……ずるいよ。こっちは必死で堪えているのに。
 そんなふうな態度取れたら諦めきれないじゃない。
 だったらいっそ突き放してくれた方が親切なのに……ずるい。ずる過ぎる。


 決死の発言に、雨宮翔吾の身体がベッドからいなくなるのがわかった。

 寝室の襖が閉まるのを確認してそのまま目を閉じ、わたしは静かに涙を零した。



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Date:2013/02/08
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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