第177話 真実は小説より奇なり柊視点
リビングに戻るとソファに座った未来の母親と修哉と悠聖が一斉に俺の方を見た。
「大丈夫、今寝かせました」
三人がほぼ同時にホッとした表情を見せた。
ベランダ側のソファに未来の母親が、その向かいの和室側のソファに修哉と悠聖が並んで座っている。
「弟の悠聖です。未来さんと同じクラスなんです」
未来の母親に紹介すると悠聖が照れくさそうにぺこりと頭を下げた。
「あぁ! もしかして首席合格の? 珍しいお名前だから覚えていたの。あなたのお陰で未来は特待生になれたのね。本当にありがとう」
未来の母親が立ち上がって悠聖に深々と頭を下げる。
それを見ている悠聖の顔が強張っているのがわかった。すぐに俯いて悠聖が首を振る。
「悠聖、悪いけど未来にポカリを持って行ってくれないか」
サッと悠聖が立ち上がってキッチンへ小走りで向かっていく。
なんとなく悠聖がいづらい雰囲気をかもし出していた。それは今朝、和室でふたりが話していたことに関係があるのだろう。
元々首席合格は未来のものだった、と悠聖はそんなふうに言っていた。
佐藤の、俺の義父と理事長がいいようにそう仕向けたのだろうと容易に想像できる。
大人の変な見栄が悠聖を巻き込み、苦しめたと言っても過言ではない。悪気はなかったのだろうけど、悠聖は心から苦しんでいたように見えた。だけど未来に本当のことを言えてよかったと思う。
悠聖が座っていた修哉の隣に腰をかけて未来の母親に頭を下げた。
「任せていただきありがとうございました」
「いえ、本当に未来がお世話になって」
「俺が悪かったんです。未来さんに聞かれるとは思わず……言い訳にしかなりませんが軽率すぎました。あいつの気持ちに関しても……」
実父が未来に惚れている事実を伝えてしまったことを少しだけ後悔していた。
でも退院後、再び未来に接触し今回のようなことをする可能性を考えたら恐ろしかった。
今回のようにうまく助け出せるとも限らない。下手をしたら連れ去られてしまう危険性だってある。未来の母親も危機感を持ち、本気であいつと離れる気になったと思う。そのためには必要なことだった。
だけど未来を深く傷つけてしまった。それだけはしたくなかったのに。
どうしても黙っていられなかった。言い訳かもしれないけど、未来の母親には実父の本心を伝えておかなければいけない気がして。
本気で好きだった人間が深い憎悪の対象にすり替わることもある、自分にとってそれが実父だった。未来の母親にも少しの情も残さずに実父を切り捨ててほしい。
未来には一番聞かれたくないところを聞かせてしまった。
そのことに関しての後悔は拭いきれない。時間を巻き戻せるなら巻き戻したい。
「……でも本当なんですか? あの人が、未来に恋愛感情って」
答えづらいので一度だけうなずいておいた。
「全然気がつきませんでした」
肩を落として悲しそうに未来の母親が自分の顔を手で覆った。
未来はかわいそうなことをした。酷い目にも遭わされ、本当に不幸だと思う。守ってやれなかった自分が不甲斐ない。
だけど一番不憫なのはこの母親のような気がしてならなかった。
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