空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 175

第175話 許されない愛

未来視点




「……らい! 未来!!」


 名を呼ばれ、身体を揺さぶられている。
 気がつくとそこは廊下だった。わたしの身体は後ろから抱きかかえられた状態でその場に座り込んでいた。目の前には不安げに歪むお兄ちゃんの顔。


「未来! 大丈夫か!?」


 お兄ちゃんの手が伸びて来て、わたしの左頬に触れた。
 そこから伝わる暖かさに、ぼんやりしていた意識が徐々にクリアになってゆくようだった。
 心配そうなお兄ちゃんと修哉さん。そして泣き出しそうな母の顔。後ろから身体を抱えてくれているのは悠聖くんだってすぐにわかった。


「未来……」

「――いやっ!!」


 思いきりお兄ちゃんの手を振り払って顔を背けた。
 そのままわたしの背中を支えてくれていた悠聖くんに縋りつく形になる。その腕を強く掴み、自分の身体の震えを押さえるのに必死だった。


「ごめん、未来。謝っても許せないよな。でもごめん……」


 わたしは何も言えなくて……でも何度も首を横に振っていた。
 やっぱり聞き間違いじゃなかった。
 お兄ちゃんはわたしを恨んでいる。実の父親をあんなふうにしたわたしのことを――


「でも、本当に一瞬だけなんだ……言い訳みたいだけど本当なんだ。今はやっぱりあいつが悪いと……」
「――やめて!!」
「未来、佐藤さんの気持ちわかるわよね。昔、あの人優しかったもの」


 わたしの背中をさする母の諭すような言葉を聞いて唇を噛みしめた。
 盗作のことがあるまでは本当に優しかった。だからお兄ちゃんが義父のことを本当に好きだった気持ちもわかる。あの時の義父はわたしも好きだった。

 でも……でも……


「だけどあなたは赦さなくていい」


 きっぱりとそう言い切った母の声がわたしに冷静さを取り戻させてくれた。
 振り返ると、大粒の涙を流している母がわたしを悲しそうな目で見つめている。


「おか、さ……」

「ごめんね……未来……辛かったわねよぇ……」


 ぎゅっと母の温かい胸に抱きしめられて小さい頃のことを思い出した。
 わたしが泣くといつもこうして抱きしめてくれた。その記憶が甦って涙がボロボロ止まらない。


「あの人が変わったのは盗作騒動があってからなんです。それまでは未来のことをすごくかわいがってくれていて……」

「違うんです!!」


 お兄ちゃんが少し大きな声を上げ、それに驚いたわたし達はほぼ同時にお兄ちゃんを見据えた。
 凛とした空気が流れる。背中に汗が一筋伝ってゆくのを感じた。


実父ちちが未来をかわいがっていたのには、理由があるんです。言おうかどうか迷っていたのですが――」


 口ごもりながらお兄ちゃんが眉間に深いシワを寄せた。
 わたしのことを鋭い眼差しでお兄ちゃんが見つめている。生唾がごくりと喉を通過し、その音が耳と脳に直接響き渡る感覚すらもわかるくらいわたしは緊張していた。


「あいつは……俺の父は、未来を娘としてではなく、ひとりの男として、恋愛感情を抱いているんです」


 一瞬その場が再び、しんと静まり返った。

 耳を疑った。
 恋愛感情? 義父が……わたしに?


「……嘘」

「本当なんだ」


 わたしの震える声に対する真剣なお兄ちゃんの表情。
 嘘をついている顔じゃない。

 そういえばあの時……ずっと耳元で囁かれていた。


 ――未来……愛してる……おまえはオレだけのものだ――


 両手で耳を塞いでも思い出す。
 ずっとずっと何度も繰り返し聞かされた。


 あれは自分の子供としてじゃなく、恋愛対象としてのわたしへの言葉だった。


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Date:2013/11/15
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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