空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 174

第174話 わたしのせい

未来視点




 真っ暗な闇の中、何かが鳴っている音で目が覚めた。
 携帯のバイブ音のように聞こえる。重い瞼をなんとか開けてみると、お兄ちゃんの部屋だった。

 ベッドから起き上がってその音の出元を探すと、お兄ちゃんの机の中から聞こえてきた。なるべく音を立てないよう引き出しを開けてみると、音が止まって灯っていた光が消えた。
 そこにあったのはわたしの古い携帯だった。

 なんでこれがお兄ちゃんの机の中にあるのだろうか。義父に取り上げられたはずなのに。
 携帯を見るとメールを受信している。だけど送信先がメールアドレスで表示されているから誰からのメールなのかはわからなかった。義父からじゃなければいいと思いながらメールを開く。


  『柊先生のためにあの画像は消したよ。学校辞めてほしくないから』


 柊先生、と書かれていて麻美からのメールだとすぐにわかった。
 お兄ちゃんのために……よかったとホッと胸を撫で下ろす。
 あの画像が流出したらお兄ちゃんの教師生命に関わる。麻美がお兄ちゃんを大切に思っていてくれた。その気持ちに感謝しないといけない。


 そして、今はこの携帯がなんでここにあるのかを知りたかった。
 少し頭が痛くて気持ちが悪い。すごく喉が渇いている。
 静かにお兄ちゃんの部屋を出ると、ちょうど悠聖くんが向かいの部屋から出てくるところだった。


「起きた? 大丈夫?」


 小声で優しく聞かれ、それにうなずいてなるべく静かにふたりでリビングへ向かう。
 もう母は来ているのかもしれない。すでに時間は二十時半を過ぎている。


「――俺も本当は父親が大好きだった……」


 リビングのドアノブに手をかけようとした時、中からお兄ちゃんの低い声が聞こえてきて何となく入りづらい雰囲気を感じたわたし達はお互い顔を見合わせた。
 

「お袋と父親が離婚してから二年間は父親と暮らしていました」


 お兄ちゃんが話す声が聞こえる。
 声を潜めてわたしと悠聖くんはその場で聞き耳を立てていた。


「その二年間は母親がいない寂しさもありましたが、父は本当に俺をかわいがってくれました。その時は本当に幸せでした」


 お兄ちゃんの父親。つまり今のわたしの義父のこと。
 お兄ちゃんが小さい頃の話のようだ。それがとても悲しそうな声で、胸が詰まりそうだ。


「でもお袋が再婚して、親権がそっちになって父親とは別れて……絵だけが好きだった父が……あんなふうに未来さんに酷いことをしてるのを見て……昔の面影もなく変わってしまったことが心からショックでした」

 
 心なしか声が震えているように聞こえた。
 お兄ちゃんは本当に義父のことが好きだったんだ。
 そんなふうに思っていた本当の父親がわたしにしていたことを目の当たりにして、本当に辛かったと思う。いやでも申し訳ない気持ちになる。


「今日、父親と話して……思いを聞いたら……ほんの一瞬だけ自分の気持ちが乱れました」


 悠聖くんが急にわたしの右肩を強く掴み、それに驚いてはっと息を呑む。声が出なくてよかった。
 振り返ると悠聖くんが難しい顔をして首を振っている。立ち聞きなんかやめようって言っているんだと思う。わたしもこれ以上聞いてはいけないような気がして、リビングの扉前から離れて部屋に戻ろうとした時。


「未来に逢ってなければ……あんなふうにならなかったんじゃないか、って」

 
 ――え?

 目の前が真っ暗になった。
 義父がああなったのは、わたしの……せい?


 遠くで悠聖くんがわたしの名前を呼ぶ声が聞こえる。
 だけど何も答えられなくて、足元がぐらぐらと揺れている。心臓を鷲掴みされたように苦しい。

 目の前の白い何かに意識を掠め取られて、遠のいていくような感覚がした。


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Date:2013/11/14
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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