空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 172

第172話 つぶれたふたり

柊視点




 目を開けると真っ暗だった。結構よく眠っていたみたいで頭がスッキリしている。
 時計を見ると、十八時半少し前。

 廊下もリビングも真っ暗だった。未来と悠聖はいないのだろうか。
 リビングの電気をつけると、長ソファに横たわる未来とひとり掛けソファに凭れて眠る悠聖の姿があった。
 テーブルの上に缶ビールが二本、まさか?


「おい! 起きろ! おまえビール飲んだのか?」


 悠聖の肩を揺さぶると小さく唸り声をあげ、目を擦りながらかったるそうにうなずいた。
 掠れた声で「飲んだ」と言う悠聖から少しだけ酒の匂いがした。未来もか尋ねると欠伸をしながらさらにかったるそうに悠聖がうなずく。呆れて言葉が出なかった。


「なんで?」

「なんでってこっちが聞きたいよ。兄貴が未来にメールなんかするからだろ?」


 キッと鋭い目つきで悠聖が俺を睨みつけた。
 その視線から明らかに怒りの感情が読み取れる。


「同じ家にいるのになんでメールなんか! 未来を避けるような真似して、もう自分は必要ないんじゃないかって辛そうだった。あんまり考え込むからかわいそうで……僕も、亜矢さんの家で飲んだ時、一瞬かもしれないけどいやなこと忘れられたから」


 未来はソファの背もたれの方に向いて眠っていた。
 狭いだろうに気持ちよさそうにグッスリと。やっぱり酒の匂いが漂ってくる。


「俺の……せいか」

「なんで未来を避ける?」

「悠聖、悪い。ちょっと手伝って」


 悠聖の問いには答えず、その手を借りてソファ前のテーブルをどかし、長ソファ前のスペースを作る。
 そこにしゃがみ込み、ソファに寝そべる未来の身体の下に手を差し込んで抱き上げた。そのまま俺の寝室へ運ぶ。
 未来を抱き上げるのはこれで二回目だった。一回目は実父に酷い目に遭わされた時のこと。あの時より今のほうが若干軽く感じる。
 俺の寝室に運んでベッドにそっと未来を降ろすと、そのままの体勢で眠り続けていた。


「必要ないわけ……ない」


 頬にかかる髪を避け、未来の頭をそっと撫でる。
 必要ないわけないんだ。
 何度も未来の頭を撫でて心の中で謝罪を繰り返す。
 謝っても許してもらえるなんて思っていない。でもどうしても謝って許しを請いたかったんだ。

 一度でもあんなことを思ってしまった自分がどうしようもなく恨めしかった。



**



 十九時半少し前に修哉が家に着いた。
 頭をボリボリ掻きながらめんどくさそうに。そんな態度を取っていても怒っていないことはわかっている。


「まったく、オレはおまえの女かよ。必要な時必要な場所に必要なだけ呼び出しやがって」
 
「悪い。本当に申し訳ない」

「そういえばこの前、オレが呼び出した時おまえ来なかったよな。瑞穂が泣き喚いてた時」

「あ、ああ……あの時?」

「おまえにヘルプしたのに、あん時本当に大変でさあ」

「悪かったって! 今、謝る! 次は必ず行く」

「……ったく。念書でも作成したいところだ」


 修哉が笑うと明るい気持ちになれる。昔からそうだった。
 紺色のTシャツにデニム姿の修哉はスーツの時とは違って大学生に見えた。その修哉がリビングの方へズカズカと歩いて行こうとする。


「ちょ! ちょっと待った! 修哉」


 すぐ未来の部屋に修哉を押し込むと、中で宅配ピザを食べていた悠聖が目を丸くした。
 扉をあけた途端チーズのいい香りがプーンと漂い、空腹を訴えた俺の腹の虫が鳴きそうになる。


「ん? 修哉さん?」

「なんだ? 悠聖いいもん食ってるな」

「悪いけどおまえもここで悠聖と食っててくれ」

「はぁ? おまえピザ食わせるためにオレを呼んだの?」


 何がなんだかサッパリって顔で修哉が首を傾げた。
 とりあえず有無を言わさず、その部屋に修哉を押し込んで無理やり扉を閉める。そのまま向かいの俺の寝室で寝かせている未来の様子を伺うと、気持ちよさそうに眠っていた。母親が到着するまでに目覚めるといいけど無理かもしれない。酒を飲ませてしまったのは俺の監督不行届きだ。


 静かに部屋を出ながら携帯で亜矢にメールを打った。
 実父の入院理由を聞くため。それを聞かないと未来の母親に入院していることすら説明ができない。


  『今日は連絡してくれてありがとう。
   あいつはなんで入院したの? 交通事故?』


 まぁ、それ以外ないと思うけど。頭に包帯巻いてたし。
 リビングの扉のノブに手をかけた時、持っていた携帯電話が鳴った。見ると、今メールを送信したばかりの亜矢からの着信だった。


『柊さん? 入院治療計画書見せなかったわよね。ごめん』


 亜矢が一気に早口で言った。
 入院治療計画書、そういえば自分が入院した時もらった。入院中どんな治療をしていくか簡潔に記載された書類だ。


『一応、交通事故による頭部外傷と右膝関節骨折とあと打撲……』

「……一応?」

『未来ちゃんのお母さんに会わせてもらえないかな。無理なら話だけでも……』

「? 今日会うから言ってみるよ」

『お願いね』


 亜矢の声にいつもの元気が感じられなかった。
 疲れているのかもしれない。気のせいならいいけど。話の途中で切られた気がして心配だった。俺の『一応?』という問いには答えがなかったのもしれない。


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Date:2013/11/13
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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