空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 171

第171話 大人ぶるふたり

未来視点




 お兄ちゃんがどこかから帰ってきてすぐに寝てしまった。
 すごく疲れた顔をして、わたしから目を逸らしていた気がしたから少し不安。

 そんな時、お兄ちゃんからメールが来た。なんでメールなのかわからなかった。
 同じ家にいるんだから直接言えばいいのに、わたしとは話したくもないの?


「どうしたの? メール誰から?」


 悠聖くんが心配そうな顔で尋ねてきた。
 今のわたしはよっぽど酷い顔をしているんだろう。お兄ちゃんからのメールであることを伝え、それを悠聖くんに見せた。


「今日、未来のお母さんここに来るんだ。新しい番号伝えてなかったんだ。ダメだな」

「……一番は悠聖くんに伝えたの」


 悠聖くんがわたしの頭を優しく撫でてくれる。
 目の前がぼんやりしてきた。そんなわたしの顔を覗き込んだ悠聖くんが困ったように眉を下げた。


「疲れているんだよ。あんまり気にするな」

「疲れてるなら……メールじゃなくて口で言わない? 隣の部屋にいるのに」

「……だよな」


 大きいため息をついた悠聖くんが「っ、たく」と小さくぼやくのを聞いた。
 今、わたしと悠聖くんはたぶん同じことを思っている。
 お兄ちゃんがどこへ行ってたのか。そして今何を考えているのか。なんでわたしを避けるようなことをするのか。


「ゆうべ兄貴に変わったことなかった?」

「……特に」

「じゃ、やっぱり今、出かけていた時に何かあったと考えるのが妥当だよね」


 わたしもそう思う。
 でもどこへ行ってたかも何があったのかもわからない。考えれば考えただけ不安だけが募ってゆく。


「お兄ちゃん、もうわたしのこと……いらないのかも」

「……未来」


 ソファの上で膝を抱えて小さくなる。
 お兄ちゃんはわたしが生きていてくれればそれでいいって言ってくれた。だけどすぐに覆されちゃうようなことがあったのかもしれない。酷く顔色も悪かった。


「でもまぁ、それはそれでありなのかも」


 わたしがそう漏らすと、投げやりに言ったと思われたのか悠聖くんが眉根にシワを寄せた。
 頭を撫でられている手も止まり、急になくなった温もりが寂しさみたいなものを増長させる。「なんで?」と怪訝な表情の悠聖くんに無理に笑顔を作ってみせた。 


「だってお兄ちゃんに甘えるのも悪いし。無理に向き合わなくても……」

「未来、怒るよ。約束したろ? ちゃんと向き合うって」


 急に悠聖くんが大きい声を出したからビックリした。
 また怖い顔になってわたしを睨むように見ている。


「だってお兄ちゃんがわたしをいらないって思ってたら……」

「そんなことはありえないから」

「なんでそんなこと言えるの? 悠聖くんはお兄ちゃんの気持ちわかるの? 兄弟だから? わたしは誰の気持ちもわからないよ」


 わたしも負けじと悠聖くんを睨み返す。
 

「……そうだね、ごめん」


 悠聖くんがのそっとソファから立ち上がってキッチンの方へ向かった。
 冷蔵庫を開ける音がしたあとすぐに戻ってきて、わたしの斜め前のひとり掛けのソファに座り込んだ。


「こういう時は飲むべきでしょ?」


 目の前に差し出されたのは五百ミリリットルの缶ビール。
 プシュッといい音を立ててプルタブを引き、悠聖くんが缶ビールを飲み始めた。わたしの手の中にも冷たい缶ビールがある。


「ちょっと苦い」


 顔を歪めながらも悠聖くんは飲み続ける。
 わたしのためにつき合ってくれているんだろう。意を決して持っていた缶ビールのプルタブを引き、そのまま一気に口をつけて飲んだ。


「ん? なにこれっ? にがっ!」


 お腹を抱えて悠聖くんが笑っている。


「苦いって言っておいたのに」

「ちょっとって言ってたのにぃ」

「結構苦いね」

「こんなのみんなよく飲むよね」

「これが大人の味なんだよ……きっと」


 首を傾げながら悠聖くんがまた飲んだのでつられるようにわたしも口にした。
 なんとなく大人に一歩近づいたみたいで少しウキウキする。飲んでいるうちに頭がボワーッとしてきた。だんだん口に馴染んできて飲みやすくなってくるようだった。
 いろんなことを考えなくていい頭になった感じがする。身体がフワフワして気持ちいい。


「悠聖くんの顔……歪んでみえるぅ」

「マジ? もうやめとけ」


 サッと缶ビールが奪われ、手を伸ばすけど届かない。


「だぁいじょうぶだって!」

「もうダメだよ、未来」

「なによぉ、ケチ……悠聖くんが勧めたんれしょ?」

「そうだけど……急性アルコール中毒にでもなったらまずいって」

「水飲んでおけば平気だよぅ」


 水を取りに行こうとソファを立つとグラッとした。
 足元がふらついてそのままソファへ座り込んでしまう。足元までふわふわしてる。気持ちいい。


「待って、僕が持ってくるから」


 悠聖くんがキッチンへ向かっていく姿もフラフラしているように見えた。
 ソファに寄りかかって目を閉じるとフワフワしてさらに気持ちがよくなった。雲の上にいるみたい。
 急に額に冷たいペットボトルが当てられ、あまりの冷たさにビックリして飛び起きる。


「今、夢心地だったのにぃ……」

「意外と酒癖悪いんだな」

「ほっといて」


 飲みかけのペットボトルの水を悠聖くんに手渡してソファに横になる。
 それでも身体はフワフワしていて気持ちよかった。お酒ってこんな感じになるんだ。美味しくないけどこんなふうになれるのはとってもいい。


 なにも考えなくていいってすごく楽。




【注】
未成年の飲酒は法律で禁止されています。
文中は物語上の設定で推奨するものではありません。ご理解の程お願いします。



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Date:2013/11/13
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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