空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 169

第169話 吹っ切れた彼女

悠聖視点




 起きたら十三時を過ぎていて、隣に未来が眠っていた。
 僕に背中を向けて気持ちよさそうに。背中をくっつけて眠っていたようだ。未来の穏やかな寝顔を見て僕は小さく笑ってしまった。

 僕の心も不思議なくらい穏やかだったから。




 カーテンが閉まったままの暗いリビングに入ると、テーブルの上に走り書きのメモが残してあった。
 それを開け放ってからメモを手にする。


  “悠聖へ。出かける。未来を頼む”


 とっても字が乱れているところを見ると、よっぽど急いでいたのだろう。
 どこに行くかは書いていないけど、朝帰ってきたばかりで眠ってないだろう。兄貴が風呂からあがってきたことすらわからないまま僕らは眠ってしまっていた。一体どこへ出かけると言うのだろうか。


 コーヒーを淹れるためにお湯を沸かす。
 もうすっかり昼だし、小腹が空いた。未来はよく眠っているから起きたら何か食べさせるとして、兄貴は何時頃帰ってくる予定なんだろうか。疲れで身体を壊さないといいけど。
 気がかりなのでとりあえずメールをしながらコーヒーを淹れていると、未来が目を擦りながらキッチンに入ってきた。まだ眠そうなのを無理に起きてきたって感じが否めない。


「よく眠れた?」


 僕が聞くと満面の笑顔が返された。
 その頬や目許は赤く、瞼がぷっくりと腫れている。泣きすぎですぐ眠ったからだろう。冷凍庫から保冷剤を出し、ハンドタオルに包んで未来に手渡すときょとんとしてそれを受け取った。


「瞼、冷やした方がいい。泣きすぎなんだよ」


 ゆっくりドリッパーにお湯を注ぐといい香りがしてきた。
 言われた通り大人しく未来が瞼を冷やしている。それを見て思わずくすっと笑ってしまった。


「悠聖くんが泣かせたんでしょ?」


 ぷくっと丸い頬を膨らませた未来がそのままフイッとキッチンから出て行く。
 僕は呆然とその後姿を見送ることしかできなかった。


「言うなぁ……」


 ついひとり言をつぶいてしまった。こんな未来を初めて見たような気がする。
 今までの未来だったら俯いて『ごめんなさい』と謝っていただろう。でも今の未来は違う。なんとなくだけど何かに吹っ切れたような感じだった。


「砂糖とミルク入れる?」


 キッチンから大声で聞くとすぐに返事が返って来た。


「砂糖二杯、ミルクたくさん」

「……ハイ」


 笑いを堪えて未来のマグカップに砂糖を三杯入れてやった。
 これはもうコーヒーじゃない。コーヒー牛乳だと思うくらいミルクもたくさん入れてやる。飲んだ時の未来の反応が楽しみで笑いが止まらなかった。


 ソファに座った未来にマグカップを渡すとすぐに口をつけた。
 ひと口飲んですぐさましかめっ面になる。


「あれ、いつもより甘い?」


 目を白黒させてマグカップの中身を見て首を傾げている未来を見て、中を覗いてもわからないだろうと思いながら僕は笑いを必死で堪えた。


「疲れてるからじゃない?」


 僕は未来の斜め前にあるひとり掛けのソファに座って、表情に出さないようにするのが必死だった。
 疲れているから甘く感じるとかありえないのに、未来は二度うなずいて納得したふうだ。


「でもおいしい。ありがとね」


 未来は僕に最高の笑顔を見せてくれた。
 そのまま満足そうにコーヒー(牛乳)を飲み続ける。

 兄貴が出かけたことを伝えると、少し心配そうな表情を見せた。
 寝室で寝ていると思っていたようだ。僕もそう思っていたし、出て行ったのも気づかなかったから不安になるだろう。
 

「メールもしたし、じき帰ってくるよ。大丈夫」

 
 そう伝えると、笑顔で「そうだよね」と返って来た。 
 僕の彼女ではなくなってしまったけど、やっぱり未来はかわいいと改めて思ってしまっていた。



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Date:2013/11/12
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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