空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 167

第167話 実父の入院

柊視点




 湊総合病院九階東病棟のナースステーション前に着くとすぐに亜矢を見つけた。
 亜矢もすぐに俺に気づいて近づいてくる。
 病室の番号を聞くと『九〇六号室』と言われ、亜矢を見ると彼女もこっちを向いて一度だけ深くうなずく。

 そこは俺が入院していた病室だった。

 いい音を立てて亜矢が九〇六号室の扉をノックする。
 中から返事はなく静かに亜矢が扉を開け、先に病室に入っていった。この部屋は個室で、入ってすぐ右に洗面所とトイレがあってベッドはその奥。


「小林さん」


 亜矢の声が聞こえるが、実父の声はしない。
 その後を追うようにゆっくり足を進めて病室に入ると、亜矢が実父の左にある点滴を見ている。
 実父の頭には包帯が巻いており、身体にはしっかりと布団がかけられていた。ベッドの向かって右側には心電図モニターが置かれている。


「よく眠ってるみたい」


 小さな声で亜矢が俺に告げる。それにうなずいて病室の窓際にあるソファに腰をかけた。
 起きるまで待つ、と伝えると亜矢は納得したようにうなずき返してきた。


「小林さんの持ち物に携帯があって、連絡先を確認するのに見たんだけど未来ちゃんと弓月万里さんって名前があったの」

「それは未来の母親だ」

「やっぱり……病院から万里さんに連絡をしようと思ったんだけど、ご本人が万里さんを身内と言わないし、言うのは未成年の未来ちゃんの名前だけで困ってたの」

「……そうか」


 はぁっとため息をついて実父に視線を送るけど、眠ったまま動かない。
 こいつは本当に未来を困らせたいようだ。いい大人の癖に腹が立つ。内縁とは言えども普通は義理の娘を緊急連絡先にしないだろう。未来の母親も不憫だ。


「しょうがないから小林さんの携帯に入っている未来ちゃんの携帯番号に電話したの。そうしたら本人の鞄の中で鳴ってるし……」

「――あ!」


 古い携帯を取り上げられたと未来が言っていたのを思い出した。
 その携帯の在り処を尋ねると、亜矢が床頭台から取り出して申し訳なさそうにそれを俺に手渡す。
 未来が大事に持っていた携帯。初めて出逢った時もこの携帯で会話した、思い出のたくさん詰まった大事なもの。それが戻ってきて自分のことのようにうれしかった。


「ごめん、その中を見ちゃった。未読メールがふたつ、その中に悠聖くんからかなって感じのメールがあった。すごい切ない感じの別れのメール」


 未来の携帯を操作してメールを開いた。
 もう電話帳の登録を消しているからメールアドレスで差出人が表示されている。そのメールを読んで胸を突かれる思いだった。


悠聖あいつ、カッコイイ」

「……うん、未来ちゃんのこと本当に宝物みたいに思っている」

「あんな男になりたいよ」


 言ってて自分が情けなくなった。弟に憧れるってどんな兄貴だよ。
 亜矢が俺を見てくすくす笑うから、恥ずかしさがこみ上げてくる。手にしていた未来の携帯をデニムのポケットに押し込んだ。


「あ……それ」

「未来のだ。そいつに取り上げられたんだよ」


 ベッドで眠る実父を見ると、何事もなかったように大人しく眠っている。
 いい気なもんだ、と思いながらも無理に起こすわけにもいかず憤りだけが自分の中に渦巻いてゆくようだった。


「柊さん、一体何があったの?」

「近いうち君にも話さないとな。あとはこっちで何とかするから大丈夫。提出する書類とかあれば出すよ」

「……そう? 身元引受人と保証人が必要なの」


 床頭台から書類が出され、俺の手元に来た。
 未来の母親への連絡を拒絶している限り、身元引受人も保証人もいるわけがない。俺の名前を使ってもいいけど、こいつに住所を知られたくない。
 病院に提出する分には構わないが、複写で控えが本人に戻されるから、少し考えるしかないだろう。

 未来の母親に連絡をしてしまおうか。


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Date:2013/11/11
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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