空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 166

第166話 無償の愛

柊視点




 シャワーを浴び終え、和室に向かうと中に入れる雰囲気じゃなかった。
 立ち聞きするつもりなんかなかったけど、聞いてしまっていた。


 悠聖はなんであんなことができるんだ。
 本気で未来が好きだからこそ幸せを祈っている。自分の幸せよりも、まず未来なんだ。

 無償の愛――

 我が弟ながらすごいと思った。
 もし俺が逆の立場だったら同じことができただろうか。いや、できないだろう。
 
 俺にできたことは、死を望むほどに心を痛めている未来に愛を誓うことだけ。
 ただ、生きていてくれればそれでいい。俺がずっと傍にいる。そんな自分勝手な思いをぶつけるだけしかできなかった。
 そう告げたところで未来の中に生の執着が芽生えたとも思えない。

 自分は愚かだと思う。
 実父のことを未来に告げて身を引こうと思っていたのに、結局は自分に縛りつけているだけじゃないか。

 そんな男を、未来はまだ好きでいてくれているのだろうか。
 悠聖に任せておけば未来は幸せになれただろう。それなのに……

 

 俺は和室に入らず、そのまま自分の寝室へ向かった。
 情けないけど、今はあのふたりと真正面から向き合えるだけの勇気はない。
 手に握りしめていた携帯電話の電源を入れると、未来の母親からメールが届いていた。


  『未来がお世話になっております。
   新しい住居が決まりそうです。近々未来と見に行きたいと思っています。
   昨日から未来と連絡が取れないのですが元気にやっていますか?
   心配しています。未来に連絡するように伝えていただけないでしょうか?』


 未来は昨日、携帯を変えたのを伝えてなかったのか。
 買ってすぐバイトで、その後に実父に連れ去られたから連絡できなかったのだろう。未来の代わりに連絡しておくことにした。


  『連絡が遅くなりまして申し訳ございません。
   昨日未来さんの携帯を変えました。
   古い方の携帯も使用できるのですが、現在手元にありません。
   詳しい説明をしたいので、本日お会いできないでしょうか?

   新しい番号とメールアドレスをお知らせします――』


 話をするなら少しでも早い方がいい。
 今日の夜、未来の母親に会えるといいんだけど、あとは返信待ちだ。
 
 ベッドに横になって他のメールをチェックする。
 修哉からも今朝の早いうちにメールが来ていた。『今日の夜空いてるか?』のひと言だけ。あいつは今日の夜、暇なのか。


「……そうだ!」


 ガバッとベッドから起き上がる。
 修哉と未来の母親のことを考えて、ひとつのことを思いついた。そして、修哉にメールを打つ。


  『今日の夜空けておいてほしい。また俺の都合で悪い。
   今から寝るから連絡はなしで、二十時前に家に来てほしい』


 最近修哉を振り回してばかりだ。それでもあいつは文句を言いながらも絶対に叶えてくれる。本当にいいやつだ。もしかしたら前世では兄弟だったのかもしれない、そうだったらいいなと考えたらおかしくて笑いたくなった。



**



 少しベッドでウトウトしていたようで、携帯の着信音で目を覚ました。
 時計を見ると九時半を過ぎており、一時間半くらい眠っていたようだ。ぼんやりしたまま誰からの着信か確認せずに取ってしまった。


『柊さん?』


 聞き覚えのあるハキハキした女性の声。


「……亜矢?」

『うん』

「どうした? 夜勤明け?」

『……未来ちゃんは?』

「? 今寝てるよ」


 俺の問いには答えず亜矢が少し早口で言った。
 なんだかいつもよりテンションが低くて変な感じだった。


「何かあった?」

『……守秘義務があるから本当は言っちゃいけないんだけど、緊急事態かな』

「未来に関係あること?」


 躊躇いながら言う亜矢に少しもどかしさを感じてこっちから聞き返した。
 言い辛そうな沈黙が少し続き、その後、亜矢が小声で何かをつぶやきながらようやく口を開いた。


『未来ちゃんの名字、“弓月”って言ってたわよね。弓の月で』

「――ああ」

『実は今朝方入院してきた人に身内の名前を聞いたら、未来ちゃんの名前を言うのよ』

「……えっ?」


 亜矢の話を聞いて一瞬でハッキリと目が覚めた。


「もしかしてその人って小林健二って男?」

『えっ? 柊さん知ってるの? 小林さんのこと』


 言葉を失った。
 実父が亜矢の病院に入院? なぜだ?


『柊さん?』


 亜矢の声が寝不足の頭に響く。


「あぁ……ごめん。そいつ俺の実父」

『えっ!? あっ……そっか! ってことは未来ちゃんの……』


 亜矢は状況を知っているからすぐにピンと来た様子。
 驚く顔が目に浮かぶようだ。名字が違うから気がつかなかったのだろう。


「今から行けば会える?」

『……うん。意識はあるけど……』




 ベッドから跳ね起きて出かける準備を始める。
 さすがに車を運転する気にはなれない。車のキーを自分の机に置いて部屋を出た。


 和室を覗くと右側の布団に未来が、その隣の真ん中の布団に悠聖が眠っていた。
 悠聖は右端と真ん中の布団の間に寝ていて、未来の背中に自分の背中をくっつけている。未来も右を向いて悠聖の背中に自分の背中をくっつけていた。ふたりとも気持ちよさそうによく眠っている。

 薄いタオルケットをふたりにかけて静かに家を出た。


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Date:2013/11/10
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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