空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 165

第165話 苦渋の決断

未来視点




 険しい表情の悠聖くんが必死になってわたしに訴えかける。
 わかるよなって言われてもわからない。悠聖くんが言いたいこと全く伝わってこない。だからわたしは何度も首を傾げた。その態度が悠聖くんの癇に障ったのか、身を乗り出してさらに強く訴えかけてきた。


「吊り橋効果だよ! それを狙ったんだ!」

「……え、吊り?」

「人は恐怖のドキドキと恋愛のドキドキを勘違いしやすいんだ。あの時、未来は橋本先輩に対して恐怖心を抱いていた。その数分の間隔で僕は君に告白をしたんだ」


 説明をしながら悠聖くんはわたしの感情に揺さぶりをかけているようだった。
 イマイチピンと来ないけど、だから自分から離れろと誘導しているように感じられて悲しい気持ちにしかならなかった。


「つまり君は恐怖心のドキドキとそれを助けた僕に告白をされて、恋愛のドキドキを勘違いしたんだ!」

「違う!!」


 そんなの聞きたくなかった。
 わたしは必死で悠聖くんの説明を止めた。だけど悠聖くんは首を横に振るばかりだ。


「違わない! しかも君は僕に対して特待生のことで感謝をしていた。それも……」
「違うったら! もうやめて!」


 これ以上聞きたくなくてやめさせたくて大声で叫んでいた。
 堪えていた涙がボロボロ流れて止まらなる。


「なんでそんなに意地悪言うの?」


 わたしの反応にあんぐり口を開けた悠聖くんも気がついたらいつの間にか起き上がっていてこっちに少しずつ近づいてきていた。
 泣きしゃっくりを上げながら、今度はわたしが必死で悠聖くんに訴えかけた。


「好きだから……キスも、エッチもしたのにぃ」


 涙でぼやけて悠聖くんがよく見えなくなる。
 手の甲で涙を拭うけど止まらない。もういやだ。なんでわたしの思いを全て否定されるのだろうか。わたしは本気で悠聖くんが好きだった。吊り橋効果なんかじゃない。それなのに――


「うん、そうだよね」


 いつの間にか悠聖くんはわたしの目の前にしゃがみ込んでいた。
 そしてその胸にそっとわたしを抱き寄せる。それがすごく暖かくて、今まで慣れ親しんだいつも甘えていた胸だからほっとして余計に涙が溢れ出す。


「言い過ぎたよ。ごめん」


 ポンポンとわたしの背中を撫でてくれる。
 そうやっていつもわたしが泣くと宥めてくれた。悠聖くんの優しくて力強い手。


「僕も本当に未来が好きだから、キスもセックスもした。僕にとっても大切な想い出だ。絶対に忘れない」


 頭の上から聞こえてくる悠聖くんの声にわたしは何度もうなずいた。
 わたしの涙で悠聖くんのTシャツの胸が濡れてしまう。
 でも構わずにわたしは頬を擦りつけ、その胸元を涙で濡らした。もっともっと悠聖くんに気づいてほしい。わたしの本気の思い。


「こんなに僕のことを大切に思ってくれてうれしいよ。ありがとう……でもね」


 悠聖くんを見上げると、悲しそうな顔で笑っている。
 それを見て、わたしも悲しくなってしまう。だからその目を見つめながら何度も首を横に振った。『でもね』のその続きを聞くのが怖い。


「僕も未来が大切なんだ。未来が僕を思ってくれているように……だから本当に好きな人と幸せになってほしい」


 悠聖くんの手がわたしの頬に流れる涙をそっと拭う。
 目を逸らさずに、じっと見つめられる。その瞳に吸い込まれそうだった。
 よく見たら悠聖くんは眼鏡をしていない。そしてその目は少しだけ潤んでいるように見えた。


「これから、君は兄貴と生きていくんだ」

「――っ!!」


 その言葉を訊いて想像が現実になった。
 悠聖くんはわたしと別れるだけじゃない。わたしとお兄ちゃんの間の橋渡しをしようとしているんだ。わたし達の気持ちを知ってるから。


「……やだ」

「え?」

「そんなことしないから!」


 悠聖くんの顔をキッと睨みつけた。
 それに動揺した悠聖くんの表情が驚きに変化する。


「悠聖くんと別れてもお兄ちゃんとつき合ったりしないから!」

「――どうして!?」


 困惑顔の悠聖くんがわたしの両肩をキュッと掴む。
 一瞬痛みを感じるくらいだった。だけどそんな顔をされてもわたしは意志を曲げるつもりはない。


「弟がダメだからすぐ兄みたいに乗り換えるの絶対にいや!!」

「そうじゃないだろう?」


 悠聖くんの強い力がわたしの両肩を揺さぶる。
 揺すられながらわたしは首を振って拒絶した。そんな提案、納得できるわけがない。


「そうだよ! そんなの自分が許せないもん!!」

「キレイゴト言うなっ!!」

「――!?」


 いきなり頭ごなしに怒鳴られ、わたしは全身で驚いてしまった。
 キレイゴトって何? わたしは間違ったこと言っていないはず。なのになんでそんなに怒るのだろうか。
 初めて見る悠聖くんのこんなに怖い表情に怯みそうになってしまう。泣きしゃっくりをあげ続けるわたしを悠聖くんが辟易した表情で見下ろした。


「つべこべ言わず兄貴のところへ行けばいいんだ」

「……いやぁ」


 首を何度も横に振ると悠聖くんは自分の身体からわたしを引き離した。
 まだ怖い顔をしている。相当怒っているような鋭い眼差しは心からわたしを拒絶しているようにしか見えず、胸が痛かった。


「そんなわからないこと言うなら……本気で未来を嫌いになる」


 悠聖くんのその言葉が、わたしの胸の奥に深く突き刺さる。
 嫌われたくない。その思いだけが押し寄せてきて、何度も何度も首を振って悠聖くんに哀願した。


「いやだぁ……そんなのいや……そんなこと言わないで……」


 泣きすぎなのか、首の振りすぎなのかわからないけど、頭の中が真っ白でくらくらしていた。
 悠聖くんから嫌われたら、わたしは生きていけない。
 その場で崩れるように慟哭すると、わたしの両腕を悠聖くんが支えてくれた。こんなに優しい手を離したくないのに、なんでわかってくれないのだろう。このもどかしい思いがなんで伝わらないのだろうか。


「じゃあ未来もわからないこと言うな」


 大泣きしながら必死で呼吸を整えていると、悠聖くんがわたしの顔を覗き込んでいた。
 困ったような顔で必死に笑いかけてくれてる。


「未来が兄貴にちゃんと向き合うなら嫌いになんかならない」

「……ゆ、う……せいくん」

「僕だって未来のことを嫌いになんてなりたくないから……約束して、ね」

「……うっ、うぅ……」

「兄貴とちゃんと向き合うこと。わかった?」


 涙が止まらない。手で何回拭っても全然止まってくれない。
 涙でぐしょぐしょの顔を向けると、悠聖くんも真っ直ぐな瞳でわたしを見ている。違うのは涙を流していないことだけ。だけどその目はもう真っ赤だった。

 わたしはやっとの思いで悠聖くんに小さくうなずきかけた。


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Date:2013/11/10
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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