VOICE 163
第163話 愛の告白未来視点
瞼をゆっくり開くと明るい光が飛び込んできた。
なんだか目のまわりが重い。少しこするけどぼんやりしたままだ。身体も固まったように痛い。
気がついたら車の中だった。そうだ、昨日義父に連れ去られてお兄ちゃんに助けられて、その帰りだった。
「起きた?」
「お兄ちゃん、ずっと運転してたの?」
うん、とうなずく少し眠そうなお兄ちゃんの反応。
とっても疲れているように見える横顔。そうだよね、昨日仕事してそのままわたしを追いかけてきてくれたんだもの。それも一睡もしないで。
わたしの視線を感じたのか、お兄ちゃんがちらっとこっちを見て苦笑いした。
「大丈夫だよ。それより眠れた? あと三十分くらいで家に着くよ」
車の時計を見ると朝の五時五十分だった。
ペットボトルの水が目の前に差し出され、お礼を言ってそれを受け取る。
左手で倒した背もたれを戻すバーを探してみた。確か昨日お兄ちゃんがこの辺をいじってた気が……。
「ひゃっ!!」
勢いよく背もたれが元の位置に起き上がったから、ビックリして素っ頓狂な声をあげてしまった。
信号待ちで車が停止していたから、まじまじとお兄ちゃんに見つめられてしまう。
「……ぷっ」
「うっ……い、今笑ったでしょ?」
「……いや」
明らかに笑い堪えてるし!
なんだか恥ずかしい。朝からこんなところ見られて。
「ほら、見てみろ」
お兄ちゃんが運転席の窓を示した。
雲の陰から太陽が顔を覗かせたところだった。オレンジ色の光が丸くユラユラ揺れているように見える。
「わぁ……」
「キレイだろ?」
「うん」
橋の途中でお兄ちゃんが車を停めた。
どんどん太陽が昇っていく。川がオレンジ色に染まっていくよう。こんな光景を見るのは初めてだった。
ふと、気づいた時にはお兄ちゃんはいつの間にかシートベルトを外して身体ごとこっちを向いていた。
目をきゅっと細め、穏やかな表情でわたしを見つめている。その熱い視線にドキッとしてしまう。
すうっと差し伸べられたお兄ちゃんの大きな手がわたしの左頬を優しく包む。その手の温みを感じていたら、お兄ちゃんが近づいてきた。
囁くようなその声に「未来」と呼ばれ、ドキドキしながらお兄ちゃんの唇を見て目を閉じる。
「愛してるよ」
「――!!」
右のまぶたにお兄ちゃんの唇の感触がした。
コツンとわたしの額にお兄ちゃんの額が当たる。ゆっくり目を開けて上目遣いにお兄ちゃんを見ると、向こうも同じようにわたしを見ていた。
「愛……してる?」
わたしが探るように訊くとお兄ちゃんが優しい顔でうなずいた。
その顔は嘘を言っているように見えなかった。だけど信じられないわたしは「本当?」と聞き返してしまう。すると困惑顔の苦笑いが返ってきた。
「もう未来に嘘はつかない」
すごくうれしかった。
でも、わたしは「ありがとう」と返しただけで「愛してる」とは言えなかった。
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