空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 162

第162話 崩壊する心

未来視点





 お兄ちゃんが悲しそうにわたしの名を呼ぶ声が聞こえた。


「ねぇ、未来」


 もう一度名前を呼ばれる。
 寝たフリをしようかと思った。でも自然に声が出ていた。


「なにもかも……もうどうでもいい」

「未来、聞いて」

「まわりの人に迷惑かけるの、もういやなの」

「俺の話を聞いてよ、未来」


 お兄ちゃんの声が遠く小さく感じる。


「義父さんの好きにすれば……」

「聞けったら!」


 お兄ちゃんの声をぼんやりと聞いていた。
 怒鳴られてももう怖くない。もう何も怖くなんかない。

 併走する車の運転席から義父がこっちを指差して、わたしに告げた言葉。


 ――そいつがどうなってもいいのか――


 間違いなく、唇はそう動いていた。

 助けてもらえてうれしかった。生きた心地がした。
 だけど、こんなふうに逃げても一時的なこと。きっとまたこういうことは訪れる。
 もしかしたら、またお兄ちゃんに危害を加えるかもしれない。ううん、しれないじゃなくて絶対だ。
  
 これ以上お兄ちゃんを苦しめないでほしい。
 わたしが耐えればすむことなら、そうするのが一番いいはず。


「聞きたくない」


 ゆっくり瞼を閉じて力を抜いた。
 このまま二度と目が覚めなければいいのに。


「そんなこと言うなよ。未来を命懸けで助けたお父さんに申し訳ないと思わないのか」

 
 急に持ち出された父の存在に、自然に瞼を開いてしまった。
 わたしを助けなければ生きていたのに。あの優しい笑顔は一生忘れたくない。


「お父さん、かわいそう」

「そうだろ?」

「でもお父さんが生きてたらお母さんだって幸せだった! 生きててくれればあの人と会うことだって……」


 そう言ってから後悔した。
 途中で口をつぐんだけどほとんど言っちゃってた。


「ごめんな、未来。あいつのせいだな……ごめんな」


 お兄ちゃんがわたしの頭を優しく撫でる。
 やっぱりお兄ちゃんに罪悪感を抱かせてしまった。そんなことがしたいわけじゃない。したくないのに。
 わたしが悪いのに謝るお兄ちゃんになぜか苛立ちを感じてしまい、その手を振り払う。


「なんでお兄ちゃんが謝るの? お兄ちゃんは悪くなんかないのに……お兄ちゃんは関係ないのに……わたしが!」

「俺が悪くないなら未来も悪くない」


 わたしはそのまま首を振った。


「わたしなんかいない方が……」

「未来がいないとダメだ」


 わたしなんかいない方がみんなが幸せになれるのに。
 わたしがいるせいでお兄ちゃんだっていっぱい迷惑かけてる。それに実の父親ともこんなふうにこじれさせてしまったのは絶対にわたしのせいだ。


「誰がなんと言っても未来がいないと俺がダメなんだ。他の人間なんてどうでもいい。未来が生きていてくれれば……それでいい」


 お兄ちゃんの苦しそうな声が胸に沁みた。
 じんわり胸の中が熱くなって……でも痛くて、苦しい。そんなふうに思わせてしまうことが申し訳なくて。


「疲れてるんだよ。車の中じゃゆっくりできないけど少し寝なさい。さあ、目を閉じて」


 何度も頭を優しく撫でられ、言われるまま目を閉じた。


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Date:2013/11/08
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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