空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 160

第160話 追われるふたり

柊視点




 実父から連絡が来た。
 こっちからかけてもいつも出なかったのに、向こうかけてきた理由なんてひとつしかない。助手席の未来を見ながら通話にする。


『柊か? おまえ今どこにいる』


 怒りを潜めたような実父の声が聞こえる。くぐもっていて聞き取りづらい。
 未来は俺を心配そうな目で見つめていた。


「いきなりなんだよ」

『どこにいるんだ』

「あんたに関係ない」

『未来を返せ』


 実父の怒りの感情が声のトーンで伝わってきた。
 低く淀んだ恨みがましい声。幼い頃のわずかな記憶を思い出そうと思ってもでてこない。本当に同一人物なのか疑いたくなる。今でも信じたくない思いでいっぱいなのに。
 無言でいると、『おい』と再び淀んだ声が返って来て悲しい気持ちにしかならなかった。実父このひとにとって俺はすでにどうでもいい人物なのだろう。


「は?」

『未来を返せと言ってるんだ』


 横目で未来を見ると恐怖に怯えた顔をしている。
 唇を噛みしめてガチガチ震えていた。これ以上怖い思いをさせたくない。このまま通話を切ってしまおうと通話ボタンに指を乗せた。


『柊! 聞いてるのか? 今おまえを追ってるぞ』

「!?」


 慌てて後ろを振って確認するが、近づいてきているのかわからなかった。
 持っている携帯をホルダーに差し込む。スピーカーで話せば楽だが、実父の声を未来に聞かせたくなかった。これ以上不安な気持ちを煽りたくない。


「俺の鞄の携帯入れからイヤホーンを出して」


 なるべく小さい声で未来に伝えて車を走らせる。
 そのイヤホーンを携帯にセットして耳に入れると、すぐに含み笑いが聞こえてきた。


『おまえの車は知っている。よく未来を図書館まで迎えに来てたもんな』


 突然大きな声であざ笑う実父。
 こっちの車を知られているのは予想外だった。その状態で追われているのはかなり不利だ。


「だったらなんだよ」


 実父の声は未来には届かないけど俺の声は伝わってしまう。
 でもどうしようもない。切るわけにはいかない。
 左車線から右の追い越し車線に入ってスピードを上げた。


『富士川サービスエリアから出るおまえの車を見てた。もう追いつくぞ』

「――っ」


 アクセルをこれでもかってくらい強く踏み込んだ時。


「――あ!」


 未来が助手席の方の窓を見て小さく声を上げた。
 左隣に実父の車が並走しているのが見えた。運転席にせせら笑う実父の姿。


「いや……」


 実父の姿を確認して未来が悲しそうな声を上げて首を振った。
 チラッとしか見れないが、実父が唇の動きで何かを未来に伝えているように見えた。未来は金縛りにあったようにずっとそっちを見ている。


「そっちを見るな! 未来!」


 俺が大声で訴えても未来は硬直したまま動かない。


『柊、無理だ。諦めろ』


 実父のバカにしたような笑い声が聞こえた。
 そんな言葉に挑発されたりしない。絶対に諦めない。未来を家まで無事に連れ帰るんだ。悠聖との約束を守るためにも。


「……お兄ちゃん」


 助手席の窓の方を見たまま未来が俺を呼ぶ。


「わたしを……ここで降ろして」


 一瞬目の前を見失いそうになった。
 道が空いているからよかったものの、目の前に車でもいたら追突していたかもしれない。運転中でしかもかなりスピードを上げているから集中しないといけないのに。


「ここで降りる」

「バカ言うな! あいつのところへ行くって言うのか!?」

「……うん」


 未来はずっと窓の向こうの実父を見ている。


『あいつって言い方はないだろう』

「うるせぇ! 黙ってろ! 未来! いいか! 俺は絶対に停めるつもりはない!」


 もうどっちに語りかけているのか自分でもわからなくなってしまう。
 携帯のイヤホーンを投げるように乱暴に外して通話を切った。


「未来! あいつに何言われたか知らないけど絶対降ろさないからな!」


 前を向いたまま怒鳴りつけると、いきなり左車線から実父の車が右の追い越し車線に寄って来た。
 少しずつスピードを落とすと、俺の車の前に実父の車が滑り込んでくる。先に行かせないつもりだ。ウインカーを出して左車線に車を移動させると、すかさず向こうも俺の前で左車線に入ってくる。

 完全に行く手を阻まれてしまった。



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Date:2013/11/07
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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