空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 156

第156話 救いの声

未来視点

性虐待と思われる(可能性がある)シーンが少しだけあります。苦手な方はお戻りください。




 義父の好奇の目に晒され身震いが止まらない。
 両手が自由にならないから抵抗もできない。なんとかできるのは視線を逸らすことだけ。


「未来、おまえは本当にかわいい」

「……やっ! うぅ」


 義父の顔が近づいてきて、恐怖に瞼を閉じた。
 こめかみの辺りに押し当てられた唇が少しずつ動き、わたしの耳をなぞるように何度も触れた。生暖かい義父の吐息が直接わたしの耳を刺激し続ける。
 気持ち悪くて胃の中をかき回されているような吐き気を覚えた。首を振りたかったけど手で顎を押さえられているから無理。思いきり歯を食いしばって耐える。
 そのまま髪に触れられ、唇が首筋に移動していく。


「あぁっ、やぁ!」


 限界まで顔を左に逸らし、耐えるしかなかった。
 つぅっと動いていく唇がわたしの身体を蝕んでいくように思えた。お願いだからこれ以上触れないでと泣き叫びたかった。だけど恐怖のあまり声は喉元の辺りで淀むだけだった。


「逃げようなんて思うなよ」


 義父の手がわたしの襟元のリボンを外した。
 そのままゆっくり第一ボタンを外され、背筋にさあっと悪寒が走る。


「……やっ! やめて……」


 第二ボタンにも手がかかる。
 ギュッと目を閉じて見るのをやめた。


「大人しく待ってるんだ」


 手の動きが止まり、義父の唇がわたしの右の鎖骨辺りに触れた。生暖かい感触が走る。
 その部分をかなり強く吸われ、一瞬チリっとした鋭い痛みを感じた。わたしの首元で義父がふっと笑う。


「本当にきれいな肌だな」

「っあ!」


 今まで吸いついていた部分を、今度はベロリと滑るように肉厚の舌に舐めあげられた。
 気持ち悪さに加え、嫌悪と不安が煽られて全身がザワザワしてゆく。


「しるしをつけておいた。その格好じゃ逃げられまい。無駄なあがきは疲れるだけだぞ。よく覚えておくんだな。未来」


 身体が解放され、後部座席からすっと義父が降りてゆく。
 バン! と大きい音がしてドアが閉められたと同時にガシャリと鍵のかかる音を聞き、恐る恐る目を開けると義父の背中が遠ざかっていくのが見えた。

 ――今しかない。

 助手席側の後部座席に置いた鞄から新しい携帯を出してお兄ちゃんに連絡をしないと。
 身体をずらして鞄に寄り、ふと思いつく。
 それよりもこの車のキーロックを外して、逃げてから携帯で連絡した方がいい。
 身体を傾けて右側の扉についているロックの辺りを後ろ手で探るけどなかなか届かない。縛られているから思うところに手がいかない。


「……はぁ」


 大きいため息をついてからもう一度キーロックを探る。ここで諦めたら、もう助からない。
 義父が戻ってくる前に車から脱出しないと。転げ出てしまえば誰かに見つけてもらえるはず。口は塞がれていないんだから見つけてもらえなくても大声で助けを求めれば誰かしらが――

 その時、背中を預けている右ドアの窓ガラスが強く叩かれる音がした。
 もう義父が戻ってきてしまった。絶望感に襲われて強く瞼を閉じると目尻に熱い涙が滲む。

 ――助けて。
 言葉にならない声を飲み込んだ時。


「――未来!!」


 窓ガラスの向こうから、わたしの名が呼ばれた。
 それは、聞き覚えのあるわたしのだいすきな、声。


「お兄ちゃ……」

「ここ開けろ!」


 姿は確認してないけど、間違いない。お兄ちゃんの声。
 夢ではないかと信じられない気持ちを現実に引き戻すかのように扉を強く叩く音。
 首だけでなんとか振り返ると、焦った表情をしてこっちを見ているお兄ちゃんがいた。身体が震えるほどの喜びを感じ、そして安堵のあまりに一瞬気が遠くなりそうになった。
 
 このドアを開ければお兄ちゃんが……お兄ちゃんが助けてくれる。

 一生懸命手を動かして探る。
 引っかかりに指がかかってさえくれれば……祈るような気持ちで必死に指先を動かす。
 縛られた手首が締め付けられるのも腰に当たる痛みも忘れ、ただひたすらそこだけに全神経を集中させていた。


「……あ!」


 左手の人差し指に引っかかりが触れた。
 ぐっと力を込めて指先を曲げると、カチャッという音がして開錠される。それと同時に勢いよくドアが開けられた。
 ドアに寄りかかるようになっていたわたしの身体が後ろに倒れ込むのをお兄ちゃんが受けとめてくれた。そのままギュッと抱きしめられ、その強い抱擁と暖かさに涙が溢れ出す。


「お兄ちゃぁん……」

「今解くから!」


 わたしを後部座席に座らせ、お兄ちゃんが足の紐に手をかけた。
 きつく縛られていた割に意外と簡単に取れた。


「腕……いい! もうそのままで!」


 抱えられるように車から降ろされたけど、足がすごくフラフラした。
 後部座席からわたしの鞄を引っ張り出してお兄ちゃんが乱暴にドアを閉める。

 力強く上半身を支えられてお兄ちゃんに促されるまま小走りで走り出した時、思い出した。


「古い携帯……」

「諦めろ! 今はここから離れるのが先だ!」


 お兄ちゃんの腕の力が強まる。
 生ぬるい風が頬を撫でるように吹いた。ようやく吸えた外の空気がすごく気持ちよく感じたけど、心臓はまだバクバクいってる。


 義父が停めた車の場所からそんなに離れていないところにお兄ちゃんの車があった。
 助手席のドアを開けるや否やわたしはそこに押し込まれ、すぐ運転席に乗り込んできたお兄ちゃんが両腕の拘束を外してくれた。
 やっと手首が開放されてほっとしたのもつかの間、すぐに車が走り出す。いつもならわたしがシートベルトをするのを確認してから走り出すけれど、今日は発車後シートベルトをするよう促された。

 震える手でシートベルトを引っ張った時に助手席側の窓の向こうに義父の後ろ姿が見えた。
 自分の車の方向へ向かって歩いている。こっちには気づいていないようだけど、すぐにわたしがいないことに気づくだろう。

 お兄ちゃんの車はそのまま猛スピードで出口へ向かっていった。
 ようやく生きた心地がして、わたしの身体はすっかり力が抜け、深く助手席に沈みこんでいた。



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Date:2013/11/05
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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