空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 152

第152話 新しい携帯電話

未来視点




 通学中、悠聖くんはとっても眠そうに何度も欠伸をかみ殺していた。
 昨日はなんで高崎さんの家に行ったのか聞きたかったけど、なんとなく聞きづらくて学校まで来てしまっていた。


「今日兄貴に携帯買ってもらうんだろ? よかったね」


 優しい顔で悠聖くんが笑う。
 その表情がわたしにはまぶしくて、少しだけ苦しかった。



**



 十五時に駅ビルの前に行くと、すでにお兄ちゃんが待っていた。
 駅ビルの前は比較的空いていたのですぐにわかった。これから放課後の時間になると学生率が高くなる。


「お兄ちゃん早い! あれ? 鞄は?」

「まだ仕事が終わってないから買ったら学校に戻るんだよ」

「ええっ? 大丈夫なの? たぶん駅ビル内にはお兄ちゃんの学校の生徒もたくさんいると思うし、見られたら……」

「未来は妹だろ? 見られたっていいよ。早くしないとバイト間に合わなくなるぞ」


 ニッコリ笑ってお兄ちゃんがわたしの背中を押す。
 なんだか胸がモヤモヤする。なぜだかとっても複雑な心境だった。妹と言われて、こんなにも胸の奥が疼くなんて。自分が望んだことなのに。

 携帯ショップに着くなりお兄ちゃんがこれ、と指差した。


「え、まだ全然見てないのに」

「見る必要ない。兄ちゃんと同じ携帯でいいだろう?」


 お兄ちゃんと同じ、そういうことなら別にいい。
 だけどそれを態度に表さないよう、照れ隠しに唇を尖らせてうなずいてみせた。


「兄ちゃんは黒を使ってるけど未来は何色にする?」

「ピンクがいいな」

「やっぱり女の子だな」


 お兄ちゃんがくすくす笑う。
 なんだかからかわれているみたいでちょっとふくれたフリをしてお兄ちゃんを睨んでやった。


 さっさと契約を終わらせて帰ろうと急かされる。きっと仕事が残っているのだろう。そんな中でわたしのために時間を割いてくれたと思うと、申し訳ないと思いつつもうれしさがこみ上げてくる。
 同じ携帯会社だから機種変更を勧められたけど、それだと意味がなくなるので新規でお願いした。番号の変更が目的だから。
 電話帳を新規の方に登録移動をしてもらって、古い方の携帯からは全て消去してもらった。


「今までの携帯の電話とメールアドレスも使えるようにしておいてください」


 お兄ちゃんが店員さんにそう告げて、びっくりしてしまった。


「カモフラージュだよ。使っているフリ。とりあえず一ヶ月だけ」


 わたしの耳元でお兄ちゃんが小声で囁く。
 手で隠した耳元が熱くなるのを感じた。まるで恋人同士みたいな行動しないでほしい。やっぱり意識してしまう。そんな気持ちはわたしだけみたいだけど。


「じゃ、こちらに名義人の方のお名前をお願いします」


 説明の途中で必要書類にお兄ちゃんが書き始めた。
 名義人がお兄ちゃん?
 サラサラと必要事項を埋めてゆく。字がすごく上手。お兄ちゃんってこういう字を書くんだ。


「古い方も名義変更します。あと新しい方にオプションつけたいんで説明お願いします」

「えっ? ちょ……」


 どんどん話を進めてしまうお兄ちゃんのワイシャツの袖を引っ張って止める。


「わたしの携帯でしょう? なんでお兄ちゃんの名義? しかも古い方まで……」

「いいから。兄ちゃんはオプションの説明を聞くから、未来はその辺を見ていなさい。だけどショップの外には出るなよ」


 ショップの携帯を見ながら、手の中にある古い携帯を見つめていろいろ考えていた。
 この携帯にはお世話になった。たくさんの文字を打ってわたしの言葉の代わりをしてくれた。
 説明を受けているお兄ちゃんを見ると、動きはなくてまだ時間かかりそうだ。この携帯はまだ使えるから待ってる間に新しい携帯のアドレスと電話番号を悠聖くんに伝えておこう。


  『新しい携帯を買いました。古い方も一ヶ月は使えるので間違えても大丈夫だよ。
   新しい番号とアドレス教えておくね――』


 悠聖くんのアドレスは新しい方の携帯を見ないとわからない。
 めんどくさいけどあとで新しい携帯を見ながらアドレスを手動で入力しないといけない。


「終わったぞ」


 古い携帯をいじっていたら目の前に新しいピンクの携帯が差し出された。


「わぁ! ありがとう。かわいい」

「大事に使えよ」

「うん! 毎月通話料現金払いするから」


 お兄ちゃんがわたしの頭をくしゃっとかき乱してニコニコとうれしそうに笑った。
 こんな時間が本当に好き。ずっとこうしていたい。


「古い方に父親から連絡来たらすぐ言えよ」

「……うん」


 胸が少しツキンと痛んだ。
 なんだか言いようのない、いやな感じがした。



 図書館まで送ってもらい、十九時に車で迎えに来る約束をしてお兄ちゃんは学校へ戻って行った。
 バイトがはじまる十六時まで少し時間があったので、さっき下書き保存しておいた悠聖くん宛てのメールに手動でアドレスを入れて送信した。新しい携帯はまだ使い方がよくわからない。慣れるまで時間がかかりそうだ。

 とりあえず新しい方の携帯は鞄にしまって古い方をポケットに入れ、仕事に向かった。


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Date:2013/11/03
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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