空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 135

第135話 彷徨う心

悠聖視点




 学校を終え、湊総合病院の前で大きく深呼吸をした。

 昨日の夜の未来と兄貴を見て、亜矢さんに会いに行こう決めていた。
 もちろん亜矢さんが今日出勤しているかどうかはわからないけど、ダメもとで来てみた。連絡先を知らないからこうやって訪ねるしか方法はなかった。


 時計を見ると十六時半を過ぎている。

 日勤だったらもうすぐ終わりだろうし、夜勤だったらそろそろ出勤してくるはず。
 最悪なのが今日夜勤明けだったか、休みのパターン。そうなると確実に会うことができない。

 とりあえず兄貴が入院していた九階の東病棟に行ってみることにした。




 病棟用のエレベーターで九階に着くと、目の前にナースステーションがある。
 もしそこに亜矢さんがいなかったら、自分の連絡先を他の看護師に預けて帰るつもりだった。渡してもらえない可能性も考えたけどその時はしょうがない。また日を改めるしかないだろう。


 ナースステーションの前をちら見しながら通る。
 看護師はみんな似たような感じで見分けがつかなかった。白の上下の白衣に髪を束ねているのが一般的なスタイルなのだろうか。


「あのー、誰かお探しですか?」


 後ろから女の人の声で話しかけられて振り返ると小柄なショートヘアの看護師だった。
 向こうから声をかけてくれて助かったという気持ちになった反面、僕の行動が怪しく感じられたのだろうと戸惑ってしまう。でもこっちからは看護師に話しかけづらかったのでこれはチャンスだ。


「看護師の高崎亜矢さん、今日出勤していますか?」


 なるべく丁寧に堂々と話すように心がけた。オドオドしたらそれだけで怪しまれるような気がしたから。すると小柄な看護師は僕を見上げて少し警戒したような顔をした。


「……いますけど、高崎にどういったご用件ですか?」


 その質問でなるほどと思った。
 高崎さんに恋心を抱いて会いに来た学生だと思われたに違いない。そういう場合は簡単に本人に会わせてしまうと危険なこともあるからだろう。


「僕は佐藤悠聖といいます。高崎さんは僕を知っているんで、僕がここに来ていることをご本人に伝えていただけませんか?」

「え……?」

「本当に知り合いなら向こうから来てくれると思うんで、ここで待っています。お願いします」


 僕が頭を下げると小柄な看護師はしぶしぶナースステーションの奥に入って行った。
 ナースステーションから少し離れてエレベーターの前で待っていると、その中から看護師に見られているような視線を感じて無駄に緊張してしまう。


「――悠聖くん? どうしたの?」


 ナースステーションから小走りで白衣姿の亜矢さんが出てきた。
 うわっ! この前と全然イメージが違う。お化粧は薄いし、髪も束ねて仕事ができるって感じ。


「悠聖くん?」


 亜矢さんが僕の目の前で手を振った。


「あ、すみません。急に訪ねてきたりして」

「ううん、どうしたの? 何かあった?」

「今日って何時まで勤務なんですか?」

「私? 十九時までだけど……?」

「待っていてもいいですか? 少し話しをしたくて……」


 亜矢さんが目を白黒させて笑顔で僕を見た。

 あらかじめ書いて持っていた僕の携帯の電話番号とメールアドレスのメモを亜矢さんに渡し、病院の近くのファミレスで待っていると伝えて足早に病棟を後にした。



 ファミレスに入ったのが十七時過ぎ。
 僕は入ってすぐの窓際の四人席に誘導された。店内はまだ比較的空いている。とりあえずコーヒーを注文してお腹が空いたら何か適当に食べようと思っていた。
 課題でもしようと思い、ノートと教科書を出す。あんまり大っぴらに広げないよう教科書はソファのあいている右側に置いた。


 コーヒーを飲みながらいろいろ考えていた。
 僕は一体亜矢さんに何を聞こうとしているのだろうか。何のためにここに来たのか自分でもよくわかっていなかった。僕が気にするのは未来のことだけでいいのに、なんで兄貴の気持ちの方まで気になってしまうのか訳がわからなかった。

 ただじっとしていられなかった。
 僕の今の心境を理解してくれるのは亜矢さんだけのような気がしたんだ。




 十九時少し前に携帯が震え、見ると亜矢さんからのメールだった。
 都合が悪くなったのかと思い、メールを確認すると『待たせてごめん、もう少しで行ける』という内容だったことにホッとする。わざわざ仕事中にメールをしてくれたんだ。待つのは全然構わないのに。

 少し小腹が減ったからフライドポテトを頼んで食べた。
 未来もそろそろバイトが終わる頃だ。メールしてみようかと思い、携帯を手に取る。アドレスを表示させて一度躊躇い、そのまま携帯をテーブルの上に戻した。


 胸の奥がもやもやする気持ちをどうにもできず、冷えたコーヒーを一口飲む。すると口いっぱいに広がる苦味がさらに僕の気持ちを苛立たせた。この憤りをどこにぶつけたらいいのかわからず、途方にくれるばかりだった。



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Date:2013/09/29
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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