空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 130

第130話 隠しごと

柊視点




 十九時ちょっと過ぎに図書館前に着くと、未来は入口で俯いて待っていた。

 その横に車を止め、「待たせた?」と声をかけると未来はすごく驚いた顔をした。
 車が止まったことすら気づいていなかったようだ。何かに怯えているようなその様子にいやな予感しかしなかった。


「どうした? 未来」

「……な、んでもない」


 そう口ごもりながら助手席の方にまわってきて急いで車に乗り込むと、慣れた手つきでシートベルトをはめ、再び俯いた。


「何があった?」


 俺が声をかけると、未来は身体をビクッと強張らせた。
 そのまま俺の方を見ずに首を横に振る。なんとなくだが身体が震えているように見えた。


「父親から連絡が来た、とか?」

「……ううん、来てない」

「じゃどうしたんだ。顔色が悪い」

「なんでもない。早く行こう。遅くなるし、悠聖くん待ってる」


 未来の顔を覗き込むと、俺から目を逸らして助手席側の窓のほうを向いてしまう。
 そう言われてしまうと走り出さないわけにいかず、俺は腑に落ちないまま車を動かした。






 結局、未来の家のアパートに着くまでひと言も話さなかった。

 時々ため息をついたりして何かを思いつめているようにしか見えない。
 話しかけづらくて俺も黙っていた。昨日の夜のこともあるし、多少気まずかった。


 未来の母親はまだ帰ってきていなかった。
 暗い部屋に入ると、茶の間のテーブルの上に白い封筒がふたつ置いてある。ひとつは未来宛、もうひとつは俺宛だった。


 未来が荷物を準備している間、俺はその手紙を読むことにした。
 台所の方を見て刺されたことを思い出すと、なんだか傷の周囲ががシクシクするようだった。あまりそっちを見ないように手紙を開く。


 『佐藤 柊様。
  仕事が終わらないかもしれないので手紙を置いていきます。本当にお世話になります。
  前回お世話になったお礼もお詫びもしないままで申し訳ございません。
  もう一度よろしくお願いします。近いうちに必ずご挨拶させていただきます』


 未来の母親は本当に気を遣う人だと思った。こっちが未来を預かりたいと申し出たのに。
 今日も会えないから、預かったままのこの金を返せない。ここに置いていくのもどうかと思うからまたの機会まで預かっておくしかないようだ。


 俺が背中を向けていたふすまの部屋からボストンバッグをひとつ持った未来が出てきた。
 未来が出てきたあの部屋の中は見たくなかった。あそこで未来があいつに弄ばれたと思うと見られなかった。俺より未来のほうが辛いはずなのに情けない。


「もう大丈夫? それだけで」

「……足りなかったらまた来るから」


 伏し目がちの未来を見るとなんだか切なくなる。
 未来もあの時のことを思い出しているに違いない。


「……なぁ未来。兄ちゃんにできることはないのか?」

「え?」

「未来、今すごく辛そうな顔をしているんだ」


 立ち上がって未来の前に立つと、一歩後ずさりした。
 やっぱりいつもと違う様子に何かがあったと思わざるを得ない。未来の左頬に触れるとビクッと身体が反応した。ぎゅっと目を閉じ、俺の手を受け入れる。


「隠しごとするな」

「うん……わかってる」


 俺の手に自分の手を重ねてにっこりと微笑むが、強がっているようにしか見えなかった。
 
 結局、未来は何も話してはくれなかった。



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Date:2013/09/26
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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