空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 128

第128話 魔性の女

悠聖視点




 未来が話せるようになってクラスメイトもかなり驚いていた。

 今まで未来をスルーしていた奴らもここぞとばかりに声をかけている。
 健吾はニコニコしながら「弓月が話せるようになってよかったな」と僕に声をかけてきた。未来に直接話しかけることはできないらしい。意外とシャイな男だ。


「でもさ、どんなきっかけがあったんだろう?」

「僕も同じことを思った。きっかけがあったと思うよな」

「そりゃそうだろう? 何もないのにいきなりしゃべれるようになるならとっくにしゃべれるようになってるはずだよ」


 健吾の言うとおりだと思う。
 やっぱり普通に考えたら何かきっかけがあったと思うのに、未来はそうは思わないようだった。


「何かすごくうれしいこととか辛いことがあったのかな?」

「え?」

「いや、ただの推測だよ。真に受けるなよ。悠聖」


 バン! と健吾が俺の背中を叩いた。痛い。
 でも健吾の言うことは一理ある。昨日の夜、未来に何があったんだろうか。





 放課後。

 バイトに行く未来を引き止め、終わるまで待っているから一緒にマンションに帰ろうと伝えると、一瞬戸惑ったような表情をした。なんとなくいやな予感がして尋ねると、バイトの後に荷物を取りに兄貴と自宅へ行くと言う。

 それだけならそんな困惑顔をしなくてもいいと思うのに、躊躇いながらも申し訳なさそうに言う未来の態度がさらに不安な気持ちを助長させた。なるべく平然を装って「そうなんだ」と返したが、メールで約束でもしていたのだろうか。

 何かが引っかかる。

 昨日兄貴と未来の母親が話し合って彼女がマンションに戻ることになったと聞いた。なのになぜ未来は昨日マンションに来なかったんだ?

 外で兄貴と未来の母親が話し合って決めたとしても、彼女の家まで戻って兄貴が連れて帰ってくれば問題ないはずなのに。前々から修哉さんの家に泊まる予定があったのだろうか。それとも急いで修哉さんの家に行く必要があったのか。なんだかいろいろ腑に落ちないことだらけだった。


「……未来、昨日何かあった?」

「……えっ?」


 未来の顔がインクを零したように一気に青ざめる。
 その明らかな変化に聞いた僕のほうがビックリしてしまった。何かあったか一目瞭然じゃないか。その内容が何かはわからないけど、こんなにも態度に表すなんて尋常じゃない。


 だけど未来は「何もない」と首を振る。すごくよそよそしい。
 絶対に何かがあったはずだ。何かを隠しているのだろうか。もしかしたら本人が自覚していないだけかもしれない。そう思いたいけど、隠しているのだとしたら恋人の僕に話せないことなのだろうか。


 胸の奥がモヤモヤして、思うように未来と話すことができなかった。
 せっかく話せるようになったのに。未来の声をたくさん聞きたいのに。





 結局よそよそしいまま図書館に未来を送り届け、マンションに帰ろうとした時。


「あっ! 未来の彼氏!」


 そう後ろから声をかけられ、振り返ってみると未来の小学校の時の友達で兄貴の生徒の……。


「えっと……金子さん?」

「麻美でいいよ。同い年だもん」


 ニコッと麻美が笑って僕に近づいてきた。
 黒い髪をポニーテールにしているのが印象的。


「彼氏くんは名前なんていうの?」


 上目遣いに小首をかしげて麻美が聞いて来た。
 いかにも女の子女の子しているその態度に少し違和感を覚える。


「佐藤、悠聖」

「ユウセイくんかぁ。変わった名前だねぇ」


 結構ぶっきらぼうに答えてしまって後悔したが、麻美は気にしていない様子。
 こっちの態度なんてお構いもせずニコニコとうれしそうな笑顔を向ける。結構打たれ強い子なのかもしれない。


「ところで悠聖くん。あなたと未来、うまくいってるの?」

「――はい?」


 麻美の質問の意味がよくわからなかった。
 僕の反応を見ているかのような麻美の強い視線を感じる。「うーん」と麻美が一度唸って腕を組んだ。横目で見上げられるような視線が痛い。


「ま、悠聖くんに言ってもしょうがない……か、ごめんねぇ、引き止めちゃって」


 ポンポン! と麻美が僕の肩を叩いて図書館の入口に向かって去っていく。


「あ……っ! あの?」


 僕が引きとめようと麻美の後姿に声をかけると、彼女の足が止まった。
 いきなりこちらを振り返ると、怒ったような表情の麻美が僕を睨んで指差した。


「言っておくけど未来は魔性の女だよ」

「――え?」

「忠告はしたからね。じゃあね! 悠聖くん」


 麻美はニッと笑って前に向き直り、手をヒラヒラさせる。ポニーテールが激しく揺れた。


 ……未来は魔性の女?


 麻美の言いたいことの意味が全くわからなかった。
 でもすごく気になる。どういうことなのか詳しく聞きたい。こんな気持ちのまま家に帰っても悶々とするだけだ。


 僕は図書館に入っていこうとしている麻美の後姿を追った。



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Date:2013/09/25
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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