第127話 ずるい自分柊視点
朝、未来が俺の頬にキスをした。
そして「大好き」と声に出して言ってくれた。それだけでもう充分だった。
俺は未来を愛している。一生未来だけでいい。
たとえ結ばれない運命だとしても未来だけを思い続ける。その思いだけで生きてゆける。
未来がシャワーを浴びてベッドルームに戻って来たこともすべて知っていた。
俺はあえて寝たフリをしていた。するとクローゼット前で未来は寝衣を脱ぎ出した。まさかその場で脱ぎだすとは思わず、だけど下手に動けばバレてしまうと思いその場で固唾を呑んでじっとしてしまった。そして、一糸纏わぬ未来の裸の後姿を見てしまったのだった。
真っ白な肌、くびれた腰、背中は薄くて頼りなさそう。小さなお尻は桃みたいだ。
じっくり見てしまって欲情しそうになる自分を押さえるのに必死だった。
本当はずっと見ていたい心境だったけど、未来はすぐに下着をつけ制服を着てしまった。実父が未来に魅せられる気持ちが認めたくないけどわかってしまう。そんな自分に憤りを感じたけどどうにもならなかった。
未来は妹なんだ。もう二度とそういう目で見てはいけない。
でもあまりにきれいすぎて苦しかったんだ。
**
ホテルを出てから近くのファストフードで朝食をとり、俺はマンションへ戻った。
着くなり悠聖が心配そうな顔で出迎えてくれたのに、ゆうべは修哉の家に泊まったと咄嗟に嘘をついてしまった。心苦しいとしか言いようのない気持ちで胃から胸の辺りが冷えたようになる。
「それならそれで連絡くらいしてよ」
悠聖が熱いコーヒーを淹れてくれた。
申し訳なさでいっぱいだったけど耐えないといけない。俺は罪悪感を抱く資格すらない男なんだ。
「……あぁ、すまなかった」
「ゆうべは未来とも連絡取れなかったし、雷酷かったし。未来のお母さんと会ったんだよね? 外で?」
「……あぁ」
「じゃ、未来には会わなかったんだ」
コーヒーを飲んで誤魔化した。
頼むからこれ以上勘ぐらないでほしかった。嘘をつくのが辛い。それに悠聖は鋭いからどこから嘘がバレるか気が気じゃない。
「未来のお母さんと相談して、またしばらく未来はここで暮らすことになったから」
「――えっ?」
「未来の家の引っ越し先が決まるまでだ」
「……僕は構わないし、むしろうれしいけど」
顔を綻ばす悠聖をじっと見据えた。
本当にうれしそうに破顔しているのを見て、ゆうべの後ろめたさもあり、そのままでいさせてやりたかった。だけどちゃんと伝えておかなければならないことがある。
「未来のお母さんは俺とふたりで生活していると思っている。悠聖が一緒に住んでいることは知らないから、ここで深い仲にはならないでくれないか。預かっている以上責任がある」
悠聖は真剣な表情で俺をじっと見て、大きくうなずいた。
大事なことを伝えたつもりだが、さりげなく釘を刺してしまった自分に心の中で自嘲する。理由を知ったら汚いやり方だと罵られるかもしれない。俺は何を言われても非難されても構わない。なるべく、少しでも未来に触れさせたくなかった。たとえそれが無駄な足掻きだったとしても、くだらない嫉妬だと思う。
本当は悠聖を実家に帰したかった。でもそうする理由が見つからなかった。
未来とふたりで住んでいても自分のものにならないのなら、悠聖がいても同じ。ただこれは俺にとってはの話だ。
未来にとっては悠聖がいない方がよかったのかもしれない。
なるべく未来と悠聖がふたりっきりにならないようにしたい。たとえそれが俺のエゴだとしても。
ずるい兄貴でごめんな。
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