空色なキモチ

□ VOICE □

VOICE 125

第125話 結ばれない運命

柊視点




 俺の感情が泡のように弾け、気づいた時にはベッドから飛び起き正坐をしていた。
 そんな俺を未来は目を丸くして見つめている。

 うつ伏せになった未来の右手を掴むと「ひゃっ」と小さな声を上げた。
 そのまま未来の身体を強引に半分仰向けのような横向きの体勢にしてしまい、俺は後悔することになる。未来の胸元が少しはだけて小さな谷間を目の当たりにしてしまったから。

 驚愕する未来の表情にもその姿にも、湧き上がるような欲情を持て余す。

 このまま一気に未来を……そんな思いも脳裏に過ぎった。
 小さな掠れた声で「お兄ちゃん」と漏らす未来。俺を見上げる瞳がキラキラ光って見える。それがさらに俺の感情を揺さぶり、煽り立てた。その事実を未来は気づいていないだろう。

 未来の右手をそのまま倒してベッドに縫いつけるようにすると、自然と身体が仰向けになってくれた。
 上半身だけで押し倒したような体勢になり、よく見ると未来の上半身が揺れているのに気づいた。震えてはいない。だけど胸郭が上下に大きく動いているのがわかる。呼吸のせいでこんなふうになるだろうか。


「俺が……怖い?」


 未来が俺の目をじっと見て首を横に振った。


「怖くない。でもダメ……お兄ちゃん……」


 未来の目元が涙で濡れた。
 潤んだ瞳が俺を捉え、その瞳に映る自分を見るのが怖かった。


「わたしは、悠聖くんと……」


 ギュッと目を閉じて辛そうな未来の顔を見たらいたたまれなくなった。
 同時に申し訳ない気持ちになり、その右手を解放し、未来に背中を向けてベッドサイドに座る。そのまま頭を抱えて大きくため息をついてしまっていた。


「……何もしないって約束したのに、ごめんな」


 自分がひどく情けなく感じた。

 未成年の、たった十五歳の少女に欲情し、理性が崩壊しそうになって襲いかかろうとするなんて。もちろん未来をどうにかしようだなんて思ってはいなかったが、全くその気持ちがなかったといえば嘘になる。
 高校生相手に高校教師のすることじゃない。許されない行為。俺が我慢しないといけないのに、未来の方がずっと冷静だ。


「おに、ちゃん……ごめん……」


 後ろで未来の震える声が聞こえて振り返ると、仰向けのまま両手の甲で目許を隠して涙していた。


「わたしのせいで……お兄ちゃん……好きなのにっ、悠聖くんも……大事なの」


 途切れ途切れに搾り出すように未来が声を上げる。
 それははやっぱり透明感のある声で水のようで……余計心の奥を刺激されるような感覚がした。


「裏切れ……ない……もう悠聖くんを……傷つけたく……ない!」


 俺はゆっくり未来に向き直った。
 そうだよ。俺だって悠聖を傷つけたいわけじゃない。そもそも最初から未来は悠聖のものであって、奪いたいだなんて思うのが間違いだったんだ。


「わかった、もういい」

「ごめんなさい……お兄ちゃん……」


 そっと未来の頭を撫でる。
 辛そうな未来を見ていたら俺も切なくなった。

 俺と未来はダメなんだ。結ばれない運命だった。

 そう思うしかない。俺があの父親の息子だと知れば、自然に嫌われるはず。だからこれでよかったんだ。





 しばらくそうしていると未来の泣きしゃっくりが落ち着いてきた。


「もう寝よう。明日も学校行かないと。明日からまた兄ちゃんの家でしばらく生活するんだ」

「……え?」

「兄妹なんだから一緒に暮らしてもおかしくないだろ?」


 俺が笑って言うと、きょとんとした表情の未来が静かにうなずいた。
 彼女へ向けた笑顔がひきつっていないかどうか不安だった。俺はちゃんと笑えているのだろうか。


「悠聖がいても平気だよな」

「……うん」

「ひとりで眠れないならまた和室で三人で寝る。いいな。もちろん兄ちゃんが真ん中だぞ」

「うん」

「でも、今日だけはふたりで……」


 未来に腕枕をした状態で抱きしめた。これが最後の添い寝になることを未来もわかっているはずだ。
 俺の胸にピッタリ寄り添い、小さな寝息を立てて未来が眠る。その細い右肩をしっかり抱きしめ、二度と離したくなかった。 

 でもしかたがないんだ。ふたりでそう決めたのだから。だけど――

 
「大好きだよ、未来」


 そう聞こえなくらい小さい声で囁いた。 
 自分の気持ちを押し込めるためにその言葉を心の中で反芻する。

 これからは今まで通り心の中だけで未来を思い続けてゆく。
 未来にもこの気持ちを告げないように……それくらいなら許されるよな。

 そう自分に言い聞かせることしかできず、胸の奥が引き裂かれるような痛みを未来の頼りない細い身体を抱きしめることで堪えるしかなかった。


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Date:2013/09/24
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Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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